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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第5章 獣王国襲撃

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第154話 やはり真面目な男の話

「――なるほどねぇ、そんなことが。まさか自分の像を踏みつけてそんなことするとは思わなかったな~。

 少なくとも過去を共有している私からすればとんでもないバカな行動だね」


「やっぱりさすがにあの行動は相当なことをやってたんですね。

 こちらとしてもそんな行動をした人がまさか勇者とは思いませんよ」


「そもそも勇者はずっと行方不明って言われてたし。挙句には死んだと」


「死んでるとは思わなかったな。だけど、めちゃくちゃ心配したし、まさか裏で魔族の少女と一緒に旅をしてるとは思わないよ」


 クレアとハルからナナシの話を聞いたシルヴァニアは頬杖をついて苦笑い。

 彼女の記憶ではナナシという人物は堅物の真面目バカという印象なのだ。

 それが自らを道化師と名乗り、そんなまんまバカな行動をするとは思わなんだ。


「で、これが別れ際に渡された物」


「手紙?」


 シルヴァニアはクレアから渡された封筒を受け取る。

 封を開け、中に入っている紙を取り出し、その文面に目を移した。

 内容を読んでいると「ははっ」と思わず笑みがこぼれた。

 内容がなんというか真面目なのだ。昔と変わらず。


 手紙の内容は一緒に旅をしている魔族の少女ミュウリンについて。

 そのミュウリンを聖女シルヴァニアに保護対象としてもらった理由や、自分が魔族に対してどう思っているか、そして魔族と人族についての今後の未来についてなどが事細かく書かれていた。


「ハァ~、結局根が真面目だから書く文章も固いこと固いこと。

 やっぱりどんなにアホな行動をしていても根本的な性格は変わらないってことね」


 全てを読み終えたシルヴィアは疲れた息を吐く。されど、その顔はどこか嬉しそうで。

 そして、読み終えた手紙を机に置くと、封筒をクレアへと戻した。


「はいこれ。中に私とは別宛の手紙も入ってたから戻すわ。

 全く一緒に入れとくなっての。こういう所は妙に雑なんだから」


「そういえば、封筒の中に手紙とは違う何かが入ってましたけど、それは受け取らなくていいんですか?」


「大丈夫よ、それは私に対しての物じゃないから」


「なら、誰宛なんですか?」


「本人に聞いてみれば? ほら、これあるし」


 シルヴィアが指に挟んでクレアとハルに渡したのは、一辺5センチほどの正方形の魔法陣が描かれた紙。

 その紙を二人はまじまじと見つめる。


「これは?」


「簡易転移魔法陣ってところかな。本来は術者の魔力を使用して発動する使い切りみたいな魔法陣なんだけど、その紙と対になっている紙を持ってる人が代わりに魔力を肩代わりしてるみたいだから使い放題よ」


「つまり、その発動者って.......?」


「そりゃもちろん、あのバカでしょうね」


 瞬間、ハルがガタッと立ち上がる。その行動に隣に座るクレアはビクッと反応。

 「どしたの?」とクレアが声をかければ、どこかハンターの目をしたハルは答えた。


「これがあればいつでもどこでも会いに行けるってことだよね?」


 ハルのしっぽがぶんぶんと揺れる。

 さながら強めの送風をする扇風機のごとく。

 その風の勢いでクレアは目をしばしばさせていた。


「それじゃ、ちょっと行ってくる」


「え、ハル? ちょ、ま――」


―――シュン


 ハルは親友に一言告げるとあっという間に飛んで行ってしまった。

 向かった場所はどこか。当然、彼女の想い人の所である。

 そんな光景にはシルヴィアも思わず口をあんぐりとさせた。


「え......一服盛られた?」


「いえ、惚れ薬を飲まされたとかじゃなく、正真正銘のガチです。

 あの復讐相手にしか執着しなかった子が.......まぁ、年頃だし多少はそういう多感な感情を抱えてもいいかと思ってましたけど、相手がなんというかその......」


「悪い相手じゃないことは保証するけど、正直苦労するよ。

 気づいててもあえて無視するような相手だし」


「.......もしかしてシルヴィアさんも――」


「ただいま」


 ハルが戻ってきた。その声にクレアが振り向けば、その姿にギョッとする。

 なぜなら、親友の口に赤い口紅のようにべっとりとついた血の跡があったから。

 体感にして数分の間に親友は何をしたのか、とクレアが困惑するのは当然のことだ。


「は、ハル? その口元の血は......?」


「ん? あぁ、これ? ナナシの首元につけた痕が消えてたから再度首筋に嚙みついてきただけ」


「なにそれ辻斬りじゃん......」


「辻斬りというか辻噛みだね」


 親友の突拍子もない行動にクレアは苦笑いどころか引いた。

 彼女にとって親友の行動に引くのは人生でもこれが初めての出来事だった。


「でも、ただ噛みついただけじゃない。ちゃんともう一つの手紙のことについても聞いてきた。

 これは獣人国にいるとある人に渡すものらしい」


「とある人?」


「今、ナナシが連れてる獣人の子の保護者」


****


 二週間後、ハルとクレアは獣人族が住む国である獣王国バントリオンに来ていた。


「ここにヒナリータちゃんの親御さんがいるんだよね」


「うん。他の子達に情報を集めてもらったから確実」


「そっか。それじゃ、行こっか」


 クレアとハルは仲間達からの情報を頼りにヒナリータの親がいる家まで歩く。

 家のあった場所は国の都心部から離れたスラム街に近い場所。

 スラム街より酷くはないが、それなりに貧しい家が立ち並ぶところであった。


 当然ながら、その場所の治安はあまりよくない。

 しかし、二人もスラム街に住んでいた住人だ。

 空気感には慣れているし。ちょっとやそっとじゃビビらない。

 途中絡んでくる連中がいたが、適当にあしらいつつ目的地へ。


「はーい、少しお待ちくださいね~」


 扉をノックすると、奥から一人の女性の声が聞こえた。

 そして、扉が開かれ、栗毛色の髪をした女性が出迎える。


「すみません、お待たせしてしまって.......って、あのーどちら様でしょうか?」


「あなたへ手紙を届けに来たものです。

 お間違いでなければ、ヒナリータちゃんのお母様でお間違いないでしょうか?」


 その瞬間、母親の目がカッと開かれ、クレアの肩を両手で掴んだ。


「ヒナは! 私の娘は生きているんですか!?」


「お、落ち着いてください! 大丈夫です、娘さんは生きています。

 私達もしっかりと目撃していますから安心してください」


「そうですか。良かった.......あ、すみません、取り乱してしまって。

 何のおもてなしもできませんが、どうぞあがってください」


 ヒナリータの母親に案内され家に入るクレアとハル。

 二人はリビングにある椅子に座ると、早速封筒を渡した。

 その封筒を受け取った母親は手紙を取り出し、読み始める。


「『拝啓、ヒナリータの親御様へ。初めまして、私はナナシと申すもので、今は娘さんを元居た場所に返すために一緒に旅をしているものです。他にもミュウリン、レイモンド、ゴエモンという三人の頼もしい仲間も同行しており、親御さんのもとへ娘さんを必ず送り届けることをお約束します――』」


 その後、普段道化師として振舞っている男とは思えない丁寧な言葉でこれまでの旅について綴られていた。

 その文章には母親へと気遣いにも溢れていて、その極めつけが封筒に添えられていた牙であった。


「ふふっ、どうやらうちの娘は楽しい旅を過ごしてるみたいね。

 親の心配をよそに......いえ、その心配を杞憂にしてくれるための手紙がこれよね。

 どうやらこの手紙の持ち主は相当真面目なようね。こんな古い誓いの証を渡すなんて」


「古い誓いの証? その牙が?」


「えぇ、獣人族はもとは獣。獣が人の姿となった私達とされているわ。

 そして、牙は獣であった私達にとって力の象徴なの。

 その牙を折って渡すということは『あなたに敵対する意思はありません』って意味になるのよ。

 でも、今時こんな古い方法を知っている人はいないわ。

 私ですらおじいちゃんに話から聞いたぐらいだもの」


「確かに、それは真面目ですね」


「えぇ、それだけにこの手紙の人の誠意が強く伝わってくる。

 どうやら娘は良き出会いに恵まれたみたいね。良かったわ」


 母親は優しく抱きしめるように手紙をそっと胸に押し付けた。

 そんな彼女の表情は安堵と笑みに溢れている。


「ハル」


「うん」


 クレアとハルは顔を見合わせ、立ち上がる。

 これ以上長居するのは無粋だ。今はそっとしてあげるべき。


「それでは、あたし達はこれで」


「娘を送り届ける予定だからまたそう遠くないうちに会えると思う」


「そうね。その日を楽しみにしておくわ」


 そして、ハルとクレアは家を去った。

 その帰り道、夕暮れになっている空を見ながら呟く。


「やっぱり道化師ってキャラじゃないよね」


「うん。似合ってない」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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