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第147話 エンドロールの裏側#1

 カランカランと赤い核が地面に落ちる。

 その後、強固だった鎧は粘性のある液体のようにベチョッとクレータに広がり、ドロロンは動くことは無かった。


「嘘だ......おでが......おでが負けるなんて」


「これが絆の力。ヒナだけの力じゃきっとここまで辿りつかなかった。

 だから、これはヒナ達の勝利。でも、強かった。それだけは認める」


「そうだど......おでは強いんだど......」


 そう言ってドロロンの姿が粒子状になって消えていく。

 すると、割れた核も固体から液体に代わり、片方の欠片からペンダントが現れた。

 どうやらドロロンはそれを核にしまって肌身離さずもっていたようだ。


 ヒナリータがそれを拾い、胸元に近づいた瞬間、それは眩く輝き出した。

 勇者は咄嗟に手で傘を作り光を遮りながら様子を伺う。

 すると、魔法袋からひとりでに緑、青、赤のクリスタルが動き出し、同じく空中に浮かび上がったペンダントと合体。


 直後、一段と眩い光を放ったかと思えば、出来上がったのはクリスタルつきのペンダントである。

 そして、それは精霊王ビクトリアが求めていたこの世界にとって大切なものであった。


「どうやらこれが最後のアイテムみたいだね」


「うん、これを精霊王に持っていく。だから、帰ろう。報告しないといけないし」


*****


―――カァカァカァ


 勇者一行がビクトリアの住む国に戻ってくると、空を飛ぶカラスが帰ってきた頃を喜ぶように鳴きながら飛びまわる。

 そんな光景をぼんやりと見つめていたナナシは、目の前から覚えのある気配を感じて前を向いた。


「皆さ~ん! ご無事でなによりですぅ~!!」


 そう叫びながら飛んできたのは最初にこの場所へ案内してくれた精霊少女ビビアン。

 彼女は両手を大きく広げてヒナリータの顔面にビタッと張り付けば、泣きながら頬ずりをして喜びを表現した。


 そんな少女を若干鬱陶しいと感じたのか勇者は彼女の襟を摘まんで引き離せば、離されてジタバタする彼女に再び抱き着かれないようにそのままの状態で話し始める。


「ただいま、ビビアン。無事に頼まれたことは果たしてきた」


「そのようで! 首に下げているペンダントからビクトリア様の気配が伝わってきますからわかります!

 それじゃ、お疲れのところ申し訳ないですが、ビクトリア様への報告だけお願いします」


 ビビアンに案内され歩き始める勇者一行。

 その際、好奇心旺盛な彼女から旅での出来事を聞かれ、勇者一行は思い思いに話をした。

 そんな旅の話は彼女によって刺激的だったようで「私もついていけばよかった」というほど。


 しばらく話しながら歩いていると、いつの間にか王の間までやって来ていた。

 そして、勇者一行が大きな両扉を抜けると、正面に威厳のある佇まいのビクトリア王が――


「あああああぁぁぁぁぁ~~~~っ! 無事でよかった~~~~!」


 威厳も何もなくブワッと泣き出し、そのままヒナリータに駆け寄れば抱き着いて頬擦り。

 この世界の精霊は泣きながら喜ぶことがあると頬擦りする文化でもあるのだろうか。


「ヒナヒナ~~~~! ありがとう、ヒナヒナ~! ヒナヒナ~!」


「......」


 喜び感情を爆発させるビクトリアの一方で、ヒナリータの顔は虚無であった。

 さながら飼い主の過剰なスキンシップに鬱陶しさを感じながらも為すすべもなくされるがままの飼い猫のように。


 先のビビアンのように引きはがせる手のひらサイズであれば良かったが、ビクトリアは身長が百八十センチ近くあるため、その巨体でホールドされれば容易に逃げ出せないのだ。

 だからこその虚無。ただ漠然と天井のシミを数えるような目をして。


「女王様、いい加減にしてください」


 その時、暴走するビクトリアを止めたのは彼女の秘書的ポジションであるサトリンであった。

 彼女は女王の首根っこを摑まえながら、恭しく頭を下げる。


「任務ご苦労様でした。

 無事にペンダントが取り戻せたのは一重に勇者様達の力があったおかげです。

 それに今日は帰ってきたばかりでしょうし、簡易的な報告だけで構いません。

 詳しいことは後程にして早めにご自愛なさってください」


「えぇ~、サトサト~、お帰りなさいパーティしないの? しようよ、ね?」


「することは否定しませんが、勇者様達のことも考えて言ってください。

 というわけで、こんなあんぽんたん女王は放っておいて休んでもらって構いません。

 ですから......ゴホン、改めてお帰りなさい」


「お帰り~っ!」


 一体どちらが王としての威厳を持っているかわからないサトリンとビクトリアであったが、二人からの「お帰り」という言葉にはとても温かみがあった。

 だからこそ、ヒナリータは今この瞬間“勇者”という任が解かれ、少女として答えた。


「ん、ただいま」


―――その日の夜


 皆が寝静まったであろう夜でパチッと目を覚ましたナナシ。

 マットレス代わりにしてた小皿から起き上がると周囲を見た。

 周りにいるのはミュウリンとヒナリータ、そしてレイモンドの三人である。


 所謂女子部屋にナナシがいるのは主にミュウリンに連行されたせいなのだが、彼が小動物の姿のためか意外にもヒナリータとレイモンドから許可が出たので彼は相部屋として利用してたのだ。


 そんな彼はそろりそろりと音を立てないように机から椅子、床と経由して降りていく。

 そして、ドアまで近づけばハイジャンプでドアノブに乗り、そこから体重をかけてドアノブを捻ってドアを開ける。


「......ん、ナナ兄......?」


 その声にビクッとするナナシ。

 寝言かと念のため振り返って確かめてみれば、目を擦って体を起こしているヒナリータの姿があった。彼に冷や汗が流れ始める。


「ナナ兄、どこに行くの?」


「......ゴエモンの部屋に戻ろうとしてただけさ。

 やっぱ仲間とはいえ淑女と一緒の部屋ってのは気が引けてね。

 相部屋は同性の方が気が楽なんだよ。わかるだろ?」


「......」


 もっともらしい言葉でごかますナナシ。

 そんな言葉にヒナリータの訝しむような目線が飛んで来る。

 これはバレたか......?


「そう。ならいい。なんかふらっと消えそうな気がしたから気になっただけ」


「そんなことしないさ。俺はヒナちゃんとの旅をもっと楽しみたいからね。

 だから、おやすみ。起こしちゃって悪かったね」


「ん、睡眠を妨げた罪は高くつく」


「ハハッ、それは怖いな」


 ぽふっとベッドで横になって再び眠りにつくヒナリータ。

 そんな彼女の寝息が聞こえた始めた所で、ナナシはホッと息を吐き部屋を出る。

 すると、彼に「ようやく来ましたか」と声をかける人物がいた。

 寝巻姿に枕を小脇に抱えたビビアンである。


「もうこんぁ~~ふぅ、夜更けにレディを呼び出すなんて無神経なネズミですね。

 で、わざわざこんな時間に指定して一体話ってなんですか?」


「それは移動しながら話そう。少し時間が惜しいからね」


 ナナシが走り出し、その横をビビアンが低空飛行し始める。

 そして、程よく仲間がいる部屋が離れた所で彼は話始めた。


「ビビアンさ、この精霊界と人間界を繋ぐ場所って知ってる?」


「そりゃ知ってますが......でないと外界に出れませんし。

 なんです? 一足先に外に出たいんですか?」


「端的に言えばそうだね。でも、もう一度戻ってくるつもりだよ」


 そんなナナシの言葉にビビアンは怪訝な目を向けた。


「さっきこっそりと出てきた感じからして仲間の皆さんにはバレたくない感じですよね?

 ですけど、どう頑張ってもこの世界と外界の時差からは逃れられないと思いますけど」


「それに関しては大丈夫。なんたって精霊は神の眷属であるなら、この精霊界には多少なりとも神気があると思うからね」


「はい? そりゃありますが......それは女神様にしか扱えない魔力のはずですよ?」


「......なんとなくだけどね、たぶん使うの初めてじゃないんだ」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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