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第146話 ラスボス戦 ドロロン#4

 ドロロンとの戦いは最終決戦を迎えようとしていた。

 全ての力を解放したラスボスは黒騎士となり、勇者一行に牙を向く。

 その威力はたった一撃でもって全体に多大なダメージを与えるほど。


 しかし、それでも勇者一行は諦めない。

 これまでの旅はこのラスボスを倒すための旅であったといっても過言ではないからだ。

 この精霊が住む世界を脅かそうとするラスボスを倒し、世界を救うことが彼らの悲願。

 もはやそれ以外に一切の邪念は無い。


「おでを倒す......? なら、その前に倒すだけだど!」


 ヒナリータの言葉に触発されたドロロンが動き出す。

 体は姿形を消すように勇者の目の前から消え、再び現れた時には勇者の背後。

 その気配を感じ取った勇者はすぐさま背後を向きつつ、同時に後退する。


「逃さないど! 斬々舞!」


 ドロロンは剣を素早く振りまわしいくつもの斬撃を一つに重ねて放つ。

 その攻撃はヒナリータまであっという間に距離を詰め襲い掛かった。


「させるかよ!」


 瞬間、ゴエモンが間に割って入り、二刀の剣技でもって斬撃を捌いた。

 それによってヒナリータは助かったが、代わりにドロロンの標的が彼へと移る。


「邪魔するなど!」


 ドロロンは背中から生える六本のサソリの尻尾のような触手を伸ばし、迎撃直後のゴエモンの両手両足を拘束した。

 そして、触手で自身の体を巻き取りながら彼に近づくと、両手に握った剣を振り下ろす。


「不味いっ!」


「それもさせない!―――ミミックシープ」


「ミュウリン!」


 ゴエモンに剣が振り下ろされた直前、ミュウリンが羊毛でモコモコとさせた身一つで割り込む。

 当然、その後の結果は明らかで、ミュウリンの体はドロロンの剣によってバッサリ斬られた。

 その出来事には守られたゴエモンすらも顔を真っ青にさせて叫んだ。


「グフフ、これで一人――」


「ざんね~ん、ボクはこっちだよ」


「なぬっ!?」


 直後、ドロロンが斬った体は形を崩して地面に広がった。残るはただの羊毛のみ。

 そして、ミュウリンはというとラスボスの背後に回り込んでいたようだ。

 同時に、そこから繰り出されるはヒツジによる怒りの鉄槌。


「ボクは戦える僧侶なんだよ――シープレス」


 ミュウリンはドロロンの背中に手を当てると、まるで発勁(ハッケイ)でもするかのように体に巡る魔力をインパクトとして放った。


「ぐっ! 痛いど!」


「ぬわぁ!?」


 背中を逸らし吹き飛ぶドロロン。されど、相手はラスボス。タタではやられない。

 ラスボスは触手でミュウリンの足を絡めとり、壁に向かって投げ飛ばす。

 それによって投げ飛ばされた彼女はというと思いっきり瓦礫の山に突撃していった。


「今がチャンスだ! 畳みかけるぞ!」


 レイモンドはミュウリンを尻目に全体に突撃の合図をかける。

 攻撃された仲間の心配は山々だ。

 だが、それでこの攻撃チャンスを逃すわけにはいかない。

 それにうちの仲間はこれでやられるほどヤワではないと知っている。


「ウザいど!」


 ドロロンは二本の触手を地面に刺し、空中で器用に浮かぶ。

 その状態で背中の残り四本の触手を近づいてくるレイモンドにぶつけた。


「くっ!」


 ガンガンガンと触手の強い衝撃に防戦一方のレイモンド。

 しかし、彼女が攻撃を耐えている間に後ろからはヒナリータが近づいている。

 また、小さくて見落としがちなあの小動物の姿もない。


「ネズミ斬」


「猫美剣」


 ゴエモンに投げてもらいドロロンの真上から奇襲をかけるナナシと、ラスボスの背後から強烈な突き技を繰り出そうとするヒナリータ、そしてラスボスの横からスピードを活かして強襲をかけるゴエモンによる挟撃。

 そんな勇者一行の反撃に対するラスボスの行動は一つ。範囲攻撃だった。


「エレメントブラスト!」


 直後、ドロロンの全身から放たれるのは雷を拡散させたスパーク、ヤマアラシの背中のような氷のトゲ、ランダムに飛び交う風の刃、四方八方に拡散する暗黒の光線。

 まるで隙が無い一斉攻撃に、攻撃のために近づいてきていた三人は被弾から逃げれない。


「まだ終わらぬど――エクスプロージョン!」


 ドロロンは己の体を削りながら更なる追撃へと打って出た。

 自身のHPを残り一割になるまで代償として失う代わりに絶大なダメージが約束された攻撃。

 ラスボスがやったことは単純だ――そう、自爆である。


「タートルシールド!」


「羊の薬笛!」


 レイモンドが咄嗟に全体に魔法をかける。また、ミュウリンが全体回復魔法を発動させた。

 それにより、爆心地に近いヒナリータ、ナナシ、ゴエモンは体力を回復し、入り口全体に広がっていく爆発はシールドによって防がれた。


 されど、そのシールドが持った時間はたったの三秒。

 各々にシールドをかけた分一枚一枚の強度が低下しているのだ。

 加えて、自身のHPを代償するにほどの攻撃であり、そもそも超火力というのもあるが。


 ゴゴゴゴゴッと爆発はその場にあるあらゆるものを飲み込んでいく。

 中央階段も、数多に転がる瓦礫も、二階の床部分も一切合切を火力で滅ぼす。

 当然ながら、シールドが破れた勇者一行にとって致命的なダメージとなるのは間違いない。


 爆発は一定の大きさまで広がると、次第に収束し辺りを砂煙で覆い隠す。

 真下に出来た直径十メートルほどのクレータの中心に立っているドロロンは息を切らしていた。


「ハァハァ.......これでどうだど。おでの十八番......シールドなんかで防げるものではないど」


 ドロロンとて代償によるダメージは大きい。故に、すぐに追撃とはいかない。

 加えて、このラスボスはHPを削ったことでピンチという立場にいるのだ。

 先の爆発で勇者一行の一人でも立っていれば、それは非常に不味いことになる。


「......ん? ま、まさか!?」


 そして、ドロロンにとって不味い事態は現実になった。否、なってしまった。

 クレーターから見上げるラスボスの視線の先には、砂煙に紛れて穴の縁に立つ耳の生えた小さなシルエットが見える。

 また、そのシルエットの頭部には小さな動物の姿も確認できた。


 やがて煙は晴れる。

 そこには剣を地面に突き刺し立つヒナリータと、勇者の頭の上で腕組みをするナナシ。

 それだけではない。二人の周りには今にも死にそうなほどぐったりしているゴエモン、ミュウリン、レイモンドの姿もあった。


「な、なぜ生きているど!? おでの攻撃は紛れもなく直撃してたはずだど!?」


 あまりにも窮地に追い込まれたドロロンは慌てふためく声で叫んだ。

 それに対し、ヒナリータは強い闘志を宿した目をしながら答えた。


「それは皆が助け合ってくれたおかげ。

 レイ姉がシールドで時間を稼ぎ、その間にミュウ姉が全体回復でHPを回復。

 それから、ナナ兄が継続回復で体力を保たせ、ゴエ兄が壁に激突するヒナを助けてくれた」


「おかげでレイとミュウリン、それからゴエモンは魔力枯渇と体力消耗でグロッキーだけどね。

 ま、ゴエモンに至っては俺が使う分の魔力を渡してもらっただけだけど」


 その言葉にドロロンはほくそ笑む。


「そうか。なら、お前達二人さえ倒してしまえば終わりというわけだど!」


「理論上はそうなるな」


「出来ればだけど」


 希望が見え始めたドロロンに力だ戻り始めた。気配が再び強くなる。

 しかし、そんな気配に今更ビビるヒナリータとナナシではない。

 それ故の減らず口である。


「ヒナちゃん、これがラストアタックだ。ならさ、アレやってみない?」


「アレね。わかった。ヒナ達なら出来る」


 僅かな言葉で互いの意思疎通を交わす。二人の絆が為せる技である。

 そして、その絆が紡いだもう一つ技がこれから行われる攻撃だ。


「んじゃ、いっちょ行ってみようか――電鼠(でんチュウ)!」


 ヒナリータの頭からぴょんと飛び出したナナシは体に雷を纏い、そのままクレーターの坂を駆け降りる。


「こっちに来るな!」


 近づくナナシに対し、ドロロンは六本の触手で応戦していく。

 しかし、ただでさえ速いネズミが雷を纏ってさらに速くなったために当たらない。

 加えて、その触手を利用されて縦横無尽に鋭い前歯で触手を齧られまくる始末。


「ぐっ! 来るな! 来るな! 来るな!!」


「そんな寂しいこと言うなよ。今からとっておきを見せてやんだからな! 窮鼠――」


 ドロロンの前に現れたナナシはさらに速い動きでもって縦横無尽に駆け回り、ラスボスの体を斬り裂きまくる。

 そして、その彼の後方にはまるで居合斬りをするかのような構えで佇むヒナリータの姿が。


「スーッ......ん!」


 ヒナリータは短く息を吸い込み、走り出す。

 その方向は揺らぎないほど真っ直ぐ。

 なぜなら、最短距離はすでに開けられてるから。


「猫――」


「っ!?」


 そして、ヒナリータは何の障害もなくドロロンの懐に入る。

 それに気づいたラスボスは咄嗟に剣を振り下ろす。

 それに対し、勇者は未だ納刀状態。


 刻一刻と剣が振り下ろされる刹那、ヒナリータは柄をギュッと握った。

 瞬間、勇者の脳裏に思い浮かぶはこれまでの自分の歩んだ記憶。

 突然攫われたかと思えば平穏とは真逆の地獄のような生活を強いられ、毎日手足の感覚が無くなるような寒さで生き続けた日々。


 その地獄の環境下で自分は一番年下だったから、周りにいる色んな姉が守ってくれた。

 守って死んで、守って死んで、守って死んで、死んで、死んで......それがどこまでの続く。

 一体どこまで守られ続けたのか。そして、助けられた後も何も変わらなかった。


 ナナ兄にとっても、ミュウ姉にとても、レイ姉にとっても、ゴエ兄にとっても自分はただ守られるだけの対象。

 それがとても嫌だった。そして、変えたかった――自分を守って死んでいった誇り高い姉達のように。


 だから、この世界に来た時はある意味好機であった。自分が変われる気がしたからだ。

 しかし、そう簡単に変わるものでもないと気づき、自分の愚かさで悲劇を招くこともあった。

 それでも、着実に前に進んでる感覚がしたのは、全て自慢の兄と姉がいてくれたおかげ。


 というわけで、この世界を救いたい気持ちもあるし、悪い敵のドロロンを倒したい気持ちもある。

 けれどそれ以上に、こんな自分に付き合ってくれたどうしようもないお人好しの兄と姉達に感謝を込めて――この一刀を振るう。


「神威っ!」


 絆技――窮鼠猫神威。

 それはヒナリータがナナシを救出した時に生まれた二人のコンビネーションアタック。

 しかし、その絆技を得るための条件であるナナシを助けるには勇者一人ではなし得なかった。


 だからこそ、この技は二人の専用絆技ではあるがミュウリン、レイモンド、ゴエモンの想いも背負っている――と勇者は思っている。

 故に、その神速の一振りは速く()()


―――ザンッ


 ヒナリータが剣を振り抜く。

 その目の前ではドロロンの体が袈裟斬りに真っ二つになっており、当然体の中心にあった核も割れていた。


「これで終わり」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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