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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第4章 ヒナリータクエスト

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第145話 ラスボス戦 ドロロン#3

―――おでの100パーセントを見せてやるど!


 そう言ったラスボスは体を大きく膨張させ、そこから巨大な両拳を作り出す。

 大きさはそれぞれ十メートルほどあり、それを思いっきり床に叩きつけた。


―――ドゴンッ!


「「「「「っ!?」」」」」


 巨大な衝撃が床及び王の間という空間全てに伝え響く。

 床は衝撃で崩壊し、衝撃波で数本の柱が崩壊、窓ガラスは砕け散り、王の間という空間は原型を留めることなく形を変えていった。


 全員が真下に落ちていく。ひび割れ砕け散った床と一緒に。

 その時、ナナシが必死に足をかいてヒナリータに近づくと声をかけた。


「ヒナちゃん、俺を下に向けて全員を集めて!」


「わかった! 皆、来て!」


 ナナシの指示を受けたヒナリータはすぐさま他の三人に呼び掛ける。

 足場のない空中で重心移動しながら勇者に捕まった三人。

 それを確認すると勇者はすぐさまナナシを両手に抱えて下に向ける。


「風来防」


 ナナシは真下に半円状の風のシールドを展開。

 加えて、そのシールドの風向きを上昇気流とすることで落下速度を軽減させた。

 しかし、それはMPが尽きるまでの出来事。

 それが尽きればまたもや落下速度は上がっていく。


「まずい、このままじゃMPが切れる! つーか、一階まで階層突き抜けてるとかどんな威力をぶっ放したんだ!」


 勇者一行の真下にはもはや奈落と名称していい穴が広がっている。

 最上階にあった王の間から一階の中央階段があるエントランスまで五十メートルほどの縦穴で突き抜けており、ナナシのMPが切れるまであと数秒。

 地上一階までの残りの高さは二十メートル以上はある。


「ナナシ、スイッチだ! ここからは守護者たるオレの役目だ――タートルシールドフルバースト!」


 その時、レイモンドが自ら名乗り出て防御結界を張っていく。

 普段は限定的な範囲で展開しているその結界だが、出力を増やせば球状に結界を張ることが可能。

 それを維持したまま勇者一行は地上一階に落下した。


―――ドゴオオオオンッ!


 落下の衝撃音が鳴り響く。その音に続き大小様々な瓦礫が一階に落ち、不快な音色を奏でる。

 当然、それらの瓦礫は勇者一行の上にも降り注いできたが、それは結界で阻止。

 故に、彼女らは誰も傷つくことなく無事である。


「ハァ~~~~、MP使い過ぎてしんどい。なんでMP使い切ると魔力枯渇と同じ症状出るんだよ」


「ま、幸いなのは気絶しないことと、気合で乗り切れる範疇ってことだな」


「はい、二人ともMPポーションだよ~」


 ミュウリンから手渡されたMPポーションを飲んでMPを回復する二人。

 しかし、トラの着ぐるみを着ているとはいえ人型のレイモンドとは違い、ナナシは一人で飲むのが難しいようだ。


 すると、何かを思いついたミュウリンは魔法袋からとある物を取り出す――哺乳瓶だ。

 それもこれ見よがしにネズミであるナナシのサイズに合っている。

 そのブツの登場にはさすがのナナシも引いていた。


「あ、あのミュウリンさん? 回復させてくれるのはありがたいけど、回復手段がちょっとアレじゃない?

 ほら、ここもうラスボス戦だし、もうちょっと雰囲気あるやり方で――」


「ざんね~ん、ちっちゃいナナシさんが悪いんだよ。ってことで、ヒナちゃん捕まえて!」


「ラジャー」


「ヒナちゃん!?」


 ヒナリータにガシッと両手で鷲掴みにされたナナシは、そのまま膝の上に連行される。

 そして、そこに寝かされると正面からは哺乳瓶を持ったミュウリンが近づき飲ませた。

 その光景はさながら生まれたての子猫にミルクを与える飼い主のよう。


「何やってんだか大将は。ま、今回に限っては被害者だけど......羨ましいか?」


「......(コクリ)」


 ナナシは思わぬ醜態を晒され羞恥に悶える。

 一方で、彼を思い通りに出来ている義姉妹は実に楽しそうであった。

 普段どちらかというとナナシのテンションに振り回される(一名のみ)が、今回に限っては形勢逆転のようだ。


―――ドンッ!!!


 丁度、ナナシのMP回復が済んだところで大きな音がし、一斉に振り返る勇者一行。

 崩れた瓦礫の音かと思っていればどうやらそうではないらしい。

 中央階段前に広がる砂煙。その中にある影は人影だ。 


「お前達はおでをバカにし過ぎた。その報いを受けてもらう。これがおでの100パーセントだ」


 最終形態――ドロロンの発言はまさにその一言を表していた。

 ラスボスの姿を端的に伝えるのならば、全身を鎧で覆った漆黒の騎士。

 胸の中央には核を剥き出しにし、背中からは六本のサソリの尻尾のようなものを生やしている。

 また、身長は二メートルほどあり、右手に持つのは漆黒のロングソード。


 まるで先ほどのはぐれメ〇ルのようなフォルムからは打って変わり、さながら武人である。

 加えて、そのその言葉が嘘ではないかのように凄まじいプレッシャーを放っていた。

 そんな姿を見た勇者一行は戦闘準備に移行する。


「どうやら口からでまかせって感じでも無さそうだね。

 だけど、いいのかい? 君の弱点は剥き出しだよ?」


「問題ないど。おでの弱点を狙えるのなら狙ってみればいい」


「そう。なら、ヒナ達なら問題ない――っ!」


 ヒナリータが気合を入れた瞬間、勇者の視界に影が差す。

 その出来事に顔を上げれば、そこにはすでに両手で剣を持ち振りかぶったドロロンの姿があった。


斬々剥(キリギリス)


「ヒナ!」


 ドロロンが振り下ろす剣。

 それは反応に遅れたヒナリータに回避するための束の間の猶予も与えなかった。

 しかし、そんな勇者をレイモンドが咄嗟に肩で弾き飛ばすと同時に、大盾でもって防いでいく。


「ぐぐぐぐ......っ!」


「レイモンド、そのまま抑えてろ――モンキークロス!」


 レイモンドがドロロンの一撃を防いだことで出来た隙にゴエモンが斬り込む。

 レベルアップにより威力が上がった強烈なクロス斬り。

 ラスボスは鎧を纏っているとはいえ、それは元の肉体を変形させたものである。

 故に、見た目ほどの強度はない――そう思っていた。


―――ガキンッ


「っ!?」


 ゴエモンの渾身の一撃は傷一つ付けられずに鎧を撫でるだけで終わった。

 一方で、そんな攻撃を意にも返さないドロロンはレイモンドにぶつけている剣を押し込む。

 瞬間、盾越しに伝わる感触から何かを悟ったレイモンドが叫んだ。


「ダメだ、受け止められねぇ! 全員、この場から退避しろ――」


憤怒(ふんぬ)っ!」


 レイモンドはバキッバキッと大盾に剣が食い込んでいくのを感じると、僅かに角度を変えて受け止める力を横へ逃がした。

 直後、ドロロンの剣は地面に到達し、まるで地雷を踏んだかのような爆発と衝撃が周囲に広がる。


「「「「「っ!!!」」」」」


 勇者一行は全員が吹き飛ばされ、壁や瓦礫の山に体をぶつけて止まる。


「かはっ......ひゅーひゅー」


 瓦礫の山に寄りかかりながら息を吹き返すように息をするヒナリータ。

 体が燃えるように熱くなっており、全身の擦り傷がジクジクと痛みを伴い、強烈に背中を打ち付けられたせいで正常な呼吸が出来ない。


 自分が檻に囚われていた頃に感じていた痛みとは違う。

 肉体を伴う痛み――これが戦闘による痛み。

 一体自分がどれだけ助けられ、甘やかされた環境にいたか身に染みる一撃だった。


「くっ......!」


 しかし、それを知ったからといって立ち上がらない理由にはならない。

 逃げ出していい理由にはならない。自分が勇者であるならば。

 そして、冬空の中、自分を守り続けてきた姉達の痛みがこれより低いはずがない。


「ひ、ヒナは変わるって決めたんだ。だから、諦めない」


「いいね、最高に主人公してんじゃん。なら、仲間として一枚噛ませてもらうよ」


 ヒナリータが剣を支えに立ち上がれば、近くにいたナナシがそんなことを言った。

 すると、同じように立ち上がるミュウリン、レイモンド、ゴエモンがその言葉に続く。


「やっぱりカッコイイね、勇者って。眩しくてまっすぐでどうにもボクは憎めないよ」


「ま、でも、恨みがましい勇者もいるけどな。だが、今の勇者は頼ってくれる。

 だから、力を貸せる。それにオレが騎士である意味があるってもんだ」


「なるほどな、これが勇者ってんなら力を貸したくなるのも納得だわ。

 ってことで、気合入れて行こうぜ嬢ちゃん!」


 ヒナリータの一言で全員が奮い立つ。その力は正しく仲間を率いる勇者そのもの。

 一瞬にして圧倒的な力で反撃されたが、それでも胸に宿った勇気がある限り闘志は消えない。

 そして、その闘志がある限り悪に立ち向かう力となる。


「皆、行くよ。この戦いで決着をつける!」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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