第143話 ラスボス戦 ドロロン#1
月光に照らされ玉座にて不遜な姿を見せるラスボスのドロロン。
全長が五十センチほどの魔物なので玉座に座っているというか乗っているような状態だが、それでもこの精霊の世界を脅かす強大な存在である。
「グフ、グフフ......一度逃げ出したにも関わらず性懲りもなく現れる精神は褒めてやるど。
だが、おでが精魂込めて育てた木を破壊した所で何も結果は変わらない。
お前達はおでには適わない! だから、潔く負けを認めて消えてもら――」
「うるさい。だまれ。話が長い」
ドロロンが気持ちよさそうにマウント取るのも束の間、ヒナリータから強烈な三連コンボ口撃が飛んできた。
そんな言葉にすぐさま憤慨するのが器の小さいラスボスだ。
「今はおでのターンだど! 大人しく話を聞くことも出来ないのか、この勇者は!?」
怒りの感情が最後までたっぷり詰まった言葉。
さすがにラスボスだけあって言葉には覇気がある。
一方で、ヒナリータはどこ吹く風といった様子で剣先を向け言い放った。
「今更どんな言葉を並べようとこの先やることは変わらない。時間の無駄。
サッサと始めようドロドロやろう。ヒナ達がおまえを倒す相手だ」
ヒナリータは恐怖をおくびにも出さず啖呵を切った。
そんな成長ぶりに仲間達は深々と感動する一方で、言われた方からすればとんでもない言葉だ。
故に、コケにされたと感じたドロロンは怒りを頂点にし玉座から飛び出していく。
「おでのことをバカにしやがって! あぁ、わかった! やってやるど!
その減らず口を二度と叩けなくしてやるから覚悟しろ!」
そう言ってドロロンは不定形の体をブクブクとさせる。
そして、その体から質量以上の触手をいくつも作り出し、先制攻撃を仕掛けた。
「テンタクルスショット!」
ドロロンから飛び出した金属光沢を帯びた触手が勇者一行に目掛けて雨のように降り注ぐ。
その攻撃を彼らは各々の武器や能力でもって弾いたり回避したりした。
その際、触手を武器で弾くとキンッと甲高い音が鳴り響く。
さながらその攻撃は金属の槍のようである。
勇者一行は当初の予定では早々に隙を見つけて近接の殴り込みを仕掛ける予定だった。
現に切り込み隊長のゴエモンはそう動くことを考えていた。
しかし、触手の攻撃が想像以上に隙がなく、近づくこともままならない。
加えて、相手はあのモンキチより強い相手。
そう簡単に隙など作らせてはもらえない。
「グフフ、口先だけか勇者! おでの前で舐めた態度を後悔させてやる!」
ヒナリータは改めてドロロンこそがラスボスであると強さを実感した。
仲間達の力を借りても一筋縄でいく相手では無さそうだ。
その時、勇者の頭の上でずっと勇者の回避のカバーをしていたナナシが動き出す。
「どうやら斬り込む隙が無さそうだね。なら、最速の俺が作る。
ヒナちゃん、少しの間この猛攻に耐えられるかい?」
「ヒナなら大丈夫。だから、行って」
「任された!」
ナナシは頭からぴょんと降りると床を駆け回っていく。
当然、彼に目掛けて触手が飛んで来るが、すばしっこいのに加え的が小さいため全然当たらない。
「ネズミの機動力を舐めるなよ!」
ズガガガと襲い来る触手を躱して躱して躱して前に進むナナシ。
そして、ドロロンの数メートル手前に来たところで、彼はドロロンの目線の高さまで跳躍し両手を伸ばした。
「くらえ! なんちゃって太〇拳!」
「ぐぇっ!?」
ナナシは<ぴかぴかボール>こと光の弾を作り出すと同時に破壊することで、一瞬の強い明滅の光を放った。
それは言わば閃光弾による目潰しと同じ効果であり、ドロロンに効いた様子で触手の攻撃頻度が極端に下がる。
しかし、代わりに触手がブンブンとやたらめったらに振り回すように動き始めた。
「火力組! 出番だ!」
「行くぞ、ゴエモン!」
「おうともよ!」
ナナシが下がると同時に、レイモンドとゴエモンが前に出る。
そして、レイモンドが大盾を構えて縦横無尽に振り回される触手をガードしながら、ゴエモンに進む道を作った。
「ここか!」
ドロロンは盾を攻撃した感触を頼りに、いくつもの触手を束ねた触手を回転させて放つという強烈な一撃を繰り出した。
そして、その攻撃は盾に直撃するとともにレイモンドの体を押し返していく。
その攻撃はレイモンドにとって中々に重たい一撃であったが、同時にチャンスとほくそ笑む。
なぜなら、今この瞬間敵の攻撃は自分に集中しているということだからだ。
「ゴエモン、今だ!」
「背中借りるぜ!」
レイモンドの後ろにいたゴエモンは一気に走ると彼女の背中を使って跳躍。
空中に躍り出た彼は落下すると同時に体を回転させて強烈な一撃を叩き込む。
「モンキースライス!」
「んぐぅ!」
二刀の斬撃はドロロンの体を斬り裂き、深々と痕を作った。
しかし、不定形であるラスボスの体はすぐに傷口を塞ぎ、サッとその場から退避する。
「ダメだ、あんま斬った感覚がねぇ!」
「なら、魔法攻撃だね。いくよ、ヒナちゃん!」
「うん、ミュウ姉!」
ドロロンが移動した先を見越したように外側から回ってきたヒナリータとミュウリンがラスボスを挟むようにして立つ。
「水モッチモチ!」
「キティファイア!」
ミュウリンから放たれた鏡モチのような形をした水の塊と子猫の形をした火の玉が同時にドロロンを攻撃する。
そして、それは見事に直撃し、さらに水蒸気爆発がラスボスを襲った。
「ぬわあああああ!?」
水蒸気の中をドロドロの体で跳ねまわるドロロン。
とてもダメージが入っているように感じる叫び声が響き渡った。
それからしばらくのたうち回った後、スッと我に返ったように元に戻り周囲の霧を払うと、口を開いて出したのは怒りの感想である。
「よくもやってくれたな! この体でも多少は痛いんだど!」
「多少......多少ね。それにしては外傷が少なすぎるようだが」
「斬った感触はあったが、どうにもダメージを与えられてるように感じないな」
怒りの主張を見せるドロロンに対し、冷静に感想を述べるのがレイモンドとゴエモンである。
実際、彼女の言う通り目の前の敵には見た目にダメージらしい外傷はどこにもない。
加えて、ゴエモンの言葉が正しければ斬撃による攻撃はほぼ意味がないということになる。
しかし、防御力が高すぎるなら未だしも、ダメージが与えられない敵などいない。
故に、不定形という形から推測した情報をナナシが仲間達に伝える。
「どうやらドロドロとした体が厄介のようだね。
だけど、相手の体は戦闘の基礎を教えてくれるスライム大先生と同じ体だ。
物体がそこにある以上、心臓が無くて生きていける生き物がいない様に、その体にも必ず弱点はあるはずだ」
「それじゃ、スライム大先生と同じならきっと核が体内にあるんだろうね。
あいにく大先生と違って透明じゃないからどこにあるかわからないけど」
「なら、攻撃しまくって見つければ良いだけ」
ナナシの助言による勇者一行のやるべきことは決まった。
ラスボスは不定形でありピンポイントで弱点を狙うのはほぼ不可能。
であれば、攻撃しまくって弱点を露出させそこを叩く。
もちろん、相手がそう簡単にチャンスをくれればだが。
「お、おでの弱点がなぜわかった!?」
思ったよりチャンス多めかもしれない――と思ったのも束の間、やはり相手はラスボス。
そう、ラスボスが持つ特権と言えば“形態変化”である。
「おでの弱点がわかったところでどうってことない! お前達はおでが消すんだからな!」
そう言ってドロロンは五十センチの体を一メートル程まで膨張させた。
そして、胴体には五つの砲筒を作り出し、右手には巨大なペンデュラムのような刃、左手はハンマーのような形にしていく。明らかに先ほどより殺意マシマシである。
「おでの五十パーセント解放を見せてやる!」




