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第140話 棚からぼたもちな出来事

 突然のラスボスであるドロロンとのエンカウントに驚く勇者一行。

 されど、相手が戦意を見せるのであれば、そこから始まるは戦いのみ。

 動き出そうとするラスボスに対し、ヒナリータは先制を取るように動き出す。


「させない!」


 素早く動き出したヒナリータはドロロンに斬りかかった。

 しかし、その攻撃は残像を残すほどの速さで躱され、さらにはラスボスに後ろへ回り込まれた。


「こいつ、見た目以上に速いぞ!?」


「それもあるが俺達のデバフの効果もある。

 単純に目で追い切れてない! 今戦うのは得策じゃない!」


 レイモンドとゴエモンの言葉が飛び交う。

 ゴエモンの言う通り、デバフがかかってる状態でラスボスと戦うにはあまりにも舐めプである。

 であれば、即座に離脱すべきだが、それをさせてくれるほど相手も甘くはない。


「ゴオオオオォォォォォ」


 ドロロンは口を大きく開けると、さながらダイ〇ンの掃除機のように凄まじい吸引力で周囲の呪毒の霧を吸い込み始めた。

 すると、吸い込んだ量に比例してラスボスの肉体が肥大化していき、みるみるうちに二倍、四倍、六倍と増え、最終的に六十倍ほどともはやその姿は山の如し。


「勇者一行はこの場で消す! くらえ、ヘドロウェーブ!」


 ドロロンはドロドロの巨体を動かし始めた。

 それはもはや三十メートル級の津波であり、周りの数多の木々を飲み込めば、強い毒素でたちまち溶かしていく。


「不味い! 全員、飲み込まれる前に走れ!」


 ナナシの一言で全員が走り出す。そこからはもはや戦闘どころではなかった。

 当たれば即死のような毒の波が勇者一行を追いかけて来る。

 勇者一行は走って、走って、走り続けた。

 すると幸い、レベルのステータスで少しずつ距離を取ることに成功する――その時だった。


「ふぎゃっ!」


 突然、ミュウリンが前のめりにバタンと倒れたのだ。

 そして、その場から彼女が起き上がることもなく毒の波が迫ってくる。

 そんな彼女の症状に気付いたレイモンドはすぐにゴエモンに声をかけた。


「不味い、ミュウリンが麻痺にかかった! ゴエモン、オレ達で運ぶぞ!」


「よし、わかった!」


 その二人はサッと方向転換し、毒の波に向かって走っていく。

 そして、素早くミュウリンを回収すると、再びヒナリータ達のいるところに戻ってきた。

 そのことに一安心するナナシはホッと胸をなでおろす。


「ふぅー、これで一安し――いっ!?」


「あ、ナナ兄が痺れた」


 ヒナリータの胸の前でピクピクとしながら体を一本の棒のようにするナナシ。

 元の姿がネズミなのでその姿はなんとも言えない可哀そう感が出ていた。

 それに対する友人の言葉は辛らつなもので――


「そいつならいいだろ、別に。ネックレス状態だし」


「そうだな。それならいつ痺れても安心だろ。

 ただまぁ、逆にその状態じゃなかったら助からなかった......うん、()()()は助かってないだろうな」


「?」


 レイモンドとゴエモンからのそんな言葉。

 心配されることのない言葉にナナシの顔はなんだか悲しそうである。

 そんなゴエモンの言葉に首を傾げつつもヒナリータは、逃げ切ることに集中して走り続けた。


 それから十数分後、森の中に入って逃げ回った甲斐があったのかドロロンは諦めたようで毒の波が襲ってくることは無かった。

 その間、復活したミュウリンとナナシの代わりにゴエモンとヒナリータが麻痺することもあったが、それでも全員はぐれることなく無事である。

 

「ふぅ、追いかけられてる最中に痺れるのは何とかして欲しいぜ」


「だよな。俺も死ぬかと思ったぞ」


「大将はどうやったって死なねぇだろ」


「いや~、びっくりしたね~。突然足が動かなくなったと思ったらすぐさま全身に来たもん。

 ホント助けてくれてありがとね~」


「レイ姉、助かった。ありがと」


「ハッ、気にすんな。これぐらい騎士なら当然のことだ」


 全員で生還を喜び合ったところで、ナナシが「で、これからどうしよっか」と話を変えた。

 というのも、現在どこにいるか全く分からない状態なのだ。

 見渡す限り白い森に、紫色の霧ばかりでこうも真っ白だと方向感覚が狂って仕方がない。


 なので、適当に落ちていた枝で倒れた方向に進もうかと画策していれば、突然背後から声をかけるものが現れた。


「......もしかして勇者様一行ですかな?」


「「「「「っ!?」」」」」


 何かでくぐもったような声。されど、戦意のない優しい掛け声。

 その声に勇者一行が振り向けば、そこには嘴状のマスク(いわゆるペストマスク)を顔に装着している精霊の姿があった。

 まさかこんな環境に人もとい精霊がいようとは思うまい。


「この環境下でマスクをつけずに過ごせるとはさすが勇者様一行とでも言うべきでしょうか。

 とにもかくにも、このような場所で立ち話をするのもなんですし、丁度近くに村もありますのでそちらに案内いたしましょう」


 ペストマスクの紳士風精霊の後ろを勇者一行がついていくことしばらく。

 やがて見えてきた村には同じような大小様々なペストマスクをつけた精霊達の姿があった。


「ここはドロロンの城のすぐ近くにある唯一の村――ラスボスニア村でございます。

 とはいえ、この村の近くにドロロンが拠点を作ったというだけの話ですが。

 そして、わたしくめは村長のメールでございます。以後、お見知りおきを」


 恭しく挨拶するメールは改めて勇者一行を見ると、自分達とは違うその姿を褒めたたえた。


「にしても、やはりこのような瘴気を浴びながら平然としてるとは。

 勇者様一行には何か特別な力があったりするのでしょうか?」


「特に無い。毒に関してはナナ兄のおかげで、後は大半は我慢してるだけ。

 ヒナ達も状態異常やデバフにかかってるからこの状態をどうにかしたいと思ってる」


「なるほど、そうでしたか。とはいえ、それでも十分凄いと思いますがね。

 わたくし達はこのマスクが無ければ日々も過ごせません」


 勇者リスペクトが凄いメールの話を聞いていると、レイモンドはドロロンが住み着く前よりあるこの村なら知っているのではと質問した。


「ところで、テメェはこの霧の原因について何か知ってるか? 知ってるなら教えて欲しい。

 これが無くならねぇといつまで経っても体の調子は悪りぃままだし、ドロロンのやつに挑めない」


 すると、メールはその質問にコクリと頷いた。


「はい、存じております。その上で一つ確認しておきたいことがございまして――ドロロンにお会いになられました?」


 その質問に答えたのはゴエモンだった。


「あぁ、いつの間にか後ろにいてビックリしたぜ。

 まさかタイミングよく外にふらついている時に出くわすとはなぁ」


「いいえ、あれは偶然ではございません」


「どういうこった?」


 メールからの思わぬ否定にゴエモンは首を傾げる。

 すると、その答えをメールは話始めた。


「わたくし達も何もここで怯えて暮らすだけの存在ではございません。

 村の者達が定期的に外を歩くドロロンの様子を観察しているのです。

 そして、その過程で気づいたことがございまして、どうやらあの魔物は城の周りで植樹を行っているようなのです」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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