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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第1章 自称道化師とノリのいい相棒

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第14話 聞こえてますかー

「パカラッパカラッパカラッ」


 軽快に馬が走る音は特に聞こえない。

 というか、普通に馬を走ってもそんな音はしない。

 この擬音はナナシの口から言われてる言葉である。


「あの、ナナシさん」


「ヒヒ~ン!」


「いや、ウマの鳴き声で返事をしなくていいですから。ナナシさんはどうしてここに?」


 どうにも絶妙にシリアス展開に持っていきづらい雰囲気の中、ウェインは強引に話を進めた。

 そのことにナナシは軽く流されたことにショックを受けながらも真面目に返答していく。


「ユーリちゃんに頼まれただけだよ。

 探す方法があるとはいえ、広大な森の中から人を探すのは骨が折れるからね。

 ユーリちゃんが助けを呼ばなければ、今頃丸焼きになってただろうね」


 ウェインはビクッと体を震わせた。

 恐らくバジルホークに襲われかけた時のことを思い出したのだろう。


「それに問題はそれだけじゃない」


「何かあったんですか?」


 同じ白馬に乗るユーリはカエサルを治療しながら聞いた。

 ユーリが乗ってきた時よりも光の白馬が大きくなっているため、現在はウェイン達も同乗中だ。


「魔物が大群で攻めてきてるらしい」


「大群!? どうりで.......」


「何か知ってるの?」


 何か事情を知ってそうなウェインにナナシはすかさず聞いた。

 その質問に、ウェインは自分が経験したことを答える。


「大群が襲ってるとまでは知らなかったですが、森の奥から複数の魔物が僕達を無視して中層部に向かっていくのは見たんです。

 その魔物達のおかげで僕達はバルステン達から逃げることが出来たんですが」


「あぁ、俺も見た」


 カエサルも声を出した。

 どうやら一命を取り留めたようだ。とはいえ、今だ傷は深い様子だが。

 そんな彼はユーリに回復魔法で治療されながら見たままを話し始める。


「あれはなんだか怯えてるようだった......似てたんだ。

 俺達の村が魔物の大群に襲われ、家を失って逃げ惑う村の人達に」


 なるほど、そんなのことが、とナナシは頷く。

 これはもしかしたらもう一悶着あるかもしれない。


「とりまちゃちゃっとここを離れますか。

 行くぞ、閃光のパトラッシュ――ヒヒ~ン!」


 馬に相棒感を見出しながら、最後まで鳴き真似してナナシは冒険者ギルドに向かっていく。


*****


 シザースキャット、ダツファルコン、火猿魔と様々な魔物が中層部と表層部の境の森に集まっていた。


 その魔物一体一体が中堅冒険者レベルの戦闘力を持ち、中にはベテラン冒険者が複数で挑むような魔物もいる。


 ......ナナシ達が訪れた街は比較的安全な街とされていた。

 その“安全”の意味合いは「強い魔物があまり表立って現れない」というもので、それ故にこの街ではベテラン以上の冒険者は極わずかなのだ。


 逆に、冒険者になり立てや冒険者になってから一、二年という新米が多く、戦闘に対してはまだまだ実績が足りない人達が多くいる。


 故に、見込みが甘かったとも言えるかもしれない。

 森の中層部から深層部の魔物がほとんど表層部に現れないことから、ここは他の場所より安全に狩りが出来る場所と勘違いしてしまった。


 結果、このような事態が起きてしまった時に動ける人材が少ないのだ。

 よって現在、中層部や深層部から抜けてきた魔物達に冒険者達は防戦一方。

 冒険者達は必死に攻撃をしのぎ、数を減らしているが、魔物は奥からまだまだやって来る。

 対して、冒険者達は疲労や魔力渇望といった様々な理由でダウンしていく数の方が増していく。


 それが一番の問題だった。

 魔力の消費は身体機能に直結し、使い過ぎれば疲労感は判断力を鈍らせる。

 本来、魔法を行使するという行為自体に細心の注意を払わないといけないわけで、“魔力タンク”と呼ばれる魔力を膨大に持つ魔術師以外気軽には魔法は使えない。


 加えて、そのような魔術師は大抵国のお抱えになり、冒険者として活動していることは少ない。

 故に、大群との戦闘で待っているのは――ジリ貧だ。


「クソ、このままじゃ街が終わるぞ!」

「街よりも先に私達が死ぬわよ!」

「こっちには家族がいるんだぞ! 死んでも守り切れ!」


 様々な冒険者が自分を、周りを鼓舞をしていく。

 しかし、魔物との戦闘を受けてボロボロな人もいれば、魔法の酷使でスタミナ切れをしている人もいる。


 対して、魔物はまだピンピンしてるのが多い。

 戦力差は絶望的だ、と冒険者の誰しもがそう思った。

 そう、あの歌声を聞くまでは。


母なる癒し(マザーセラピー)


 バチバチにやりあい、血の気が立っている戦場に流れる安らかな曲。

 まるで場違いのその曲を聞いた人達は誰しもが自分の内側から活気が戻ってくるのを感じた。

 ある人は傷が癒えていくのを、ある人は枯渇しかけた魔力が復活していくのを。


「皆、大丈夫かな?」


 冒険者達は一斉に一人の少女を見る――ミュウリンだ。

 魔族ではないかと噂されている幼き少女。

 そんな少女は冒険者達の間を悠然と歩いていく。

 いつも通り朗らかな笑みからはまるで恐怖の色は感じられない。

 そして、やがて少女は先頭に立つ。


「おい、嬢ちゃん......」


「大丈夫、慣れてるからね~」


 ミュウリンは隣に立つ男に向かってピースサイン。

 息を大きく吸うと、再び歌声を披露した。


誘う微睡(リードスリープ)


 ミュウリンが披露した歌は、かつて暴れ牛を一瞬にして眠らせた歌だ。

 その歌声が届く三十メートルの範囲の魔物は、たちまち眠気を誘われ、その場に崩れるように眠っていく。もはや怖いぐらいの卒倒性だ。


「やっぱり、争いは無い方がいいよね~」


 ミュウリンは眠りこける魔物達を見て頷く。

 しかし、そう簡単に問屋は降ろさない。

 奥から魔物達がごった返し、前へ前へ現れるのだ。


 せっかく眠った魔物も踏んづけて起こし、数は先ほど冒険者が戦っていた数の倍ほどになった。

 その光景に冒険者達は威勢を無くしていく。数の暴力が襲ってきているからだ。


 そして、魔物達が一斉に襲い掛かる。

 とても対処しきれる数ではない、と冒険者の誰もが思う。

 しかし、その考えはまたもや簡単に覆された。


「そっか、ダメか。なら、ボクも覚悟を決めよう――串刺し氷結の大地(リザベクシオ)


 ミュウリンは一度目を閉じる。

 開けた時にはスッと目つきを鋭くしたものに変えた。

 柔らかい雰囲気はどこへやら。雰囲気はまるで別人そのものだ。


 少女は右手をかざす。氷系魔法を示す水色の魔法陣が展開された。

 直後、魔法陣から吹雪が放たれ、大地が氷に覆われる。

 氷は領土を広げるように扇形に展開した。

 やがてその氷は魔物達の足を氷漬けにしながら、凍土から飛び出した針に刺されて凍る。


 時間は数秒。たったそれだけの短い時間でミュウリンの視界に移る全てが凍り付いた。

 大地も魔物も植物も木も全てが琥珀に閉じ込められた虫のように、氷の中で微動だにしない。


 心地よい温風は冷気に飲まれ、辺り一帯は肌寒い空気に覆われた。

 普通の魔術師なら一発で魔力枯渇になり気絶してもおかしくないレベルだ。

 しかし、その魔法を行使した少女は特に変化なくケロッとしている。


 ......規格外。


 人外とも同義のその言葉は良くも悪くも人に大きな影響を与える。

 それが目の前で繰り広げられたのなら尚更。

 そして、強すぎる恐怖は畏怖と賞賛を二分化していく。


 冒険者達は目の前の光景に飲まれた。

 その表情は魔族という情報も相まって前者へと傾いた。

 おおよそ味方に向けるような恐怖の色に染まった目。

 誰もが一色の感情に染められる――遅れてやって来たただ一人の道化(バカ)を除いて。


「あれれ、札幌雪祭りでも始まった? いや、この場合は現代氷像アートというべきか。

 にしても、寒いねここ。ふぅ~、ナナシさん温度変化に弱いのよ。変温動物だから」


 適当な言葉をつらつら並べてミュウリンの隣に立つナナシ。

 sると、ミュウリンの鋭い目つきはたちまち朗らかなものに戻って行く。


「なら、温めてあげるよ。ナナシさん、ギューでもする?」


「え、えぇ、公然の前だよ~? ナナシさん、体面気にするからな~」


「えへへ。なら、後で、だね」


「ギャアアアア! 可愛いいいいぃぃぃぃ!

 ブラジルの皆さん聞こえてますかー! 相棒が可愛すぎるんですがー!」


 突然繰り広げられる成人男性と少女のコミカルなやり取り。

 散々変な奴ら、と思っていたその気持ちが冒険者達の間で爆増した。

 とりあえず、冒険者達の中で皆が思ったことが一つ。

 目の前でイチャイチャするな! だった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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