第139話 突然のエンカウント
全員から起きた謎の出血。
当然、各々こんなダメージを負う理由も無ければ、行動をした心当たりもない。
そんな突然現れた症状にゴエモンはふと自身のステータスを見た。
瞬間、彼はそこに表示されていた光景に「なんじゃこりゃ!?」と叫ぶ。
その叫びにナナシがすぐに尋ねた。
「どうした?」
「状態異常のお祭り騒ぎだ。毒に麻痺に沈黙、それから攻撃力、防御力、魔法攻撃ダウンといったデバフも色々ある。
俺がいつの間にかこれだけの状態異常を抱えてたんだ。皆も確かめた方が良い」
切羽詰まったようなゴエモンの表情に残りの皆は顔を突き合わせると、同じように自身のステータスを確かめていった。
すると、漏れなくそのメンバーにも同じような状態異常にかかっているではないか。
「うっわ、なんだこれ......オレにも諸々かかってる」
「ボクも同じだ。それじゃ、さっき足が重いって感じたのって......」
「この素早さダウンっていうデバフが原因だと思う」
レイモンド、ミュウリン、ヒナリータが自分のステータスを見て、体に起きている異変に気付いた。
加えて、先ほどの出血は“毒”によるダメージだったみたいだ。
現に今も数秒置きにダメージを受けてHPが減少している。
「そして、この状態異常の諸々を生み出しているのがこの“呪い”って状態異常だな」
そんな仲間達の話を聞きながら慣れた手つきでナナシは原因を特定する。
そして、その原因が“呪い”という状態異常であり、この効果は「あらゆる厄災が身に降りかかる」と説明されてるので、文字通りあらゆるバッドステータスが付与されているのだろう。
「とりあえず、一番まずいのは“毒”だな。
これは俺の継続回復効果のある<皆元気になーれ>でダメージ分をカバーしておく。
だけど、消費MP増加の効果でそんな気軽にかけ直しは出来ない」
「となると、回復が出来るナナ兄とミュウ姉は基本MP温存の戦い方で。
一応、MPを回復できる魔道具もあるけど、それは緊急性を要した時のために取っておこう。
だから、基本的な戦闘は前衛のヒナとレイ姉、ゴエ兄でやる」
「そうだな。これだけぶっこんであると回復が如何に大事になってくるかだしな」
勇者という立場によって心が成長したヒナリータは的確な指示を出す。
そんな提案にレイモンドは特に意見も無い様子で嬉しそうに頷く。
とはいえ、問題はそれだけではない。それをゴエモンが指摘する。
「後、“麻痺”の効果と“沈黙”の効果は気を付けた方が良いな。
まぁ、“沈黙”に関しては前衛の俺達にかかる分にはまだマシだが、問題なのは“麻痺”の方か」
そうゴエモンが警戒するのも当然理由がある。
というのも、“麻痺”の効果が「ランダムのタイミングで数秒間動けなくなる」というものなのだ。
つまり、戦闘中にそれが突然起きれば、それは間違いなく“死”を意味するということになる。
「とにかく、敵との余計な接触は避けて慎重に進むべきってことだな」
「ただ、時間をかけすぎてもMPが底を突きてじりじりとHPを削られて終わりになる。
だから、急ぎつつも慎重にが目指すべきところ」
ヒナリータが方針を示した所で、勇者一行は冷静さを取り戻し準備を整えると先へと進んだ。
彼らは魔物を避けつつ移動を続けるも、時には避けられない魔物もいる。
その場合は巧みな連携によってノーダメ且つ出来る限りMPを消費しないで突破する。
ただ、デバフの効果によって森に入ったばかりに戦った同じ魔物相手でも、しばしの長期戦を強いられるのが辛いところだった。
それでももはや後戻りはできない。やれることは前に進むことのみ。
そして進むことしばらく、勇者一行は大きく開けた場所に辿り着いた。
すると、そこには目を見張るような巨大な建造物が見える。
遠くに薄く膜を張ったような霧を纏い、とある三人には見覚えのある禍々しい城が。
「これはなんというか......」
「めちゃくちゃ魔王城リスペクトしてるな」
そんな感想を零すナナシとレイモンドの言う通り、目の前にあったのは非常にオリジナル魔王城と酷似したパチモン魔王城だった。
つまり、これから行うのは魔王城の攻略というラストダンジョンに相応しいステージだが......
「「......」」
その二人はあまり喜べなかった。
なぜなら、この勇者パーティには“魔王の娘”がいるのだから。
いくらパチモンとはいえ、自分の家と似た城が攻略されるのはいい気分しないだろう。
それこそその行動自体、人魔大戦を彷彿とさせるのだから。
そんな二人に対し、ミュウリンの城を見た第一声はこうだった。
「それじゃ、攻略しに行こっか」
思った以上にあっけらかんとしたミュウリンの言葉。
その事にナナシとレイモンドが驚いていると、その表情に気付いた彼女が尋ねる。
「ん~? どうしたの二人とも」
「あ~、いや、なんというか......なぁ?」
「えーっと、その......随分あっさりとしてるなーと。ほら、魔王城に似てるし」
その言葉にミュウリンはなるほどと手を叩く。
そして、告げるのはまたしてもあっさりとした言葉。
「でも、似てるだけでしょ? 本物じゃないんだからそこまで気にしなくていいよ」
「まぁ、ミュウリンがそういうなら」
「あぁ、それでいいが」
一番気にするであろうミュウリンがそのスタンスを取るのであれば、これ以上気にするのはかえって失礼だとナナシとレイモンドは気持ちを切り替える。
すると直後、話題を変えるようにゴエモンが言葉を発した。
「にしても、目の前に城が見えてもこの状態じゃ、さぁ最後の戦いに行こう! とはならんよな」
その言葉にヒナリータが頷く。
「うん。だから、どうにかしてこの状態異常を解かないといけない。
そうしないといつまで経ってもドロロンを倒しにいけない」
そして、勇者一行が状態異常を解除しに動こうとしたその時だった。
「今、おでのこと呼んだ?」
「「「「「っ!?」」」」」
突然の反応の声に勇者一行は体をビクッと反応させ、すぐさま聞こえてきた後ろへ体を反転させる。
すると、そこにはメタル〇ライムのような不定形な形でドロドロとした五十センチほどの魔物がいた。
「なぁ、今おでのこと呼んだよな?」
「......おまえがドロロンか?」
どうにも覇気を感じない声にヒナリータが質問を質問で返すように答えた。
すると、その質問にドロドロは自信満々に答える。
「いかにも! おでがこの世界を侵略する王ドロロンだど! 魔物中で一番偉いんだど!
それでその.......今は一体ここにいるけど、それはたまたまで!
散歩......そう、散歩してただけで、決してボッチというわけじゃないど! 本当だど!」
特に聞いてないのに謎の見栄を張るドロロン。そこには一切の王たる覇気は無い。
むしろ、「ボクは悪いスライムじゃないよ」と言うスライムぐらい無害に感じる。
「で、そちらさんは何者だど? ここら辺では初めて見る顔だど」
そんな素朴な質問をぶつけるドロロンにヒナリータは堂々と啖呵を切った。
「ヒナ達はおまえを倒す者達だ。だけど、条件次第では倒す必要は無くなる。
ヒナ達に倒されたくなかったら持っているペンダントを返して」
その言葉にピクッと反応するドロロン。
瞬間、どこかゆったりしていた空気は急に張り詰めたような空気に変わった。
そんな空気の変化に勇者一行はすぐさま警戒する。
「そ、そうか......おめぇ達がおでに災いをもたらすとされる勇者一行か。
なら、おではこの世界を侵略するために全力でおめぇ達を排除するど!」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)




