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第136話 ボス戦 モンキチ#1

「んじゃ、まずはこて調べだ」


 戦いの合図を告げる銅鑼が鳴り響き続ける。

 そんな中、モンキチはそう言葉を呟き、まるで見ていた姿が幻だったかのように姿を消した。

 同時に、ヒナリータは耳をピクッと動かし背後に振り向く。


「後ろ!」


「良い反応だ。かますから早々に寝てくれるなよ――拳衝猿」


 勇者一行の背後に回り込んだモンキチは正拳突きを放つ。

 その拳は空を殴ると同時に瞬く間に周囲に衝撃波を放ち、彼ら十数メートルと吹き飛ばす。


 衝撃波というガード不可の一撃に加え勇者一行全員にダメージを与える範囲攻撃。

 しかし、威力は皆等しく二割ほどのダメージを受けただけであり、モンキチの言葉通りにあくまでこて調べの攻撃だったのだろう。


「ほら、もっと行くぜ!」


 モンキチは素早く地面を蹴って吹き飛んだ勇者一行を追いかける。

 すると、そんな相手に打って出たのがヒナリーダだった。

 瞬間、両者の剣と拳による打ち合いが始まる。


「ハハハ、やるじゃねぇか()()!」


「くっ!」


 まるで金属同士がぶつかり合うようにキンキンキンという甲高い音が響く。

 それほどまに強化されたモンキチの拳をヒナリータは捌いていた。

 しかし、それも長くは続かない。勇者の顔に苦しいそうな表情が浮かぶ。


 ヒナリータの戦闘技術はあくまでこの世界に来てからの実践による叩き上げ戦法に近い。

 一応、大人達がそれぞれ基礎的な動きこそ教えているが、この世界のシステムでは剣術スキルがあるわけでもなし。あるのは強攻撃コマンドだけである。


 故に、打ち合いとなれば露骨に戦闘経験の差が現れる。

 そして、あくまでステータスだけで動きをカバーしている勇者と、弟子まで抱える武術を扱う魔物に大きな戦闘技術の差があるのは言うまでもない。


「嬢ちゃん! 下がれ! スイッチだ!」


 モンキチの連続攻撃に対応しきれなくなってきていることを察知したゴエモンが前に出ながら叫ぶ。

 その声に耳をピクッと反応させたヒナリータは僅かな攻撃の隙を縫って後ろに下がった。


「モンキークロス!」


 同時に、ゴエモンが入れ替わるように前に出て両手の剣をクロスさせる。

 モンキチがヒナリータを追撃しないようにするための一撃だ。

 しかし、その攻撃は躱され、モンキチはバク転しながら距離を取った。


「逃すかよ!」


 モンキチを追いかけるゴエモンは数メートル手前で大きく跳躍する。

 さらに体の捻りで自身の体を回転させると、その回転のまま突撃する。


「モンキースライス!」


 落下攻撃に加え、全身を使った回転攻撃。直撃すれば強烈な一撃だ。

 そんな一撃を両手を揃えてゴエモンは放った。


「ほぅ、当たればひとたまりもねぇな。だが――」


「っ!?」


 モンキチは自ら当たりに行くよう前に一歩踏み込むと同時に、ゴエモンに背を向ける。

 そして、ゴエモンの袈裟斬りにしようとする両手をモンキチはそれぞれの手で掴み、さらに回転している勢いを利用して一本背負いのように投げた。


「大猿落とし!」


「がっ!」


 モンキチはゴエモンを背中から地面に叩きつける。

 瞬間、地面はバコッと凹み、範囲二メートルほどがひび割れた。

 そんな強烈な一撃で一時的に行動不能になってるゴエモンを無視して、モンキチは三人いる方へ走り出す。


「行かせるかよ!」


 モンキチの進行方向にレイモンドが立ちはだかる。

 しかし、それでも走ることを止めないモンキチは拳を固めた。


「モンパチ」


 放った手が消えるかのような拳の一閃。あまりにも速すぎて目では捉えきれない。

 されど、対するは勇者パーティの最強の盾であるレイモンド。

 彼女のこれまで戦ってきた戦闘センスと勘が無意識にタイミングを捉えた。


「ここだ!」


「なっ!?」


 大盾を左手に持つレイモンドはモンキチの拳をパリィした。

 そのことにガードされることはあっても弾かれることは予想外だったのかモンキチの目は大きく開かれ、弾かれた反動でバランスを崩していく。

 その瞬間はレイモンドからすれば攻撃するにこれ以上ないチャンスだ。


「タイガーブレイブ!」


 すぐさま右手に持つ剣で反射的に攻撃をしかけるレイモンド。

 それに対し、モンキチはコンマ数秒の剣の起動を観察しながら、剣が肌に触れた瞬間に体を回転し始める。


「猿回芸」


 モンキチは剣の一撃を全身で受け流すように回転することで、レイモンドの一撃を避ける。

 これには「これを避けるか!?」と彼女も驚嘆と苦い顔をするほどだ。


 直後、レイモンドの剣は地面に直撃しバキッと一メートルほどの凹みを作る。

 その衝撃によって空中に浮かび合った瓦礫をキャッチしたモンキチは、地面にスタッと着地すると手を組んで肘を突き出した。


「猿震力」


 カウンターに次ぐカウンター。そんなモンキチの一撃にレイモンドは盾を構えた。

 そして、ガードに成功したと思った矢先、盾を通じてレイモンドに襲い掛かるは強烈な衝撃の波。


「がはっ! ガード貫通か!?」


「ご名答。防御が固い相手には貫通一択だろ?」


 衝撃波によって一時的に動けなくなったレイモンドはその場に膝をつく。

 すると、モンキチはそんな無防備の彼女に追い打ちをかけるわけでもなく、通り過ぎて向かった先はヒナリータのミュウリンの二人がいる場所。


 瞬間、モンキチは持っていた瓦礫を振りかぶってミュウリンに狙いを定めて投げた。

 しかし、その攻撃はミュウリンを守るように立っていたヒナリータに弾かれる。

 故に、奇襲は失敗に終わったかと思われたが、モンキチからすればそれこそが奇襲だった。


「ミュウ姉はヒナが守る!」


 モンキチがヒナリータに向かって走る。

 そして、拳を振りかぶって殴り掛かってきた。

 その瞬間、聞こえてくるはゴエモンの声。


「嬢ちゃん、そいつじゃねぇ! もう後ろにいる!」


「っ!?」


 その言葉に囚われ、正面から来るモンキチへの防御に遅れるヒナリータ。

 当たると思われた矢先、その魔物は勇者の目の前で煙のように透けて消えた。

 そのことに驚いていると、背後から強烈な気配が近づいてくることに気付き咄嗟に振り返る。

 すると、そこにはすでにモンキチがいた。


「モンキーマジックだ。効いてくれて助かったぜ。おかげで僧侶(ヒーラー)を潰せる」


 この出来事を解説するなら、まずモンキチの瓦礫による奇襲へと時間が戻る。

 その魔物はヒナリータが防ぐ前提でミュウリンへと瓦礫を投擲した。

 その目的はミュウリンとヒナリータに奇襲を印象付けるためだ。


 突然瓦礫が投げられたのなら、誰だって身を守ろうと視線がそれに集まる。

 瞬間、モンキチは<モンキーマジック>という幻体を作り出し、あたかも突っ込んできているように見せかけ、本人は大外に回ってヒナリータの戦闘で狭まってる視界から外れる。

 それがモンキチによる奇襲の本当の狙いだったのだ。


「んじゃ、まずは潰れてくれ――モンパチ!」


 モンキチは素早く拳を繰り出した。

 なまくらとはいえ鉄の剣と打ち合える拳が残像を出すほどの速度で繰り出される。

 そんな強烈な一撃が不意を突かれて撃たれたとなれば、一撃でHPが全損ということもあり得る。


「あんまりボクを舐めないでくれるかな? ボクは戦える僧侶だよ――ウールガード」


「っ!?」


 されど、ミュウリンとて戦闘経験者だ。そして、体に持つ潜在能力は計り知れない。

 モンキチの奇襲の奇襲を予測した彼女は全身の羊毛を膨らませ、相手の拳が届く前に羊毛で止めてしまった。


「くっ、引き抜けねぇ!?」


 モンキチは咄嗟に腕を引き抜こうとするが、突っ込んだ右腕は全く引き抜けない。

 まるで右腕だけが巨岩にハマってしまったかのように。


「ふっふっふ、ボクの美声を聞くんだな――爆音波」


「ぐっ!!」


 ミュウリンは両手で構えた新武器であるメガホンに全力の大声を出す。

 瞬間、メガホンによって増幅された声はゼロ距離でモンキチを襲い、音の衝撃波は相手を吹き飛ばした。


 この攻撃にはさしものモンキチも大ダメージは避けられなかったのか口から僅かに血を漏らす。

 しかし、さすがにボスというべきか強靭なタフネスでもって持ちこたえた。


「ハハハ、やるじゃねぇの......ゼェゼェ」


「まだまだこれからだぞ!」


 ダメージで怯んでる隙を狙うようにモンキチの背後からゴエモンが突撃してくる。

 そして、ゴエモンは両手の剣を胸の前でクロスさせ、モンキチを間合いに捉えて剣を動かす――かと思われた。


「っ!?」


 しかし、結果はゴエモンがピタッと攻撃せず止まっただけ。

 咄嗟に後ろに蹴りを放ったモンキチの攻撃も空振りに終わる。

 するとその瞬間、真横から闘牛のように盾を構えて猛烈に突進してくるレイモンドの姿が。


「そうか、これはフェイントか!?」


「ご明察。なら、ご褒美にうちの最高火力を食らっとけ」


「タイガーバッシュ!」


「ぐふっ!」


 レイモンドの盾による全力タックル。

 モンキチは咄嗟にガードするが、片足立ちの状態で防げる一撃ではなかった。

 結果、モンキチの体はレイモンドという重戦車に轢かれ、空中へと跳ね上がる。

 そしてそこに、空中に浮かぶモンキチに同じ高さまで跳んだヒナリータが続く。


「スーパースラッシュ」


「白刃取り!」


 ヒナリータからの縦振り攻撃に対し、モンキチは両手で剣を受け止めることで防ぐ。

 されど、回避行動としてはそれで精一杯であり、無防備を晒すモンキチの胴体に勇者が強烈な蹴りを食らわせた。


「ぐはっ!」


 モンキチは地面に叩きつけられた。

 されど、ただでは転ばないその魔物は体がバウンドしたことを利用して、体を回転させて地面に着地する。


「ゼェゼェ......良い連携だ。想定よりもダメージを貰い過ぎちまった。ハハッ、弟子達に猿のこと言えねぇな」


 そんなことを言うモンキチであったが、その瞳には未だ闘志は消えていない。

 むしろ、より強い輝きを放ってさえしていた。

 そんな魔物はミュウリンのそばに集まったヒナリータ達を見て、体を中腰に構える。


「弟子達に連携を教えてるオレァが言うことじゃねぇが、やはり戦況を大きく左右させるのは強大な個の力だ。

 つーわけで、オレァが師範たる力の所以を見せてやるよ。

 強烈な一撃だぜ。耐えれるものなら耐えてみな」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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