表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/193

第135話 リベンジ戦

 銅鑼の音が闘技場に響き渡る。戦闘開始の合図だ。

 そして、最初に動き出したのはモンキチの弟子であるモンイチロー、モンジロー、モンシローだ。


「ウキー! 初戦と同じだ! 実力差を思い知らせて――」


「モンキークロス!」


「ぐえっ!?」


 威勢よく言葉を並べていたモンキチが一瞬にして消えた。

 それは一緒に動いていたモンジローとモンシローからは衝撃的な光景だ。

 直後、二体の背後からは何かが壁に激突したような大きな音が届く。


「へぇ、誰が何をするって?」


 急いで止まったモンジローとモンシローはすぐさま振り返る。

 そこにはいつの間にか背後に立っていたゴエモンがいるではないか。

 となれば、吹き飛ばされたのは一体しかいない。


「ウッキー!? お、お前、いつの間に!?」


「ウキキー! よくもモンイチローを!」


 モンイチローが吹き飛ばされたことに怒りを露わにする二体はすぐさまゴエモンへと襲い掛かる。

 しかし、その行動は割り込んできたレイモンドとゴエモンによって止められた。


「ウキー、やるじゃないか。だが、まだオレは倒れてない!」


 一方で、凹んだ柵に寄りかかるモンイチローは軋む体を持ち上げて立ち上がる。

 そして、言葉に込めた気合とともに壁を蹴ってスタートダッシュを決めた。

 真っ直ぐ走りだしたその魔物が向かったのは当然正面にいるゴエモンだ。


「ウキー! もう怒った! 必ず完膚なきまでに叩きのめしてやる!」


「そうかっかすんなって。俺はパーティの借りを一つ返しただけだぜ?」


 モンイチローはゴエモンに拳の猛打を繰り出す。

 もはや剣と打ち合えるほどに鍛え上げられたその拳をゴエモンは捌きながら、一度大きくバックステップで後退していく。


「ウキー! やはり先ほどのは開始速攻の一撃だったわけだな! 逃げるとは軟弱者め!」


 ゴエモンが打ち合いから逃げたことにほくそ笑むモンイチロー。

 戦いにおいて例え技術で負けてようとも精神で負けてなければ勝てる可能性は上がる。

 しかし、打ち合いから逃げたということはもはや精神でも負けたも同じ。

 そう思っていたその魔物だが、目の前で下がるだけの男もなぜかほくそ笑んでいた。


「おいおいチームワークの重要性を教えてくれたのはそっちだぜ?

 ってことで、まんまと釣りだされたお前はうちの勇者の一撃を受けるんだな!」


 直後、ゴエモンは真っ直ぐ上に跳躍した。高く、それは高く。

 空中からの攻撃としてはあまりにも不必要な跳躍高さに目を向けるモンイチロー。

 その意味深な行動に割く思考により、その魔物は正面から来る敵に反応が僅かに遅れた。


「スーパースラッシュ」


「っ!?――ぐはっ!」


 丁度、ゴエモンの背後に隠れていたヒナリータは奇襲に成功する。

 勇者の一撃はモンイチローのガードよりも早く胴を弾き、吹き飛ばしたのだ。

 そして、その一撃によって魔物は元居た柵の位置に戻るように移動し、再び強く背中を叩きつけられるとそのまま気絶した。


「ウッキー!? モンイチロー!?」


「ウキキー! 死ぬなー!!」


 全く動かなくなった仲間にモンジローとモンシローは焦りの声で叫ぶ。

 しかし、その二体とて今は交戦中の身である。

 当然、二体を邪魔しているレイモンドとミュウリンが僅かに生まれた隙を見逃すはずがない。


「おいおい、よそ見たぁいい度胸じゃねぇか!」


「なら、君達も行ってみよ~」


 二人は瞬時にそれぞれモンジローとモンシローの体勢を崩すと、同時にヒナリータへと放り投げる。

 しかし、勇者との距離はそこそこあり、二体の魔物が体勢を直すには十分だった。


「ウッキー! しめた! このままの勢いで勇者に突っ込むぞ!」


「ウキキー! バカめ、二対一で敵うわけがないだろ!」


 その二体の魔物は投げられた勢いを殺さず、それを推進力として利用しヒナリータに突っ込んだ。

 対して、勇者は不動の構えだ。まるで多数相手でも不覚はないかのように。


「ウッキー! 舐めやがって!」


「ウキキー! 後悔するなよ!」


「俺を忘れるな」


「「ぐふぇ!?」」


 モンジローとモンシローが気合を入れたその瞬間、高く高く跳躍してたゴエモンが剣を下に向けて落下してきた。

 たったそれだけの落下攻撃であるが、ヒナリータばかりに注視していたその二体にはクリティカルヒット。

 そして、ゴエモンに踏みつぶされたその二体は動かなくなった。


―――ドンドンォォォォン!


 突然鳴り響く銅鑼の音。戦いが終わった合図だ。

 そのことに拍子抜けした表情を浮かべる勇者一行。


「あれ? もう終わりか?」


「意外に呆気なかったな」


 そんなことを言うゴエモンとレイモンド。どうやら不完全燃焼の気分らしい。

 すると、観客席にいたモンキチが闘技場に降りてきて二人の言葉に返答した。


「そいつぁお前さんらがレベルアップした影響だろうよ。

 コイツらは数いる弟子の中ではトップクラスに優秀だ。

 だが、それは連携攻撃の話で個としての力はまだまだ発展途上」


 モンキチは柵に寄りかかって気絶しているモンイチローに近づいた。

 そして、目の前でしゃがみ手で弟子の頬を叩けば「完全に伸びてんなぁ~」と呟き、立ち上がると言葉を続ける。


「初戦で勝てたのはお前さんらとのレベルに開きがあったから圧倒できただけだろう。

 だが、いざ差が埋まればこんなもんさ。ま、当然油断もあっただろうけどな」


 勇者一行に勝利の要因を伝えたモンキチ。

 そして、言いたいことを言い終えると振り返り、今度は彼らに向かって質問した。


「で、どうしてトドメをささない? オレァらはこれまでの魔物と一緒だろ?

 情けのつもりか? そんな枝すら斬れねぇなまくらの剣でよぉ」


 勇者一行はモンキチの弟子との戦いで容赦なく剣を使用し斬りつけた。

 ならば、HPがゼロになったのなら消えるのがこの世界の魔物道理である。

 しかし、今もモンイチロー、モンジロー、モンシローが消えることはない。

 つまり、勇者一行に意図的に生かされているということになるのだ。

 その質問に対し、答えたのはヒナリーダたった。


「ヒナ達は一度見逃された。だから、見逃す。それに殺し合いを求めてるタイプには見えない」


「ハッ、そいつは買いかぶりすぐだぜ。オレァらだって殺る時は殺る。さすがに甘めぇよ。

 それに人も魔物も真に強くなる方は死を交えた戦いのみ。つまり、死合だ。

 だから、敵を見誤ると簡単に死ねるぜ?――()()()()()


 モンキチからのあからさまな挑発。しかし、ヒナリータの心は揺れなかった。


「なら、やってみればいい。ヒナ達は死なない。そして、ナナ兄を助け、クリスタルを貰う」


 その言葉にモンキチはニヤッと笑った。


「ハハッ、いいね~、話が早くて助かる」


 モンキチの瞳に闘志が宿る。

 医療班によって担架で運ばれた弟子達はもう闘技場(この場)にはいない。

 つまり、合図一つでいつでも戦闘が開始できる準備が整ったということだ。


「さて、念願の勝負だ。こう見えてもお前さんらと戦うのは期待してたんだぜ?

 俺は弟子達を通じて色々情報が入ってくるからな。

 あのシャチーク相手に奮闘したそうじゃねぇか」


 その言葉にヒナリータの耳がピクッと反応する。

 同時に、周りの大人達は大切な仲間が精神的ダメージを負わないか心配したが、それは結果的に言えば杞憂だった。


「......あのボスは強かった。ヒナだけじゃきっと......いや絶対倒せなかった。

 でも、あの時も今もヒナの周りには力を貸してくれる皆がいる。

 だから、今回もみんなで戦わせてもらう。卑怯とは言わせない」


「卑怯? 言うわけあるまい。オレァが求めてる勝負はお前さんらが揃ったパーティとしての力との勝負だ。一体数が少ねぇがそこは仕方ねぇ。

 つーわけで、オレァにお前さんらの力を見せてみろ。

 言っとくが、オレァは弟子達よりもヤワじゃねぇぞ?」


 そして、モンキチは銅鑼係に合図を送り、盛大な銅鑼の音ともにホットマウンテンエリアの最終戦が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ