第134話 火山の地下の闘技場
モンシローの挑発的な言葉。
その言葉に育ち柄ヤンキー根性が住み着いているレイモンドはすぐに言い返した。
「んだとぉ!? 舐めてんのか?」
「なら、早く来ることだな。おいらはあのネズミがいつ急に何をするか気が気じゃない」
レイモンドの圧を意に返さず涼しい顔で言ったモンシロー。
そして、彼はその言葉を最後に先へと進んでいった。
そんな意味深に聞こえる言葉に勇者一行は疑問符を浮かべるように首を傾げる。
また、ナナシが何かをやったのか、というのが大人達の意見であった。
が、一先ず先へ進むことを優先していく。
「早くアイツを追いかけよう」
「だな。とりあえず、この崖を登るか」
勇者一行は協力しながら小さな足場を点々とし崖を登っていく。
すると、登り切った先には両サイドの僅かな足場で整然たる様子で並ぶサルジャー達の姿があった。
その魔物達はモンシローと同じ道着を着ていたが、袖は千切れておらず比較的奇麗な格好だ。
そして、そんな魔物達は揃ってトランペットやトロンボーン、ドラムといった吹奏楽で使うような様々な楽器を構えながら立っている。
そんな魔物達の様子を勇者一行が不思議がって見ていると、突然事態は動き出す。
サルジャー達が勇者一行の姿を確認した途端、誰かに指揮されるでもなく一斉に演奏を始めたのだ。
すると、その演奏の曲に合わせて楽器から二メートルほどのバルーンのような音符が生み出され、それはポヨンポヨンと地面を弾みながら横切って移動しマグマの川に落ちていってる。
「なんだこりゃ?」
「なんだってどう見ても音符だろ」
「ただし、見る限り怪しい音符だけどね~」
大人達が揃いも揃って目の前の光景に感想を述べる中、ヒナリータだけは何を思ったのか近くに落ちていた石を拾って音符に投げつけた。
瞬間、直撃した音符はたちまち爆発していくではないか。
すると、その検証結果をヒナリータは冷静に分析した。
「触るだけで爆発する。両サイドの敵を倒しながら進むことも考えたけど、この音符が一斉に向けられたらきっとひとたまりもない。
それにアイツは“邪魔をする”って言ってただけで攻撃してくるわけじゃない。だから、躱して進むのが一番だと思う」
「なるほどな。確かに、敵であるオレ達を気にも留めず演奏を続けるだけ。
あのサルからすれば言葉通り試練ってわけだ。
まるで昔『音ゲーで倒せばいい』ってナナシが言ってた魔物と一緒だな」
「なら、とっとと暇してるだろう大将を助けに行くとするか」
「そんでもってあの三体組にも決着をつけないとね」
そして、勇者一行は音符を躱しながら移動を開始した。
レイモンドの言う通り、やることは音ゲーと一緒である。
サルジャー達が奏でる演奏に合わせて迫って来る音符をタイミングよく躱すだけ。
しかし、当然それを繰り返すだけが試練ではない。
その音符が迫る中で平然と襲ってくる魔物と戦ったり、綱のような細い足場の一本道でやたら横に伸びた音符を避けるためにバランスを保ったり、下から迫って来る音符を急いで崖に上りながら躱したり、全面マグマの川の中で僅かにある足場を点々と移動しながら音符を躱したりと色々。
また、各ステージごとに若干演奏が違うため、音符を避けるために曲調を覚えなければいけないこともあったり、全てがパーフェクトに避けれるわけではなかったので被弾して吹き飛ばされたところを仲間内でフォローしたりとそんな時間を数十分と続けた勇者一行。
そして、勇者一行の体力と疲労度が一度限界を迎えそうになったところでゴールが見えてきた。
というのも、辿り着いた入り口の前に「モンキチ道場」という看板があったからだ。
「ハァハァ......ようやくついたみてぇだな」
「ゼェゼェ......ひー、割にきつかった~!」
「ボク達はこの世界のデバフ効果も受けてるし仕方ない、かな.......ハァハァ」
「スーハ―......でも、これでようやくたどり着いた」
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。そして、決意を固めて勇者一行は先へ進んだ。
最初に見えてきたのは巨大な闘技場だ。
まるで某格闘漫画に出てくるような地下闘技場のような感じで、更地の周りには柵があり、そこから囲むように観客席が続いている。
その観客席には既に多くのサルジャー達が挑戦者を待ち構えるように静かに座っている。
当然ながらその席に座る全てがモンキチの弟子である。圧倒的アウェーは言うまでもない。
「ウッキー、待ちくたびれたぞ」
「ウキー、ようやく来たか」
「ウキキー、来てもらわないと困る」
そして、闘技場の中心にはモンジロー、モンイチロー、モンシローと順に並んでいる。
腕を組んで挑戦者を待つ佇まいはまさに強者の風格。
それがこれまでにない緊迫感を生み出していた。
その空気感に勇者一行も表情がやや強張る。
しかし、彼らも圧倒されるほどヤワな精神はしていない。
「どうやらやる気満々みてぇだな。ハッ、そうこなくっちゃ」
「リベンジさせてもらう。そして、ナナ兄を取り戻す」
血の気の多いレイモンドとヒナリータが言い返した。
どうやら二人は戦意が緊張をとっくに上回っているらしい。
今にも殴り掛からん気迫を纏っている。
「まぁ待て」
その瞬間、一つの声が響き渡る。発生源は勇者一行の背後だ。
彼らはすぐさま後ろへ振り向くと、腕を組む別のサルジャーがいるではないか。
直後、彼らはその纏うあまりに自然体でありながら隙がないその魔物を見て思う――こいつがモンキチだ、と。
「ほぉ、偉く反応が早いな。加えて、最初に気付いたのがちっこいのか。
もしかして、そこのちっこいのが勇者なのか?」
「ヒナはヒナ。ちっこいのって言うな」
「おっと悪りぃ悪りぃ。どうやら気概だけは一丁前のようだ。なら、後は実力が伴えば問題なしだな」
モンキチは勇者一行を迂回して弟子達の前に移動する。
そして、勇者一行の方へ振り返れば自己紹介を始めた。
「オレァはこの道場で師範をやってるモンキチってもんだ。
お前さん達の様子は弟子たちを通して知ってる。もちろん、望みのものもな。
あ、そうそうちゃんと人質が無事であることも教えてやらねぇとな」
モンキチは観客席の一方向を向いて「おーい、見せてやれ」と声をかける。
すると、その言葉を合図に観客席の最上段にいるサルジャーの一人が木の枝を差し出せば、枝先には紐で簀巻きにされてるナナシがいるではないか。
そして、ナナシはヒナリータ達の存在に気付くと慌てて体をバタバタ動かし大声で助けを求めた。
「わぁ~~~ん、ヒナえも~ん! 助けてくれよ~~~!」
思ったより様子のありそうなナナシ。
そんな小動物にヒナリータだけが安堵のため息を吐く。
一方で、大人達は、まるであのネズミはこの状況を楽しんでいるようだ、と何を考えてるか分からない仲間の思惑に呆れながらも笑った。
「んじゃ、余計な舌戦は勝負の邪魔だ。早速始めようぜ」
ナナシの生存報告も終えた所でモンキチは早速戦闘準備に入る。
その動作にあの弟子三人に加え師範も加わることを警戒した勇者一行だったが、モンイチローの言葉で少し流れが変わる。
「ウキー!? 師範、何してるんですか!? 初戦はオレ達でしょ!?」
「え~、いいじゃん。オレァも戦いたいんだが?」
「ウッキー! 師範の出る幕じゃありません!」
「ウキキー! こんな相手、おいら達だけで十分です!」
やる気満々のモンキチをなんとか止めようとする弟子。
すると、モンシローの言葉にヤンキー根性のレイモンドと、最近彼女に似てきたヒナリータが反応してしまった。
「あぁ? オレ達のこと随分舐めてるみてぇだな。前までのオレ達と思うなよ?」
「ヒナ達は借りがある。だから、まずはリベンジ戦。やられっぱなしは嫌。必ずぶっ潰す」
「......なるほどなぁ。挑戦者たっての希望ってんなら受ける側は答えてやるのが粋ってもんだ。
仕方ねぇ、出番だぜお前ら。不甲斐ねぇ戦いは見せんじゃねぇぞ」
「「「うす!!」」」
モンキチに鼓舞を送られ威勢のいい返事をする弟子達。
そして、その威勢を言葉にして勇者一行に叩きつけた。
「ウキー! 返り討ちにしてやる!」
「ウッキー! 二度目の敗北を味合わせてやる!」
「ウキキー! 師範に挑む前に終わらせてやる!」
そんな挑発的な言葉に乗らない勇者一行ではない。
「ハッ、そう言えるのも今の内だ」
「レベルアップした俺達ならお前らなんか苦じゃねぇよ」
「それじゃ、リベンジさせてもらうよ」
「......倒す」
両者の意気込みも揃ったところで、モンキチはササッと観客席の一番上に登る。
そして、銅鑼の前に立つサルジャーに合図を送った。
「それじゃ、良い戦いを見せてくれよ――始め」
―――ドオオオオォォォォン!
銅鑼によって盛大に鳴り響いた音ともに戦いの火ぶたは切って落とされた。
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