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第132話 捕虜とは思えない捕虜

「バランスブレイカー? 大層な名前だね。一体どういったことが?」


 モンキチから突然告げられた言葉にナナシは首を傾げた。

 しかし、聞き返す彼の表情にまるで困惑が見られない。

 その事にモンキチはため息を吐きながら答えた。


「気付いてんだろ。自分の異常さを。オレァの部下は修行と称して色々な所に派遣してる。

 んで、当然海での戦いも遠くから様子を見させてもらったが......あのシャチークにまともに攻撃出来るのはお前以外あのパーティじゃ無理だ。それにさっきのモンハチローの話もな」


「モンジローです、師範」


「俺は仲間を助けるのに必死で()()()()一発イイのを貰って気絶してただけなんだけどね」


「イイのもらって外傷も無く気絶だけっつーのもおかしは話なんだがな。

 それに殴られた後、木に強く叩きられたって話なのにそのダメージも確認できねぇ」


 モンキチはナナシの言葉を信用していないようで疲れたため息を吐く。

 そして、目の前の理不尽な存在に視線を向ければ、今後の扱いに頭を悩ませた。

 すると、ナナシは自分が如何に健全な存在かアピールし始める。


「まぁまぁ、そんな悩むことないって。

 現に俺はこうして捕まってるし、皆の助けを待つ憐れなネズミなんだよ?

 どこにもバランスを崩す要素がないじゃないか。健全、健全」


「どこら辺がだよ......」


「そんなことよりも、俺はその言葉を投げつけた真意を知りたいけどね」


 その言葉にピクッと反応したモンキチがナナシをじーっと見る。

 相変わらずこのネズミは簀巻きにされて吊るされてるというのに、誰よりも落ち着いて薄ら笑いを浮かべていた。


「......この世界にルールを提供した存在を知りたいんだ。知的好奇心ってやつだな」


「ほうほうなるほど。どういう経緯で?」


「経緯は大したことじゃねぇ。オレァ達はドロロン様に生み出されたが、そのドロロン様は神......人間が住む世界(外界)で言う“人”に作られた存在だ」


 ドロロンは人によって生み出された最初の存在だ。

 そして、精霊界を侵略するために必要な外界の知識を与えられている。

 生み出された一番最初に生み出されたモンキチにはその知識の一部が流れていた。


 モンキチはこの世界でまず気になったことは外界との常識の違いだった。

 そして、精霊界にはあって外界にはないものが色々あったが――その中でも代表的なものがステータスだ。


 RPGゲームを知っているナナシからすればなじみ深い設定だが、そもそもその概念がゼロの人物からすれば不思議な概念としか思えない。


 そんな違いをモンキチは疑問に感じた。

 すぐに外界の知識にアクセスしてみたが、そんな概念(ルール)はどこにも存在しない。

 故に、興味深いと思いつつも、ずっとステータスについては思う所があったのだ。


「この世界のルールは異様だ。自分の成長や能力を可視化できるのは非常に便利だ。

 だが、これほどまでの概念の付与なんてそれこそ神にしか出来ねぇ。

 もちろん、精霊ってのが神の眷属ってのは知ってるが、眷属が世界の概念の想像なんて出来るものなのか?」


「精霊王なら出来るかもね。なんせ、この精霊界は精霊王によって顕現し維持されてるんだから」


「かもな。だから、俺はこの不可思議な現象を知りたいんだがな。

 どうにもドロロン様は知識を与えられても(おつむ)があまりよろしくねぇみてぇでな。

 そんなんだからのんびりやろうしてたところにお前さんのような異質が現れた」


「なるほど、それでバランスブレイカーね」


「お前さんなら何か知ってるんじゃないかってな。

 もしくは、お前さんがこの知識の創造主だったりしてな」


 モンキチは鋭い目つきでナナシに斜め上の考えを問う。

 そんな弟子達ですら縮み上がりそうな威圧をひょうひょうと受け流している様子のナナシは答えた。


「ぶっちゃけ、その答えらしきものは知ってるよ」


「ほう、なんだ?」


「それじゃ、答えてあげる代わりにそろそろ縄解いてくれない?

 さすがにこの体勢がずっとっていうのは辛あっさり


「おう、いいぜ」


 ナナシが交換条件で出した案を意外にもあっさり通すモンキチ。

 しかし、そんな師範の行動に反対したのは弟子達だ。

 彼らは慌てた様子で師範に意見した。


「ウキー! し、師範! それはさすがに危ないのでは!?」


「ウッキー! このネズミは師範ですら手に負えない存在なんでしょう!?」


「ウキキー! 止めた方がいいですって! 今ならまだ間に合います!」


「構わねぇ、解け。こいつが本当に動き出そうとしたなら、オレァ達はすでに終わってる。

 だが、そうしないってことはコイツにもコイツなりの思惑があるってことだ。

 つまり、今のコイツには大人しくしてた方がメリットがある」


「そうそう仲間が成長して助けに来てくれるかもしれないしね。

 ただまぁ、結果的に博打しちゃった感じになったから不安半分でもあるんだけどね、アハハ~」


 そう言いつつも軽い笑い声をしているところはまるで不安を抱えてるように感じさせない。

 それどころか必ず仲間達がここに来るかのような確信に近い落ち着きっぷりだ。

 そんな態度のナナシに対し、モンキチの彼に対する気味悪さの心象は上がった。


 そして、モンイチローに縄を解いてもらったナナシは地面に着地すると大きく伸びをする。

 それから、求めた要求を呑んでくれたモンキチには対価を出した。


「で、さっきの話だけど、俺達はすでにこの概念が三百年前にこの世界に入った大人の入れ知恵だってことを知っている。

 なんたって、精霊王じゃないけど精霊本人に聞いたからね」


「そうなのか......ん? 待てよ? オレァがこの世界の常識を探る時にとっ捕まえた精霊に来た時には、この世界の成立は百年前って聞いたぞ。

 なんでも、その百年前に女神様ってやつから外界の様子を観察してくれっていう指示を受けただかなんだかで」


「へ?」


 自信満々に情報を開示したナナシはモンキチからの思わぬ情報に固まる。

 そして、すぐに腕を組めばこの情報の違いについて考え始めた。


 ......モンキチの情報からすればこの成立は百年前。

 しかし、自分がビビアンから聞いた情報だとこの世界は少なくとも三百年前には成立してることになる。


 当然、まず初めに確認すべきはモンキチの嘘であるが、言っている本人は嘘をついているような顔をしてなければ、そのようなタイプでもないだろう。

 であれば、今度疑うのは自分が聞いたビビアンからの情報である。


 とはいえ、精霊王に直接会いに行けるほどの精霊が誤った情報を持っているだろうか。

 ......微妙に怠惰な性格が見え隠れしてるから信じ切れないのが何とも言えないところだ。


「お前さんよ、その情報に聞き間違いはないんだな?」


「俺は無いよ。言ってる本人が間違ってる可能性は否めないけど」


「それはこっちもだからお互い様だ」


 ナナシとモンキチが頭を悩ませていると、何かを目配せしていたモンイチローとモンジローが互いに決心したように頷き、モンイチローが手をあげた。


「ウキー、あ、あの......それならオレ達にも情報があります」


「ウッキー、師範と同じようなことを聞きまして、その時には成立は五百二十年前と聞きました。

 二人で聞いて二人とも同じなんで間違いないです。で、その精霊はさらに『知識は勇者から持たされた』って言ってました」


「おいおい、また偉く跳んだな。つーか、仮に五百年前だとしても初代勇者の存在記録が残ってるのは三百年前のはずだぞ? 聞いた精霊ごとに情報がメチャクチャなんだが」


 モンイチローとモンジローからの情報で増々訳が分からなくなって苦笑いをするモンキチ。

 その一方で、ナナシは頭の中で靄がかかったように見えない何かを感じ、眉間にしわを寄せながらそっと上を向いた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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