第131話 再起の時間
ミュウリンによって完全に落ち着きを取り戻したヒナリータは、姉とともに洞窟近くでキャンプしているレイモンドとゴエモンの場所に戻ってきた。
「どうやら落ち着いたようだな」
「嬢ちゃんの顔がスッキリしてっしな」
レイモンドとゴエモンが優しく言葉をかける。
その言葉にじんわりと胸の内側から暖かい気持ちを感じたヒナリータはサッと頭を下げた。
「勝手に一人で行動してごめんなさい!」
誠心誠意の謝罪。自分が行ったことをキッチリと理解している故の言葉だ。
そして、少女は頭を下げながら言葉を続ける。
「ヒナは守られることが嫌で、ずっと一人で戦えるようになろうと頑張ってた。
だけど、それが失敗してナナ兄が捕まってしまった。
ヒナだけの力じゃどうにもならない事が分かったの。
だから、どうかヒナに力を貸してください!」
そんな願いは二つ返事で答えたいレイモンドだったが、彼女とて自分の保護者としての立場が甘かったことは理解している。
だからこそ、もう一度確かめた。
「ヒナ、テメェは弱い。ま、オレ達もだがな。
だが、少なくともオレ達の方が場数は踏んでることは確かだ。
オレ達のレベルが上がれば十分にあの魔物達ともやり合える。
その状況でテメェが後ろで見守る立場でいたってオレ達は何も文句は言わねぇ。
それでもテメェは戦う......それでいいんだな?」
レイモンドからの真意を尋ねる問答にヒナリータは顔を上げる。
そして、勇者という立場だからこそ芽生えた覚悟でもって答えた。
「ヒナはもう迷わない。自棄にならない。そして、一緒に戦ってナナ兄を助けたい」
そんな反応に仲間の三人は嬉しそうに笑う。
それまでのヒナリータはずっと大人しく受け答えも静かで内向的だった。
しかし、そんな少女がここまで自分の気持ちをハッキリと言葉にしている。
この旅は確かに少女の心身の成長ための旅なのかもしれない。
そして、ひと段落ついたところで急ぎたいのは山々だが、今日はこのまま休息を取ることにした。
先にレイモンド達が食事を用意していたようで、全員で鍋を囲って食事をする。
そんな久々の食事は空腹や疲労がマックスというこれ以上ないスパイスが加えられているせいか、今までの料理の中でトップクラスに入る美味しさだったという。
それから、料理に舌鼓を打ちながら始まったのはここにいないナナシの話題だ。
「ナナ兄......大丈夫かな?」
「大丈夫だろ、アイツだし。正直、殴られた程度で死ぬ奴じゃねしな」
「でも、ナナ兄は誰よりもHPは低いはずだよ?」
レイモンドの言葉に向けられたヒナリータの純粋な疑問。
普通なら少女の心配は当然なのだが、事情を知っている大人達からすればやられたことが疑わしいのだ。
つまり、外界の魔法が使える以外にも何か秘密を隠してるんじゃないかということだ。
しかし、その事実はナナシにとってヒナリータには隠しておきたい秘密のはずだ。
故に、大人達は目配せすると、適当な理由をでっちあげて誤魔化すことにした。
なぜなら、これはあくまでヒナリータの物語なのだから。
「そういえば、ナナシさんはあの魔物達と戦う前に一つレベルアップしてて、そこで身体強化魔法を覚えて、攻撃力と防御力を底上げしてたんだよ」
「それにオレが咄嗟に<タートルシールド>をしてたからそれもあるかもしれねぇな」
「嬢ちゃんは敵三体に囲まれてただろ? 連携の取れた一対複数の戦いは初めてのはずだから、それでこっちに気付くことが難しかったんだよ」
「......なるほど。ハァ、良かった」
大人達の嘘を真に受けて安堵するヒナリータ。
もっともらしい嘘なので余計に気づきにくいというのもあるかもしれない。
「......」
ヒナリータはふと自分の肩を見る。ナナシが乗っている位置だ。
いつもならいつでもテンション高めにしゃべってる小動物がうるさくて仕方ない。
しかし、いざいなくなるとこんなにも周りが静かに感じて寂しく感じ――違う! 違う!
「「「?」」」
ヒナリータは激しく首を横に振った。この感情は決してそんなんじゃない、と。
これはあくまでナナシの忠告を聞き入れておけばよかったという申し訳ない気持ちであり、決して一緒に居なくてつまらないとか、会いたいとかの感情ではない。
「ヒナちゃん、顔赤いけど大丈夫?」
「っ!?」
ミュウリンに指摘され、ヒナリータは自分の頬を触る。
いつにもなく赤く、じんわりと顔に熱を帯びているのを感じた。
違う、これはまた一緒に話したいとかではなく、その――
「こんな気持ちにさせるナナ兄が全部悪い!」
「「「!?」」」
突然吐き出したヒナリータの感情のこもった言葉に大人達もビックリ。
同時にさっきまで心配してたのに一体何があった、と思ったようだ。
しかし、すぐにピーンと来るのが少女のよき理解者たるミュウリンである。
「ふっふっふ、なーるだね~」
「っ!? ち、違うから! ミュウ姉が思ってることは的外れ!」
「おやおや、ボクは何も言ってないよ~。でも、憧れを混同させる気持ちはわかるよ」
「ミュウ姉~~~!!」
「「???」」
わちゃわちゃする姉妹を見ながら、レイモンドとゴエモンは首を傾げた。
全員の絆がまた確かに上がった所で夜は一層に更けていく。
―――ホットマウンテン深層近く
「......きろ。起きろ」
「......ん? 知らない天井――じゃなくて顔面がある」
ブラーンブラーンと簀巻きにされてぶら下がっているナナシの正面には、見たことないいかついサルの顔があった。顔にある傷はいかにも強面だ。
そのサルはナナシが目覚めたことに気が付くと、距離を取って正面に座る。
そして、咥えタバコのように枝を加えながら自己紹介を始めた。
「オレァ、モンキチっつーものでな。サルジャーを導き指導しているモンキチ道場の師範だ」
「ワァ―オ、ボスじゃない。まさかこんな形で会えるとは。
で、わざわざ話しかけてくるなんて何の用?」
まるで捕まっているような状態には思えない態度を見せるナナシ。
そんな小動物に対し、師範に不遜な態度をしているということで周りにいる弟子二人が起こり始めた。
「ウキー! 師範に対して何たる態度!」
「ウッキー! 今すぐこのネズミを処分すべきだ!」
「やめておけ。お前らじゃ傷一つつけられねぇ......いや、それはオレァも含めてか」
モンキチの突然の発言にモンイチローとモンジローは動揺した。
なぜなら、彼らにとってモンキチこそが最強なのだ。
そんな最強の人物が自らの力を持ってしても傷つけられないと言わせる小動物。
であれば、このネズミは一体何なのか? と思う弟子二人。
そんな二人の疑問を加速させるようにモンジローが発言する。
「師範の言う通りだと思うっす。
おいらは勇者に向けて思いっきりぶつけるはずだった拳を邪魔してきたこのネズミにぶつけた。
師範に褒めてもらった一撃だ。それこそ勇者とてひとたまりもなかったはず」
モンジローは自身の拳をまじまじと見つめ言葉を続けた。
「だけど、その時の感触はまるで壊せない巨岩を殴ってるような感覚で......だから、今もこうして平然と生きてる」
「加えて、オレァがいる場所は火山の深層だ。
オレァやお前らは鍛えてるからマグマの熱気に平然と耐えられる。
だが、常人にはこの場に居続けるだけでダメージを負うだろう。
だからこそ、このネズミの異常さが浮き彫りになる」
モンキチとモンジローの言葉を聞き、目の前のネズミが気味悪く感じるモンイチローとモンジロー。
そんな二人をよそにモンキチはナナシに話しかけた。
「つーか、戦闘の経緯を聞いたが、こうして捕まったのもきっとワザとだろ? なぁ、バランスブレイカーさん?」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)




