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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第4章 ヒナリータクエスト

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第130話 姉の想い

―――時は六年前


 まだ人魔大戦が行われており、戦いも佳境に入っていた頃。

 勇者一行が魔王城近くの死の森まで近づいてきていた時に、ミュウリンの父親である魔王は彼女と末っ子の王子を自室へと呼んだ。


「お父様、どうされたんですか?」


「来たか、ミュウリン、フェイン。お前達に大事な話がある」


 深刻な顔をした父親にその当時のミュウリンは既に気付いていた。

 やがてこの魔王城が戦場になるということを。

 しかし、それを口にしないのは魔族がまだ負けていないと信じてるからだ。

 されど、そんな彼女の想いとは裏腹に父親はハッキリ言葉にした。


「もうすぐ我ら魔王軍は負ける。その時、ここは間違いなく戦場になるだろう。

 だから、お前達だけでも逃げろ。これがせめてもの父親の願いだ」


「待ってください、お父様! お父様は魔王軍(みんな)が負けると思ってるのですか!?」


 魔王あるまじき発言にミュウリンは王女の立場として激怒した。

 魔王軍は魔王やこの国のために戦っている。

 であれば、王族の我らは死ぬまで勝利に手を伸ばし続けることは義務であると。


 ミュウリンとて父親の性格は理解していた。腕っぷしが強いだけの優しい人。

 そして、誰かに悪口を言われようと文句を言われようと、挙句には物を投げつけられようと笑って済ますほどのお人好し。


 だからこそ、自分の家族には甘いのは理解していたし、このような行動は理解していた。

 そんな言葉を向けられながらも父親は自分の意思を負けず答える。


「ここにはもうすぐ我でも対処できない強大な存在がやってくる。

 その存在にお前達が目につけられるようなことがあってはならんのだ。

 お前達は我が妻ルリリアとの大切な宝。

 どんなことをしても守りたいというのが父親の気持ちだ」


「おうとさま、僕も一緒がいい! お父様と離れたくない」


 フェインはミュウリンのそばから離れると父親の足にしがみついた。

 少年は五歳ながらもこれからのこと展開が予想できたのであろう。

 たたでさえ甘えん坊な息子の願いだ、父親としては叶えて上げたい。だが――


「悪いな、フェイン。お前は優しい子だ。その優しさでお姉ちゃんを守ってやれよ」


 悲しい眼差しでフェインの頭を撫でた父親。

 可愛い我が息子が泣くのを必死に我慢しながら頷くのを見ては嬉しそうに笑った。

 そして、今度はミュウリンへと目線を向ける。


「ミュウリン、勅命だ。フェインを連れてこの城を脱出しろ。

 死の森のとある場所に我が直々に結界を仕掛けた村がある。

 そこまで向かまで向かえば安全なはずだ。必ず生き延びろ」


 父親からの強く優しい瞳にミュウリンは静かに涙し頷いた。

 それから、コートを纏いフードを被った彼女は弟を連れ、さらに父親が直々に選出した親衛隊に守られながら死の森に入る。


 そして、父親が指示した村に向かうまでの道中、次々と護衛が死んでいった。

 死の森に突入した人類軍の兵士と衝突したり、死の森に住む魔物が戦場の血の気に興奮して暴れたりと様々な理由で。


 最終的に、一日と数時間かけて走り続けた中で十五人いた親衛隊はたった一人になってしまった。

 その一人が先行して道の安全を確保しながら、後ろをついていくミュウリンと手を引かれながら走るフェイン。


 そんなある時、村までもう少しというところで周囲の気配が一様に激しくなり始めた。

 森がざわめき、空気は緊迫し、息が詰まるような虫の知らせを感じる。

 自分達の周りには襲い掛かる敵や魔物もいないというのに。


 ミュウリン達はその違和感を感じながらも、わき目もふらず走り続けた。

 周りに何もいないということは今が進むチャンスだと。

 そんな中、フェインだけが天に向かって伸びる光の柱が遠くにあるのを確認する。

 そしてやがて、それは段々と近づいてきたことに気付いた。


「お嬢様、もう少しです!」


「うん、わかった。フェイン、もうひと踏ん張り――」


「お姉ちゃん!」


 その瞬間、振り返ったミュウリンはフェインに両手で突き飛ばされた。

 そのコンマ数秒後には彼女のいた位置に高さ二十メートルはある光の斬撃が通過する。

 つまり、現在フェインがいる位置に直撃したのだ。


―――ガガガガガ!


 地面を裂きながら突き進む光の斬撃は地平線まで伸びていく。

 その攻撃が通過した周囲は風圧で木々が根元から吹き飛び、更地と化していた。

 であれば、斬撃が通過した場所には塵一つ残らないだろう。


「お嬢様! 大丈夫ですか!? お嬢.....さ......ま......」


 斬撃が通過して地面が避けた数十センチ横。

 そこにぺたんと座り込むミュウリンを見た時、最後の護衛は絶句した。

 なぜなら、そこには姉と手を繋いでいたフェインの右腕しか残っていなかったからだ。


「フェイン......? フェイン.......?」


 あまりの一瞬の出来事にミュウリンは言葉が出て来なかった。

 泣くどころか何が起こったか理解できず、弟の右腕をじーっと見ては静かに胸に抱き寄せる。


 右腕の傷口は焼けているの血が出ていない。

 血があればまだ認めるのも早かったかもしれない。

 しかし、自然と間違った誰かの手と思ってしまう。

 されど、この場に誰もいないことは理解していた。

 そう、単に事実を受け止めたくないだけだ。


「う、うぅ......うわあああああああ!!!」


 ミュウリンの目から大量に溢れ出る涙。

 怒りよりも憎しみよりも悲しみが感情の全てを支配した。

 自分は弟に助けられたのだ、と。


「誰だ、貴様!」


 ミュウリンの背後からは護衛の声が聞こえる。

 しかし、振り向いてる余裕なんてなかった。

 彼女は無我夢中で走り出す。

 弟が繋いでくれた命を生かすために。


―――現在


「......そして、ボクは村に辿り着いたんだ。

 あの時、確かにフェインに助けられた。フェインに押されたことで攻撃を避けて。

 村に助かった後はフェインを殺した相手に怒りも憎しみも凄かったさ。復讐しようとも思った」


 湖に浮かぶ自分の姿を見ながらミュウリンは話す。

 その時の表情は意外にも穏やかだった。

 もしかしたら、余計な感情を思い出さないようにしてるだけかもしれないが。


「でも、ミュウ姉はしなかった。ナナ兄の村での話を聞いてたらそう思う」


「うん、しなかった。ボクはね、復讐もある意味正しい選択肢だと思うよ。だから、反対しない。

 だけど、ボクとしてのその感情は助かった命を消費する行動に近いと思うんだ。

 それで復讐して失敗しちゃったらさ、せっかく助けてもらった命を無駄にしてしまうから」


 その後、ミュウリンは「単にボクが臆病ってだけかもしれないけどね」と笑って言うが、その話を聞いていたヒナリータはそうは思わなかった。

 なぜなら、この姉は父親を殺した勇者であるナナ兄を許してしまうほどのお人好しだから。


「ボク、ヒナちゃんの気持ちもわかるつもりだよ。

 あの時、ボクが先に光の斬撃に気付いていれば、今頃きっとフェインも生きてたかもしれないし。

 でも、それは結局仮定の話で、過去の出来事をどうにかできるなんて神様ぐらいだと思う」


「......」


「けどさ、今だったらまだ間に合うと思うんだ。

 ナナシさんはそう簡単に死ぬ人じゃないし、この失敗もまだ取り返しがつく。

 一人で大抵のことは出来ちゃう凄い人もいるけど、ヒナちゃんはそうじゃない。

 なら、そうじゃないなりにもっと色々と周りを使っていいと思うんだ。

 それにヒナちゃんは一人じゃないんだ。もっとボク達を頼ってよ。

 僕達、頼られるの好きだからさ」


「......ミュウ姉。うぅ.....ミュウ姉」


 ミュウリンの優しい言葉はヒナリータの荒々しい心を優しく解きほぐす。

 そして、少女の心は温かさに溢れ、それは涙となって感情に現れた。


「ふふっ、よしよ~し。ちょっと頑張りすぎちゃっただけだもんね」


 ミュウリンは泣き止むまでの間、ずっと妹の頭を撫で続けた。

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