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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第4章 ヒナリータクエスト

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第125話 ボス戦 シャチーク#2

 ナナシから放たれた放電は瞬く間にシャチークを包み込んだ。

 しかし、その攻撃範囲にはナナシとミュウリンも含まれているわけであり、それは自傷を伴った攻撃であることは言うまでもない。


 であれば、明らかな格上であるシャチークの方が当然体力は多いわけであり、自傷覚悟で攻撃を放っているナナシとミュウリンの方が尽きるのが早い。


「がああああああ!?」


 しかし、現状はほとんどシャチークだけが強烈な電撃攻撃を受けているような状態になっている。

 これがナナシとミュウリンが組んだ理由である。


 まず、ここまでの経緯を説明すると、移動速度も攻撃力も防御力も体力も高くて多いシャチークに確実なダメージを与えるには隙を作るしかない。

 そのためにナナシはまず陽動として探偵君を動かし、シャチークに意図的に隙を作らせた。


 しかし、一度目の行動はあくまで仲間に攻撃チャンスを作らせるためであり、同時にヒナリータから離れたナナシを認識させないためのものだ。


 そして、ヒナリータに攻撃意識が向いた隙にナナシは探偵君に運んでもらい、ミュウリンまで移動。

 同時に、運び終わった探偵君は元の位置に戻ってもらい、ナナシが小ささを活かしてミュウリンの羊毛の中に姿を隠せば準備完了。


 そこからの流れは先の通りであり、そしてナナシがミュウリンと組んだのは単純に耐久勝負となると思ったからだ。

 そして、ナナシには継続回復が出来る魔法があり、ミュウリンには状態異常も解除できる単体回復があるのを利用して耐久勝負に持ち込んだのだ。


 その結果、ダブル回復効果でダメージが削られたそばから回復し、実質シャチークだけがダメージを受けているようになった。


 また、<真水の球体(アクアリウム)>を発動させたのも意味がある。

 というのも、海水は不純物が多いのでただ電気を流すと周囲に広がり、仲間達にも感電してしまう恐れがある。しかし、真水であれば違う。


 真水は絶縁体の効果を持ち、電気を遮断する。

 よって、真水に囲まれた球体の内側だけが感電領域になるということである。


「がはっ......」


 ナナシが攻撃を止めると、目の前のシャチークは口から煙を吐いていた。

 しかし、強力な電撃攻撃を食らってもなお倒れていない様子で、その場から距離を取ると、息を切らしながら不敵に笑った。


「ゼェゼェ......まさかこのオレ様がここまで追いつめられるなんてなぁ。

 俺の命ももはやあまりねぇ。なら、オレ様のとっておきでまとめて片付けてやるよ!」


 そう宣言したシャチークは球体を描くようにグルグルと泳ぎ始めた。

 その泳ぐ速度は時間が経過するごとに増していき、やがて海の王の姿が残像となるまで高速移動を繰り返した。


「何をするつもりだ?」


「さぁな。だが、意外にも隙がねぇ。無防備に突っ込めば弾き飛ばされるぞ」


「それに少し嫌な予感がするんだよね。

 さっきアレだけ大見栄切ってたし、何かあると思った方がいいかも」


 シャチークの不可解な動きにレイモンド、ゴエモン、ミュウリンが目を細めて見た。

 しかし、数十秒経過しても特に何かしてくるような気配もない。

 であれば、こちらから仕掛けても良かったのだが、まるでカウンターのように待ち構えている姿勢はどうにも攻めあぐねる。


 その時、最初に変化に気付いたのはミュウリンの頭の上に移動していたナナシだった。

 「ん? 何か吸われる?」と小さなネズミ姿である彼の体が少しだけ前に引きずられるような感覚がしたのだ。


 彼が思わず周囲を見ても特に何かあるわけでもない。

 であれば、勘違いと済ましたいところだが、どうにもその違和感は時間経過で大きくなる。

 試しに海の揺れ方と比べてみたが、それとはまったく別のものだとわかったのもあって。


「ん?」


 ふとナナシが魔力で得た視界を移動させると、そこにはミュウリンの縛った髪が正面方向に移動していることに気付いた。

 しかし、髪が揺れるとすればそれは普通海の揺れに合わせてになるはずだ。

 その瞬間、ナナシはシャチークの行動意味を理解し叫ぼうとする――が少し遅かった。


「「「「「っ!?」」」」」


 全員の体が一気に前に引き寄せられるかのようにグンと動いたのだ。


「オウオウ、なんだこれは!?」


「バーロー、吸い込まれてんだバーロー」


「泳げ! 必死に泳げ! だよな!?」


「これ飲み込まれたら不味いパターンのやつですよ~!」


 ドルピッグ達が一斉に振り返り、吸い込み続けるシャチークの球体を背に必死に泳いでいく。

 しかし、海流を逆らって泳げるシャチークの高速移動による吸い込みは、それこそ海流よりも遥かに流れが強く、彼らは抵抗も虚しく吸い込まれていった。


 そして、そのまま動き続けるシャチークに直撃か......と思われたが、恐怖に目を閉じた陰キャ君が目を開ければ、そこは穏やかな海中だった。

 ただし、周囲には閉じ込めた獲物を逃がさないように高速回転で球体を描くシャチークがいる。


「これ、捕まったってこと?」


「あぁ、そういうことになるな。加えて、これで終わりじゃない」


 周囲の状況を見ながらヒナリータが近くにいる仲間に尋ねる。

 その言葉に苦い顔をしながら答えたのはレイモンドだった。

 そして、周りではドルピッグ達が青ざめた表情で叫ぶ。


「オオオオウ、こ、これはヤベェ......マジヤベェ!」


「ババババーロー、おおお落ち着けバーロー」


「お前が落ち着け! にしてもこれは......死ぬ! だよな!?」


「あなたはもう少し慌ててください! 諦めないでくださいよ!」


 ドルピッグ達がわちゃわちゃとしていると、全方向から聞こえるようにシャチークの声が響いてくる。その声は上機嫌だった。


「ガハハ、これがオレ様のとっておきマリンフィールドだ!

 そして、ここからが真骨頂! その攻撃はまさに荒れ狂う海の如し!

 防げるものなら防いでみな――テンペストオルカ!」


 周囲を高速で泳ぎ続けるシャチークが放ったのは三又の鉾を使った突きだった。

 しかし、ただの突きではない。全方向からほぼ同時多発的に放たれる突きだ。

 前も後ろも右も左も上も下も関係なく全てが平等に一切の隙が無く攻撃が襲い掛かる。


「タートルシールド全力解放(フルトリガー)!」


 すぐさまレイモンドが仲間達全員を取り囲むような巨大で透明な障壁を作り出す。

 直後に襲い掛かるは嵐の夜に窓に打ち付ける雨のような鉾の猛攻。

 シールドでガードするしか防ぎようのないその攻撃は見ているだけで悍ましい恐怖を感じるかのようだ。


「これで何とか防いでいるが、ここからはアイツとの持久戦になる!

 だが、正直こっちのシールドを破られる方が早い! 今の内打開策を見つけないと全滅するぞ!」


 レイモンドの切羽詰まった表情が全てを物語っていた。

 それほどまでの危機的な状況。

 それをわかっていながらも答えが早々に出て来ないのが現状だ。


「そんなことは分かってるが......つったってシールドに守られてる内側から攻撃なんて出来ないだろ?」


「あぁ、無理だな。壊れるのが早まるだけだ」


「そのままの状態で脱出するとかは?」


「シールドはオレの中心で発生してるから不良君が移動すれば座標を移せるだろう。

 だが、問題はアイツが頭が回ることだ。一点突破に切り替えられたら一瞬で壊れる」


 ゴエモンとミュウリンがそれぞれ現状打破の方法を提案するが、そでは突破は不可能とレイモンドが否定する。

 その時、話を聞いてたヒナリータから衝撃的な一言が飛び出した。


「......ヒナが囮になる」


「「「っ!?」」」


「な、何を言ってるんですか!? ヒナさん!?」


 ヒナリータの言葉に一同が困惑の表情をする中、提案した勇者はその作戦の有用性を主張した。


「大丈夫、無茶で言ったわけじゃない。

 あのボスはヒナを欲しがってた。そして、嫁にすると言っていた。

 つまり、あのボスはヒナを殺したいわけじゃない。

 だから、今わざわざ周囲を攻撃してレイ姉のシールドを破壊しようとしている」


「そ、そうか......確かに考えてみれば、速度で圧倒的な有利を持っているあのボスからすれば、こうなった時点で一点突破でシールドを破壊すればいいはず。

 しかし、わざわざ時間をかけてシールドの耐久値を削ろうとしているのは、万が一ヒナが傷つかないようにするためか」


「うん。だから、あえてヒナが前に出ることでこの攻撃を止めて隙を作る。これが一番いい作戦だと思う」


 ヒナリータの提案は現状を打破するにはもっとも有効的な作戦だった。

 しかし、同時にそれはあまりにもリスクが高いこと意味している。

 例えば、怒りに支配されて攻撃を止めない場合だったり、止めるはいいものの速度の違いを活かして攫われてしまったりなど。


 その懸念点があるため仲間達は信用してゴーサインが出せない。

 信じたいのは山々だ。しかし、それに足る実力が足りない。

 それを誰よりも理解してたのはずっと黙っていたナナシだった。


「ヒナちゃん、その提案はとても素晴らしい。まさに勇者のような発言に俺も鼻が高いよ。

 だけど、信用にはどうしても実力が必要だ。功績が必要だ。それがなければただの虚勢になってしまう」


「でも、それ以外にこの場を解決する方法はない! ナナ兄は信じてくれないの!?」


「信じてるさ。ヒナちゃんは勇敢で優しくて素敵な女の子。

 だけど、戦闘に関しては様子見......それが現状さ」


「っ!?」


 ヒナリータの瞳が揺らぐ。されど、ナナシは言葉を続けた。


「俺はヒナちゃんの一番のファンであり、味方であり――そして保護者なのさ」


「......」


 ナナシからハッキリと告げられた言葉にヒナリータは顔を暗くして伏せる。

 そんな小さな女の子の姿を見て居たたまれない気持ちになった陰キャ君が「......何もそこまでハッキリ言う必要ないじゃないですか」と言い返した。


 その言葉に対し、ナナシは言い返すこともなくただ悲しい笑みを浮かべて受け止めると、流れを戻すように自分の作戦を言い始める。


「これから少しだけズルをする。それでシャチークの動きに隙を産んだら、ヒナちゃんと陰キャ君以外は全員突っ込んでしがみついてでも動きを止めてくれ」


 随分と大雑把な内容にミュウリンが「それだけ?」と聞けば、ナナシは「それだけ」と返答した。

 しかし、その後の展開で先ほどと違うのはレイモンドもゴエモンもミュウリンも動き出したことだ。

 なぜなら、それだけ信用に足る実力があるから。


 ナナシは落ち込むように静かなヒナリータをチラッと見ると、拳をギュッと握り前を向いて言った。


「それじゃ、始めよう――これでシャチーク討伐作戦を」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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