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第122話 キラーバイティング#1

 目の前に突如として現れた海エリアのボスであるシャチーク。

 三メートルもの巨体と、自身よりはるかに大きいパックンタートルを一撃で沈める攻撃力。

 被っている王冠や目元に賭けているサングラスも相まって漂う強者の風格はまさに王。


 そのボスに対し、裏切り者であるドルピッグ達四体はこれからのボスの言動にガタガタと体を震わせていた。

 無理もない、相手はドルピッグ達が束でかかっても勝てない相手なのだから。

 加えて、彼らは意外にも気が良い連中なのでボスに対する裏切りの罪悪感もあるのだろう。


「精霊の実の供給がしばらく前に途絶え、様子を見に行くよう伝えた子分達が帰ってこない。

 あの村の連中にそんな芸当が出来る連中はいないはずだったが......テメェらなら出来んじゃねぇのか? なぁ、勇者一行」


 佇むだけで怯んでしまうような威圧感に、無理やり心拍数が上げられるような視線。

 勇者一行は目の前の存在が間違いなく格上の相手であると理解した。


 とはいえ、勝負の世界はどちらが勝つか分からない。

 たとえ相手より弱くても作戦や閃きで強者を撃破することも可能である。

 ただ、その行動には絶対に必要なものがある――それは臆さない心だ。


 勝負は様々な要因で勝率へと変換されるが、その中でも重要なピースが“臆さない心”である。

 それを持っているかいないかで勝負の結果が決まるといっても過言ではない。


 臆さなければ冷静に物事を見れる。

 物事が見れれば、その対策が出来る。

 対策が出来れば、それに合わせて動くことが出来る。

 動くことが出来たのなら、十分に戦うことは決して不可能ではないだろう。


 故に、臆さない心を持っていればどんな戦いであろうと勝機は生み出せる。

 その条件を勇者一行は満たしているようで、誰一人として目を逸らしたり、引け腰になってる者はいない。

 その力強い雰囲気がドルピッグ達にも伝わったのか彼らの震えが止まった。


「フッ......どうやら相手にとって不足ねぇみたいだな。

 早速勝負――と行きてぇところだが、その前に裏切ったテメェらのケジメを決めなきゃいけねぇ」


「「「「ヒッ!?」」」」


 とはいえ、怖いものは怖いドルピッグ達。シャチークの一言にビクッとしてしまう。

 裏切り者達が依然敵対するような強い視線を持っていることに気付いたボスは上機嫌に笑った。


「ガハハ! いいじゃねぇか、その目! たまにはそういう奴もいねぇと張り合いがねぇってもんだ!

 ってことで、テメェらにはこれから生き延びるためのチャンスをやろう。勝負の前の前座ってやつだ」


 シャチークの言葉の意味を察した陰キャ君は「まさかアレを......?」と呟く。

 その言葉にヒナリータが「どういうこと?」と聞けば、彼は説明し始めた。


「これからやるのはキラーバイティングというデスレースです。厳密に言えば、追いかけっこですが。

 ともかく、親分が後ろから追いかけてきますから、それに追いつかれないようにゴール地点に辿り着ければいいという話です。

 シンプルなレースですが、この勝負で生還できた仲間は一人もいません」


 深刻な表情で言う陰キャ君にヒナリータは思わず息を呑んだ。

 それほどまでに危険なレースをこれからやるということに肩が強張る。

 すると、シャチークの言葉に異議を唱えたのは不良君だ。


「お、オジキ! 本当にそれをやるのか!?」


「あたりめぇだ! 雄は吐いた言葉を曲げたりしねぇ。

 それに安心しろ、最初は純粋にオレ様との勝負で、これは子分達との勝負だから勇者一行を直接狙うことはしねぇ。余波は知らねぇけどな」


「お、オレ達がもし勝ったら.....?」


「そん時は自由よ。安心しな、解放した後に殺すなんてことはしねぇ。子分達が勝手に動くこともな。

 じゃなきゃ、勝者としての権利がねぇからな。オレ様はそこまで外道じゃねぇ。

 ただし、負けたならそん時は仲間のための糧となれ。

 だから、死にたくなかったらせいぜい頑張って足掻くことだな」


 というシャチークからのとても慈悲のある言葉を与えられたが、そもそもの話このレースで生還者はゼロ体。つまり、誰もシャチークから逃げきれてないということだ。

 故に、ボスのやっていることは希望をちらつかせて絶望に叩き落としていることも同じ。

 間接的な死刑宣告にドルピッグ達は再び体を震わせ、探偵君と熱血君は思わず弱音を吐いた。


「バーロー、死にたくねぇよバーロー」


「死ぬのは嫌だ! 生きたい! だよな!?」


「腹決めな。オレ様とテメェらは今や敵同士。雄が集まってやることは一つ――死闘だ!!」


 そして、キラーバイティングは始まることになった。

 その際、シャチークはハンデとして「十秒後に出発する」と宣言した。

 しかし、ハンデを貰ってもなお怯えた様子の陰キャ君にヒナリータはそっと頭に手を置いて勇気づける。


「陰キャ、ヒナ達がいる。だから、頑張れ」


「ヒナさん......はい、全てを出し切ってでも逃げてみせます」


 その力強い声かけは各々のコンビでも行われたのかドルピッグ全員が吹っ切れた表情をして海流の中に潜っていった。

 それから数秒が経過した後、ヒナリータの頭の上で少女の耳を掴んで後ろを向くナナシが、先ほどのシャチークの宣言に対して呟く。


「にしても、十秒もハンデをくれるのか。海流に乗って逃げるならかなりの距離を稼げるんじゃないか?」


「残念ですが、そのハンデは無いようなものです。見てればわかります。

 ボクは泳ぎに集中していますので、近づいてきたり何か飛ばしてきた時は言ってください」


「わかった。ヒナ達も迎撃した方が良いよね?」


「はい、ぜひお願いします! でないと死にます! ボク達が!」


 陰キャ君の鬼気迫る表情に少しだけ気圧されたヒナリータ。

 気を取り直して少女もレースに集中すれば、ナナシに現在のスタートからの秒数を聞いた。


「ナナ兄、今どのくらい経ったかわかる?」


「だいたい七秒ぐらいだ。どのくらい進んだかはわからないけど、体感で二キロは進んだか?」


「だとしたら、ヤバいですよ。そんなの絶対追い付かれます」


「そんなにヤバいの?」


「もうマジヤバです。後ろを警戒していてください」


 陰キャ君に指示されたヒナリータとナナシは揃って背後を見る。

 そして、ナナシが「十秒経過した」と言った瞬間、その位置秒後には遠くに黒い点が見えた。

 それは時間を経過するごとに大きくなり、七秒経過した時には肉眼でもハッキリとシャチークの姿が捉えられた。


「「ヤバ」」


 ヒナリータとナナシが声を揃えて同じ感想を漏らすほどにヤバい速度で追いかけて来るシャチーク。

 さながら原付でかっ飛ばしてる後ろからレーシングカーが追いかけてきているようなものだ。


「ガハハ! 見えてきたぜ! テメェらのダラしねぇ後ろ姿がよ!

 オラ、もっとスピード出しやがれ! そんなんでこのレースを生き延びられんのか!?」


「ヤバい! この速度じゃ追い付かれるぞ! もっと出せないのか!?」


「これ以上は無理です。維持するのが精いっぱいです。それに追いつかれること自体は問題ないです」


 陰キャ君のその言葉にヒナリータは首を傾げる。


「これって追いかけっこじゃないの?」


「確かにそう言いましたが、親分の目的はボク達を捕まえることじゃありません。

 逃げるボク達を攻撃して行動不能にすることです。

 ですから、ボク達は親分の攻撃を避けながら目的地であるボスの拠点に向かえばいいだけです」


「なるほど、そのための援護ね」


「わかった。邪魔させない」


「お願いします!」


 そして、シャチーク対勇者一行の熾烈な追いかけっこが幕を開けた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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