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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第4章 ヒナリータクエスト

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第118話 村を取り巻く状況

 精霊国ヴィネティアがドロロンによる侵攻を受け始めてからしばらくして、海の方から妙な連中がやってきた。

 サングラスに王冠をつけ、シャチの姿をしたシャチーク率いるドルピッグの集団だ。


 ビッグウォーター村にやってきたシャチークが最初に言った一言は「この海及び近くの村は全てオレ様のものになった」という宣言だった。

 当然、突然やってきたよそ者に村を支配されるなどあってはならないこと。


 シャチーク達を退けようと精霊達は攻撃を仕掛けるが、その魔物の前では為すすべもなく返り討ちに遭ってしまい、さらに精霊の数体が捕らえられてしまう事態となってしまった。


 すると、精霊を捕まえたシャチークは「解放して欲しければこの村にある果実を寄こせ」と告げた。

 その果実とはこの精霊の国でのみ自生する木から出来、精霊が好んで食べることから精霊の実と称される果実だ。


 その果実には膨大な魔力が詰まっており、それを精霊以外が食べれば瞬く間に強くなれる禁断の実であるが故、この世界に招いた子供達にも食べさせるものではない。

 ましてや、仲間を解放するためとはいえ、敵を強化してしまうなどもってのほか。


 しかし、仲間を助けるためには背に腹は代えられず、結果的にその実をあげれば仲間は一人解放されるという条件のもと、精霊達は必死に精霊の実をあげてしまった。


 とはいえ、精霊の実はもともと実をつける数も少なければ、それを作る木も少ない。

 よって、保管していた精霊の実も全てあげてしまい、仲間の解放のための精霊の実が足りない状況になってしまったのだ。


 精霊達が精霊の実をあげれなくなってからしばらくしてやってきたのが先ほどの勇者一行が倒したドルピッグ達だったのだ。


「今頃、精霊の実を食べてる敵どもは着実に力をつけているじゃろう。

 どのくらいの強さは分からんが、以前回収に来たドルピッグが自慢してきた時は『シャチーク様はオレ達が二十体いても敵わない』と言っていたから、今や相当の強さじゃろう。

 勇者様達はワシらを脅かす脅威を倒してくれるとのことじゃが、ゆめゆめ油断なさらぬよう。

 そして、攫われた中にはワシの大切な孫娘もいる。どうか皆を救ってくれ」


 村長は丁寧に頭を下げてお願いした。そんなお願いを断る勇者はいない。

 勇者としての自覚が芽生え始めてきたのかヒナリータが積極的に言葉を返した。


「任せて。必ず助ける」


「恩に着る」


 そんなやり取りを見ながら、頬杖を突いていたレイモンドは先の村長の言葉を思い出し呟いた。


「しっかし、そんなに強ぇ相手なのか。今のレベルで大丈夫か?」


「まぁ、さっきの戦いの感じだとドルピッグ相手ならそこまで脅威じゃないだろうね。

 ただし、それはあくまで陸上で戦った場合だ。

 相手が海にいるなら俺達は相手のホームに飛び込まなければならない」


「っていうか、どうやって海行くの?」


 ナナシの話を聞いたミュウリンはふと思ったことを言葉にする。

 その重要な問題に誰もがハッとする。そう、今度戦う場所は海。

 つまりは海中の中で戦闘しなければいけないということだ。


 その環境下での一番の問題は呼吸をどうするかである。死活問題だ。

 完全環境適応生物である某Mおじさんでもなければ、息継ぎなしでの戦闘は不可能。


 せめて人間界の世界であれば魔法でどうにかできるが、ここは精霊の世界でありその世界のルールが適応される。

 ナナシ達大人が著しく弱体化してるのもそういう意味であり、そこを覆すことはそれこそ不可能だ。


 故に、どうにかして海中でも戦闘可能な方法を探さないといけないというわけだが、そんな問題を一発で解決する代物がある。

 それはナナシ達が悩んでいる間に村長がどこかの部屋から持ってきたバッチだ。


「これは水中バッジというものじゃ。水の精霊に作らせたものでな、これを衣服につければ息継ぎなしで水中を移動できる。

 もともとは遊びに来た子供達に自由に海の中を探索してもらうためのものじゃが、勇者様達に必要とあらばお使いくだされ」


「なんというご都合展開!」


「まぁいいじゃねぇか大将、問題は早いとこ解決に限るだろ」


「それじゃ、これをつけて海の中に入ってシャチークを探す?」


 ヒナリータがそんなことを言う。どうやら早速海に入る気満々のようだ。

 そんな勇者の言葉に賛同したい気持ちでいっぱいのナナシであったが、そこはもっと楽で効率的な作戦の方が良いと思い返答した


「ヒナちゃんの考えは最もだ。しかし、広大な海の中を闇雲に探すのはあまりに合理的じゃない。

 ってことで、ここは一つ俺の作戦で奴らを利用としようと思う。

 ただ、それには少しだけ準備があるから具体的な詳細は明日ってことで」


「なんだよ、えらく勿体ぶるじゃねぇか」


「ふっふっふ、俺にはどうしても叶えたい夢があるからね」


 そんな意味深な言葉を残すナナシの発言を最後に本日のミーティングは終了した。

 ただ、それが終わっても日はまだ高い時間なので、今日の残りの時間は各々好きなように過ごし始める。


 ゴエモンが村を散策し始めたり、ナナシがレイモンドに拉致られる中、しばらく村の中を見ていたヒナリータは村の外のすぐ近くにある砂浜にポツンと一人で水平線を眺めるミュウリンを見つけた。

 その後ろ姿がなんだか寂しそうに感じ、勇者は仲間のもとへ駆け寄る。


「ミュウ姉、そんなところでどうしたの?」


「ん~? いつか皆にお話しできるようにたくさんの景色を目に焼き付けてるんだ」


「それはナナ兄の話をした時に住んでた村にいた皆のこと?」


「そうとも言う」


 二人は並んで砂浜越しに見えるキラキラと宝石のように輝く海を眺めていた。

 まさに絶好のオーシャンビューといった感じで、その壮大な光景に目が奪われる。

 その時、獣人の鋭い気配察知が周囲から飛んで来ている視線に気づいた。


 ヒナリータがその視線に振り返れば、村を歩く精霊や木陰から覗く精霊が不安そうな顔をして様子を伺っていた。きっと彼らが見ていたのはミュウリンであろう。

 そして、妹が視線を戻した時、姉は表情こそ変えていなかったがどこか寂しそうだった。


「皆、ボクが怖いんだよ」


 ミュウリンが突然そんなことを言った。

 一切振り返らずに状況を理解しているような口ぶりだ。

 ただ、実際浴びせられる視線の感情と魔族を取り巻く状況を考えれば辿りつく答えではある。


「ボクは魔族だからね。仕方ない事さ。魔族は人類ひいてはこの世界を脅かしたんだから」


「でも、ミュウ姉は何もやってない」


「やってなくても同じ種族である以上そう見られるのさ。

 もちろん、そのままってわけにはいかないけどね。

 というわけで、ボクは皆と一緒に旅が出来ること、ヒナちゃんが怖がらずに懐いてくれてることが何よりも嬉しいんだ。ありがとね~」


 ヒナリータの優しい否定に嬉しそうに笑うミュウリン。そこには偽りの陰りなど微塵もない。

 そんな姉の様子を見て妹も嬉しそうに笑う。しかし同時に、この現状に悔しさもあった。


「ミュウ姉は優しい。のほほんとしてるけど、お茶目でお姉ちゃんしてくれて力強く前を向いている。そんなミュウ姉が誇らしい。

 だからこそ、何も知らないで勝手に怖がられるという状況が悔しくてたまらない。だから、変える」


「ヒナちゃん......?」


 ヒナリータはミュウリンの手を取ると「こっち」と言って連れ回し始めた。

 そして、村に戻ると早速近くにいた精霊に話しかけていく。

 勇者に話しかけられた精霊は嬉しそうに反応するも、すぐに近くにいる魔族の姿に不安そうな顔をした。


 精霊は少しずつ二人から距離を取ろうと試みる。

 しかし、勇者に話しかけられて早々に逃げだせるわけもなく、そもそも勇者も逃がすはずもなく。


 結局、勇者の気の済むままにミュウリンを挟んで話していれば、段々と精霊の顔をも良くなってきた。


 一人の精霊と話し終えれば、すぐに近くの精霊を捕まえて強制的に会話に持ち込む勇者。

 そんなことを何回か繰り返していると、ミュウリンが行動の意味を尋ねてきた。


「なんでこんなことを?」


「さっき言った。ミュウ姉は悪い人じゃないと知ってもらうため。

 それにここに来る道中に『精霊は良くも悪くも純粋だから話せばわかる人が多い』ってナナ兄が話してた」


「......そっか」


 それからはミュウリンも積極的に参加して話すようになった。

 魔族である彼女を見て最初こそ邪険にしていた精霊も多かったが、彼女が気さくな人物だとわかると案外あっさり態度が急変した。


 そんな少しずつ自分の印象が変わっていく様子に、ミュウリンはいつかの村で勇者相手に魔王の娘がやっていたことを思い出す。これはまさにその再現なのだと。


「ふふ、それじゃ全員と話しちゃうぞー!」


「おー!」


 気合の入った拳を空に突き上げ、やる気いっぱいの二人。

 そんな二人の姿を後方腕組み彼氏のような立ち位置で見ていたのがレイモンドとナナシだった。

 ナナシはレイモンドの両手にガッチリホールドされた状態でカッコつける。


「ほら、見守ってて正解でしょ?」


「フッ、みてぇーだな。なんつーか、親心的なものでついつい心配しちまってたみてぇだ。

 だが、どうやらオレが思ってるよりも子供の成長は早いみてぇだな」


「気持ちはわかるけどね。俺だって甘やかしたい気持ちに駆られるけど、ずっとそばに居れるわけじゃないから。

 様子を見て本当に助けが必要な時にそっと手を差し伸べて導くぐらいが丁度いいのさ。

 なんでもかんでも助けるばかりじゃヒナちゃんのためにならない」


 その言葉にレイモンドがじーっとナナシを見ていると、その視線に気づいた囚われのネズミはそっと首を上に向ける。

 その動作を可愛いと内心で思いながら彼女は言った。


「やっぱテメェって色々考えてるよな」


「やっぱじゃないよ、たまにさ。ところで、いい加減俺を開放する気はない?」


 その質問にレイモンドはフッと笑う。


「ないな。テメェがそんな(可愛い)なりをしている以上は。

 オレがファンシーなの嫌いじゃないって知ってるだろ?」


「知ってるけど......! い~や~、た~す~け~て~!」


 ナナシはジタバタともがくが小動物と人間では力の差は歴然。為すすべも無し。

 そんなネズミの虚しい叫びが僅かに染まり始めた茜色の空に響き渡った。

読んでくださりありがとうございます。

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