第109話 目指す道
身長百七十センチほどの精霊王と名乗る妙齢の女性ビクトリアは前置きもなく勇者一行に助けを求めた。
普通なら、その助けを求める理由を聞くところだが、それは既にビビアンから聞かされていたので、その言葉をすぐさま勇者達は受け入れていく。
ナナシはすぐそばにある顔に小さな声で話しかけた。
その言葉にヒナリータはコクリと頷き、代表者である勇者が救援の声に答える。
「ヒナ達に任せて。それで何をすればいい?
大体の内容はビビアンちゃんから聞いてる」
「えぇ、この世界をわーってしてきたドロドロが、どんどんわたくし達の土地をとりゃあああしてるのです。
それに対し、わたくし達はそりゃあああとしましたが、相手の力と見た目が強大でうわあああとなってしまいまして」
「「「「「???」」」」」
おおよそ落ち着いた大人のお姉さんという見た目の人物から聞こえてくることはない幼稚な言葉。
感覚派の天才がフィーリングでやっていることを説明する際の絶望的な説明の下手さを見ているようだ。
会話の合間にやってくるインパクトが強すぎてイマイチ内容が入ってこない勇者一行は、全員が全員して顔をしかめていた。
すると、ビクトリアの隣でふよふよと浮かぶ赤ん坊サイズの眼鏡をかけた精霊は先の精霊王の発言に対してフォローし始めた。
「申し訳ありません。我らが精霊王の発言は少々幼稚な部分がありますので、この私サトリンが翻訳させていただきます。
といっても、フィーリングで何となくわかると思いますが、この世界を襲ってきたドロドロことドロロンはこの世界の森を次々と瘴気で枯らしているのです」
それから、サトリンの内容を要約するとこうだ。
この世界にやってきた瘴気の王ドロロンは森を次々と白い木に変えていっている。
“死の森”と呼ばれるそれはあっという間に勢力を拡大し、今では世界の五分の一まで支配してしまった。
それを止めに入った精霊王であったが、木を枯らすほどの瘴気は精霊とて無事では済まない。
精霊王はドロロンが侵略した場所に居た民を救うため、敵大将と戦い負傷した。
その際、精霊王はネックレスとしてつけていた大事なペンダントが壊れてしまったのだ。
ペンダントには大事なものが入っており、それの封を開けるためのペンダントにハマっていた三つのクリスタルが世界のどこかに散らばってしまった。
精霊達はすぐさまそのクリスタルがどこにあるか探し求めていったが、未だ見つからないというのが現在だ。
「えぇ、サトサトの言うとおりだわ」
「精霊王様、客人の前でその呼び名はやめてください」
「で、そのぴかぴか石をあなた達に見つけて欲しいの」
「クリスタルのことです」
「そして、ドロドロを――」
「ドロロンです、精霊王様。いい加減覚えてください」
「ドロロロンをわーしてきて欲しいの」
「ロが一つ多いです。倒してきて欲しいとのことです」
もはやビクトリアよりサトリンと話していた方がもっと会話の時間が短くて済むのではないかと思い始めた勇者一行。
もっと言えば、現状況においてはサトリンの方が王の威厳がある。
ともかく、精霊王からの要求は聞いた。
もとより救うために来たのだから、今更怖気づくなんてことはない。
そんな言葉を一番小さな魔術師が言った。
「ふふっ、お任せください! こちらにいる勇者ヒナリータのイカレたメンバー、サルのゴエモン、トラのレイモンド、ヒツジのミュウリン、そしてプリティマウスのナナシが必ずやこの世界を救ってみせます!」
「「わっ! ペットがしゃべった!?」」
「はい! ヒナちゃんの愛玩動物も兼任してます!」
その言葉にピクッと反応したヒナリータは素早く肩からナナシを引き離す。
「いつの間にかついてきた害獣なのでそちらで処分して」
「ごめんなさい。謝りますから汚いものを触るように尻尾掴まないで」
「......次はない」
それから、話を終えた勇者一行は精霊王のいる部屋を出て、一階下のフリースペースにやってくると、一つの机を囲んでこれからの方針について会議を始めた。
「さて、それじゃこれからどこへ向かうか決めようか。
現状、俺達がいるのがここ精霊国ヴィネティアで、かつて精霊王が戦った場所というのがボースフィルドと呼ばれる場所」
テーブルの上に広げられたサトリンからもらったマップの上で、ネズミナナシが足で地名をタップする。
そのまま小動物は説明に合わせて移動した。
「で、精霊王の情報だとペンダントにくっついていた三つのクリスタルは、それぞれ“ドキドキの森”ことホラーフォレスト、“ザブザブの海”ことウェーブマリン、“アッチッチ火山”ことホットマウンテンの方角に飛んでいったとされている。
ま、あくまでそう見えたらしいから具体的な位置じゃないけどな」
「それじゃ、この三つの中からどこへ行くかだな」
クッションを抱え込むようにヒナリータを膝の上に乗せているレイモンドは、ナナシが説明した三つの地名を見ながら考え始めた。
彼女の言葉に最初に考えを発言したのはゴエモンだった。
「なら、普通に一番近いウェーブマリンに行けばいいんじゃないか?」
「まぁ、現時点じゃどこも情報は持ってないしね~」
ゴエモンの提案にミュウリンも同意を示し、レイモンドも「まぁそこでいいか」と頷く中、一人ナナシだけは腕を組んで一つの地名を指した。
「いや、最初に行くべきはここだ」
「ここって......ホラーフォレストか? なんでだ?」
「俺達はまだ全然レベルが低い状態だから、序盤にレベルを上げつつ攻略に適してるのはここだと思うからだ」
その言葉にレイモンドは納得するように頷くがすぐに当然の疑問が湧く。
なぜそこら辺の場所の方が今の戦闘力でレベル上げに適しているを知っているかということだ。
「なぁ、なんでそんなこと知ってんだ?」
その疑問に対し、ナナシは首を傾げる。
「さぁ?」
「はぁ? 知ってて言ったんじゃねぇのかよ?」
「なんとなくそんな感じがして。直観ってやつかな。
ほら、この森の近くにあるここが俺達がこの世界にやってきて歩いてこの国に来た場所だし。
そうだよ、これが理由だ。うん、これが言いたかったけど抜けてたみたい」
「大将の言う通りなら、確かに序盤に適してるかもな」
「ヒナちゃんはどう思う? 今回、ヒナちゃんがリーダーだから、ヒナちゃんが決めた方が良いと思うな」
ミュウリンの言葉にヒナリータは腕を組み、じっとマップを睨む。
目を閉じ、しばしの間考える後、カッと目を開き一つの場所を指した。
「ここ――ホラーフォレストにする。ヒナは......ナナ兄のこと信じてみようと思う」
「ナナ兄っ!?」
突然に呼ばれた推しからの兄呼びにナナシのハートはズキュンと射貫かれる。
そのまま彼は心臓を抑えたままぺたんと寝そべった。
そんなネズミを無視しながら仲間達はさっさと撤収し始めていく。
「んじゃ、決まりだな。出発は明日でいいだろ」
「確か、王様の側近の言葉だと子供が居住できるスペースがあるらしい。
そこを今は俺達用に改造しているみたいだから、今日はそこで寝泊まりすればいい」
マップを畳み回収したレイモンドと、大きく伸びをするゴエモンは先に移動を始めた。
一方で、レイモンドがマップを回収する際にゴロゴロとひっくり返されても起きなかったナナシを回収したミュウリンは、すぐそばにいたヒナリータに許可を求める。
「ヒナちゃん、今日の夜......ナナシさんを借りていい?」
「?......うん」
ヒナリータから許可を貰うと、ミュウリンは「やった♪」とその場で一回転。
そして、「それじゃいこっか」と少女の手を取って紹介された部屋まで歩き始めた。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)