第108話 王道システム
ついにナナシ達の戦闘準備が終わり、ドロスラ達もその気配を察する。
時はバトルフェイズに移行するが、ナナシ達は未だ武器や装備が何もない。
ミュウリンの頭の上で腕を組むナナシは、彼女の肩に降りて試しに一つの指示を出す。
「ミュウリン、全員眠らせる魔法あったよね。アレをやってみてもらっていい?」
「いいよ~――よい子よ眠れ」
ミュウリンは素早く息を吸うとアカペラで歌い始めた。
その心地よいフィーリングミュージックにドロスラは全員睡眠状態に入る。
「よし、これでこちらの攻撃ターンを稼げた。
さて、ここからは能力値の検証だ。
ゴエモン、レイモンドは順番に敵一体に攻撃してみてくれ」
何か考えがありそうなナナシの指示に二人とも素直に従った。
最初にゴエモンが動き出せば素早く敵に近づき、ドロスラ一体を攻撃。
蹴り飛ばされたドロスラは黒っぽい煙を出しながら消滅した。
その次に、レイモンドが動き出すが、彼女の動きは見てて鈍重そうだった。
寝ているドロスラに拳を叩きつければ、一体のドロスラがプチンと潰れ、殴りつけた衝撃で近くのドロスラが吹き飛ばされる。
そのドロスラは目を覚まし、レイモンドに対して突進する。
しかし、トラ女にガードされて大したダメージは与えられなかった。
「なぁ、これでいいのか?」
「あぁ、たぶんだけど理解してきた。さて、次は俺の番かな」
「びりりん」
ナナシが起きているドロスラに向かって雷の魔法を放つ。
空中を走る紫電は瞬く間に敵へと近づき、直撃した。
瞬間、ドロスラは再び姿形を煙のように消していく。
「さて、今度は――」
ミュウリンの肩からぴょんと降りたナナシは寝ているドロスラに近づき、走った勢いのママドロップキックを仕掛けてみる。
ナナシの蹴りは確実に敵に直撃したが、敵の柔らかボディによって弾かれてしまった。
「う~む、やっぱり。最後にヒナちゃん。攻撃してみてくれる?」
「......わかった」
ヒナリータは自分の手を見て、ギュッと拳を握ると、意を決して突撃した。
そして、近づいたドロスラを蹴り上げた。
瞬間、敵は目を覚ます前に力尽きた。
―――レベルアップ
「「「「っ!?」」」」
脳内に流れた音声とともに体を纏う青い光が僅かに発光し始めた。
直後、戦闘に参加した全員が体の奥から力が湧き出るのを感じめ、一匹のネズミはこの世界のシステムを理解した。
「おめでとうございます。どうやら先ほどのドロスラでレベルアップしたみたいですね」
「レベルアップ?」
その疑問を言葉にしたのはレイモンドだ。
その問いに答えたのはビビアンではなく、ナナシだった。
「この世界の成長システムのことさ。
敵を倒すと経験値が入り、それが一定に達すると今さっきみたいな力が湧き出る感覚がする。
たぶん、ステータスとかもあるんじゃないかな」
「おや、この世界のルールを良く知ってますね。
ぶっちゃけ、この世界に人が入るなんて久々すぎて、私ですら日常のことを説明するの忘れてましたのに」
それから、ビビアンが説明したことを要約するとこうなる。
まずこの世界のシステムを一言で表すなら“オープンマップRPG”と言った感じだ。
現実に即してどこにでも行くことを可能としながら、ゲームのようにレベルアップシステムがある。
RPGを基にしているため、一人一人にステータスという自分の現在の能力値表が存在する。
項目は“攻撃”、“防御”、”素早さ”、“魔法”、“魔法防御”の五つであり、装備枠として“武器”、“防具上”、“防具下”、“装飾品”の四つがある。
また、当然ながらステータスは個人によって差異があり、出来ることや出来ないことがある。
ただし、戦闘システムはターン制ではなく、流動的に戦闘が行われるFPSのようなものだ。
「ちなみに、この世界のシステムを考案したのは、300年くらいの大昔に? 特例で入った大人の入れ知恵らしいですよ。
なんでも『ゲーム感覚で子供達は努力して強くなる感覚を覚えるから、小さい頃から努力する遊びを覚えた子は大人になっても努力を怠らない』っていう理由で。
あれ? なんでこんな言葉を覚えてるのに肝心なその大人を思い出せないんでしょうか?」
ビビアンが一人腕を組んで首を傾げる中、精霊のおかげで世界のシステムを理解したナナシ達はそれぞれ自分のステータスを確認する。
「ヒナリータ」Lv.2 役割 勇者 MP15
HP 20
攻撃 9
防御 7
素早さ 6
魔法 6
魔法防御 5
<装備枠>
無し
<スキル>
猫パンチ(消費2)
「ゴエモン」LV.2 役割 軽戦士モンキー MP10
HP 18
攻撃 7
防御 5
素早さ 9
魔法 5
魔法防御 4
<装備枠>
無し
<スキル>
モンキークロー(消費3)
「レイモンド」Lv.2 役割 重戦士トラ MP10
HP 21
攻撃 10
防御 9
素早さ 5
魔法 3
魔法防御 4
<装備枠>
無し
<スキル>
肉球スタンプ(消費4)
「ナナシ」Lv.2 役割 魔術師ネズミ MP15
HP 15
攻撃 1
防御 3
素早さ 8
魔法 10
魔法防御 8
<装備枠>
無し
<スキル>
びりりん(消費3)
みんな元気になーれ<継続回復>(消費2)
「ミュウリン」Lv.2 役割 僧侶ヒツジ MP15
HP 17
攻撃 5
防御 6
素早さ 6
魔法 8
魔法防御 7
<装備枠>
無し
<スキル>
良い子よ眠れ(消費3)
回復しゃぼん<単体回復>(消費2)
これが現時点でのナナシ達のステータスの一覧である。
各々自分のステータスを確認した所で、ビビアンへ向き直した。
「とりあえず、細かい所の説明は後にして、全員大まかに理解できたから今後の流れを聞かせてくれるかい? 確か、この世界を救って欲しいんだったよね」
「はい、そうです。ですが、敵は強大です。
ですので、まずはこの先にある精霊国に向かいましょう。
それにこの世界の詳しい事情は精霊王様に聞くのが一番かと」
ナナシはぴょんとヒナリータの肩に乗ると、地平線の先に向かって指を差す。
「それじゃ、まずは精霊王に会いに行こう!」
「「「「おー」」」」
一行は森の中を歩き続け、やがて遠くに精霊の国らしき場所が見えてきた。
天を衝くような巨大な木が目印のその場所に近づくと、ボロボロになってツタが絡みついた石造のアーチの前に武装して槍を持った精霊がいた。
ビビアンのおかげで国の中にスッと入ると、巨大な木の根元には多くの精霊達が過ごしている。
ビビアンは緑を基調とした服を着ているが、赤だったり、青だったり、黄色だったりと精霊によって衣服の色は様々であり、髪型や羽の形などでも違いがあった。
そんな精霊達はビビアンが連れてきたナナシ達を期待と怪訝が混じった目で見ていた。
どうやらヒナリータに対しては歓迎ムードと同時に、他の動物達はなんだろう? といった感じらしい。
「ほぉ~、さすがに精霊の国なだけあるね~」
「外界に出てる精霊もいますが、そんな物好きは極少数ですから」
「そういや、テメェらは何を食ってんだ? つーか、この世界にオレ達の食事はあるのか?」
「食べ物は基本的に人間と変わりませんよ。
ただ、リィゴンほどの果物一個で国の四分の一の食事は賄えちゃいますから」
「わぁーお、なんというコストパフォーマンス」
「つまり、俺達の食料が尽きることはねぇってことだ」
国の中を闊歩しながら歩いていく先は巨大な木の根と地面との間に出来た穴。
その穴は木の内部に繋がっているようで、螺旋階段で上がっていくとフロアごとに商いをやっている精霊がいた。
すっかりRPG世界観に染まったナナシなすぐさま買い物をしたい気分に駆られたが、その衝動を抑えてプロローグであろう精霊王に会うことにした。
やがて辿り着いた大人の人間が入るサイズの門をそこにいた門番に開けてもらう。
すると、目の前に見えてきたのは玉座に座る左半身が黒ずんだ妙齢の女性であった。
「勇者様一行、初めまして。わたくしは精霊王ビクトリアと申します。
会って早々で申し訳ありませんが、この世界を救ってくださいませんか?」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')