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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第4章 ヒナリータクエスト

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第107話 キャラ絵は大事

 無事に機嫌が直り、一人だけガチのネズミサイズであることにも受け入れ始めたナナシは腕を組みながら呟いた。


「ハァ、こうなってしまったなら仕方ない。

 考えてみればこのサイズでも良い事はあるのはある」


「お、ナナシさん、ポジティブ~。例えばどんな?」


「こんな風に――」


 ナナシはヒナリータに向かって走ると従来のネズミでは生み出せない跳躍力でもって、少女の肩にポスッと着地した。


「こんな風にヒナちゃんの肩にも乗れるしね」


 ナナシの思わぬ行動に耳をピンッと立てたヒナリータは、すぐにもともと悪い目つきをさらに悪くするようにギロッと睨む。

 そんな彼女の表情にナナシはオドオドしながら「ダメだった?」と聞いてみた。


 ヒナリータはその質問にすぐに答えることは無かったが、ふとこれまでのナナシの行動やミュウリンからの話を振り返る。

 また、ナナシに未だに感謝の言葉を言えてないことの後ろめたさが後押しした結果――


「......今回は特別に許す」


「え......やったー! 許されちゃった!」


 ナナシ、念願の推しからの許可を貰いすぐさま調子に乗る。


「え、ヤバい! 嬉しい! 抱き着いていいかな――」


 そう聞いた瞬間、ナナシの小さな体はヒナリータの手に捕まれ、地面に向かってビターン!

 ナナシもあまりに突然のことに受け身も取れず「ふんぎゃ!?」と地面を転がった。


 調子に乗ったネズミが背後を振り返れば、腕組みした子猫がシャーッ! と威圧感を増して睨んでいるではないか。


「やっぱ無し」


「ごめ~ん! 許して~! もうこの姿ではしないから~~~~!!」


「......次はない」


 ヒナリータとの間に完璧な上下関係を築かせられながら、ナナシは定位置とばかりにヒナリータの肩に戻った。


 ようやくナナシの暴走にひと段落ついたところで、一行はビビアンの案内のもと歩き出す。

 開けた森の中を歩く道中、男勝りではあるが立派に乙女をやっているレイモンドが自分の姿について愚痴り始めた。


「にしてもよぉ、オレの姿もうちょいなんとかならなかったのか? 亀はないだろ」


「そんなこと言われても知りませんよ。その姿は私が決めたものじゃありませんし。

 それに創造主様からのお話だと、レイモンドさんって有名な盾騎士だそうじゃないですか」


 ビビアンの言葉にナナシがビビーンと閃く。


「なるほど。ほら、レイ、亀って甲羅あって固いイメージあるだろ? だから、その恰好なんじゃない」


「だとしたら、あまりにも考えが短絡すぎだろ」


「ぷぷっ、俺よりよくお似合いだよ」


「何笑ってんだ! このドブネズミが!」


「バッキャロー! ネズミをバカにすんな!

 レイは知らないだろうけど、ネズミは世界的スターなんだぞ!?」


 ヒナリータの頭に乗ったナナシがレイモンドと睨み合う。

 しかし、決して険悪にならないのがこの二人で、ケンカするほど仲が良いの典型例だ。

 こうした二人のいがみ合いは度々見られるが、ぶっちゃけイチャイチャしてるのとそう変わりない――というのがそばで見ているゴエモンの意見だ。


 同じくして二人の言いあいを見ていたビビアンがミュウリンに尋ねる。


「止めなくていいんですか?」


「ふふっ、楽しそうだからいいんだよ」


「いえ、そちらの二人じゃなくて。頭の上で騒がれてる勇者(ヒナリータ)様がめっちゃ表情をピキピキさせてるんですが」


「それは不味い。ナナシさん、ステイ」


 今にも噴火寸前のヒナリータが噴火しないように急いで止めに入るミュウリン。

 ヒナリータの頭からナナシを回収すれば、「こっちで騒ごうね」と頭に乗せた。

 若干ズレているのがミュウリンクオリティである。


 そんなある意味のんびりしている一行にビビアンがこれからの旅に一抹の不安を抱えたその時、茂みから何かが飛び出した。


「あ! 皆さん見てください! アレが私達を襲ったドロドロの一派のドロスラです!」


 一言で言えば、黒紫色のスライムだ。

 もう少し特徴を言えば、少しだけ粘性が弱くドロドロとしているぐらいか。

 そんな魔物は四体と徒党を組んで目の前に現れた。

 謎の敵を目の前に全員はすぐさま戦闘態勢に入るが、肝心の武器がない。


「そういや、オレの鎧のペンダントがねぇ。それに盾も召喚できねぇし」


「俺は刀がねぇな。いつもそばにあったもんだから無いとちょっと落ち着かない」


「ボクも魔力で武装出来ないみたいだ。本当に力が弱まってるんだね」


 そんな三人の疑問にビビアンが腕を組みながら答えた。


「たぶんですけど、皆さんの武器はこの世界を壊しかねないほど強い力を持っているので、この世界の力で封じられたんだと思います。

 でも、無くなったわけじゃないと思いますよ。力が激減してる理由と同じ理屈だと思ってください」


「なるほど、そういう意味か。となると、どれだけ力が弱まっているかもわからないのに、安易に敵を殴りに行くのは良くないな。せめて盾が欲しいんだが......ん?」


 腕を組んで悩んでいたレイモンドは一つのひらめきを得た。

 しかし、それを実行できるかどうかはビビアンの回答次と第思ったのか精霊に尋ねる。


「なぁ、この世界ってオレ達の姿がこんなってことは、ある種の幻みたいな感じなのか」


「まぁ、そうなりますかね。痛みは感じますが、肉体がどうこうなることはありません。

 ここは子供の楽園ですからそんな過激な状況(シーン)は作れませんよ」


「なるほどな。それなら」


 レイモンドは腰から背中に手を通すようにして甲羅を掴む。

 瞬間、女騎士は自身が背負っている甲羅をベリベリベリと剥がし始めた。

 それを両手に持って自身の前に構えた。


「おし、盾が出来た」


「出来たじゃなないよ! 何やってんだレイ!?」


 あまりもの衝撃的なシーンに普段ボケ担当のナナシもツッコミを余儀なくされた。

 幸い、レイモンドの背中が悲惨なことになっていないのはこの世界の様様だ。

 しかし、少々過激なシーンが流れたため、ヒナリータにはミュウリンによる手のモザイクがかけられている。


「いや、盾が無かったし、丁度いい盾があると思って」


「思ってっじゃないよ! どう見ても子供が見て言い絵面じゃなかったよ!」


「って言われてもなぁ.....」


 せっかく良いひらめきを得たのにそれを否定されることにショックを受けるレイモンド。

 そんな横でヒナリータの目元から手を離したミュウリンが何かを考え始める。


「ゴエモンさん、はいどうぞ。これ武器になるよ」


「え?」


 そう言ってミュウリンが手渡したのは自身の角だった。

 このクレイジー少女は自分の角をへし折ってゴエモンに渡したのだ。

 その行動にはナナシも無い目を疑った。


「ミュウリンさん!? それあなたのアイデンティティでしょう!?

 それにその羊の姿(フォルム)に無くてはならないものでしょうが!」


「なんというかこのノリに乗ろうかなって」


「乗らなくていいノリに乗って完全に悪ノリになってるよ!

 特に、ゴエモンには額に角があるんだからミュウリンが渡す必要ないの!」


「え、俺は自分の角へし折りたくないぜ......」


「サルに角はねぇだろうが! 要らんもんつけるな!」


 そんなナナシ達のわちゃわちゃにビビアンとヒナリータだけが静かだった。

 精霊が「何やってるんでしょうね」と少女に聞けば、少女は「さぁ」と呆れた声を漏らす。

 さらに言えば、この状況で四匹のドロスラさえも顔を見合わせながら「これ空気読むべきだよね?」と戸惑っている始末。


「とにかく! ミュウリンもレイも手に持ってるのを元に戻して! 後、ゴエモンは角を折る!」


「大将、俺だけ真逆の指示じゃねぇか」


「ハーリーアップ!」


 ナナシが手を叩きながら行動を促せば、ミュウリンは角をピトッと元に戻し、さらにレイモンドの甲羅を元に戻すのを手伝ってあげる。

 それを確認したナナシはビビアンに向かって言った。


「ビビアン、レイモンドの姿をどうにかしてくれ」


「どうにかって言われても......」


「この世界は幻みたいなものなら、イメージでなんとか出来るはず。

 そうだな......トラだ、トラにしよう。

 レイにトラの着ぐるみになるようこう頑張ってやってくれ」


「なんか急に雑な指示ですね。なんだか敵さんも待たせてしまって申し訳ないですし、一応やってみますけど」


 ビビアンは目を閉じ、両手を伸ばす。

 脳裏にトラのイメージを強く作ると「トラになれー!」と叫んだ。

 瞬間、レイモンドの姿はポスンとトラの着ぐるみになる。

 そんな変わった姿に女騎士は「オレの盾が」と若干落ち込んでいた。


 無事に女性陣の奇行にピリオドが着いたタイミングで、依然ミュウリンの頭に乗るナナシはドロスラに体を向けた。


「待たせてごめん! それじゃ、救世主ヒナリータ一行お相手致す!」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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