挿話 あの後のこと 9 (ダグラス視点)
ルリの期待をこめた視線を、あいまいに微笑んで流した。
私は目的のためには、嘘をつくことも厭わない。
こんなしょうもないルリの問いかけに、「そうですね」と答えることなど息をするより簡単だ。
だが、珍しいことに、そう答えることを口が全力で拒否している。
絶対に言いたくない、と……。
しかし、ルリは何故ここまで、自分の容姿に自信がある?
しかも、何故、自分が無条件に好かれると思うのだ?
そう言えば、ちらっと話にでてきたが、あの歪んでそうな母親が原因か?
その母親の情報がないからわからないが、もしかしたら、ルリと同様に他人に影響を与えるような強い気を放っているのかもしれないな。
あいまいに微笑む私に、ルリは小首をかしげた。
ルリの放つまがまがしい気も一緒に揺れる。
気持ち悪いな……。
「もう、ダグラスさんって意外と恥ずかしがりやだよね? はっきり言えないなんて。正直になっていいんだよ?」
は? 正直になったら、今頃、魔力で屋敷ごとぶっ飛ばしているかもしれないが?
それに、私は恥ずかしがりやなどと言われたことは、生まれてこのかた一度もない。
それどころか、魔術の師匠には、「もっと感情をおさえろ!」と、散々指導されてきた。
穏やかなライアンと違って、私は感情の激しい子どもで、態度にすぐに出していたからな。それによって、魔力も暴走させていたし。
とにかく、早く話をすすめてもらわねば。私の我慢は限界を超えている。
「それで、ルリ嬢。早く続きを聞かせてください」
と、なんとか笑みを浮かべて先を促した。
「うん、わかった。ええと、……その奈良林あいなの彼氏だった先輩のことは、遊び仲間に聞いたら、すぐに色々教えてくれた。その子もファンだったんだって。ひとつ年上で、名前は宮入アヤト。奈良林グループほどではないけれど、大きな会社の息子だった。やっぱり、ラナお姉ちゃんとリュウみたいな関係だって確信した。だから、ルリは、すぐに告白したの。『好きになったから、つきあってください』って」
「それで、付き合うことになったのですか?」
ルリが悔しそうに首を横にふった。
「彼女がいるから付き合えないって断られた。絶対、本心じゃないのに……。だから、何度も、ルリから声をかけた。ルリが、ここまでするなんて、ないんだよ? なのに、先輩は、うなずかなくて……。だから、ルリは思ったの。よほど、先輩の実家の会社は困っていて、奈良林あいなに取り入るように、親から命令されているんだろうなって。だって、ルリが好きって言って、落ちなかった人なんて今までいないもん」
と、力強く言い放ったルリ。
「へえ、そうなんですね……。それで?」
自分でも驚くほど、冷たい声がでてしまったが仕方ない……。
疲れのせいで、あまり、取り繕えなくなってきたからな。
「でね、ルリは考えたんだ。先輩が一人の時を狙おうって! 今までは先輩の教室の前で待ち伏せしてたんだよね。でも、人の目があるから、先輩は正直になれないんだと思って」
「なるほど……。それで?」
「遊び仲間にお金を払って、先輩の行動を調べてもらったの。そうしたら、先輩は塾に行く前に、塾の近くの公園で一人で、よく本を読んでいるってわかったんだ。だから、その公園に先回りして、待ってたの」
その男の気持ちになってみる。
交際を断っても、断っても、通じない。
しかも、待ち伏せまでされる……。
私なら、そんな奴がいたところで、どうとでもできるからなんともないが、普通の男なら、恐ろしいだろうな。
こんなおかしな女に目をつけられたことに心底同情する。




