挿話 あの後のこと 6 (ダグラス視点)
ルリが何か隠していることを、しゃべってもらうために、まずは、術のかかりをよくすることにした。
といっても、今もルリは完全に術にかかっている状態だ。
だから、この上、更に強く術をかける必要はない。すでにかかっている術を、もっと、心の奥まで、しみこませるようにするだけだ。
やり方は簡単。
とにかく、いい気分にさせて、しゃべらせること。
本人が、いい気分でしゃべっていると、術はまわる。
「ルリ嬢。あなたがいたニホンでのお話をもっと私に聞かせてください」
私は、ルリが好むこの顔を最大限に利用して、おおげさに微笑みかけた。
ルリの顔が、嬉しそうに、ゆるむ。
「ダグラスさん、やっぱり、ルリに興味があるんだー!」
そう言って、私のほうに身を乗りだしてきたルリ。
魔力で遠くへぶっとばしたくなるが、今はまだ我慢だ……。
私は、無理に笑顔をはりつけて、言った。
「ええ。ルリ嬢が、ニホンでどんなことをされていたのか、もっと知りたいのです」
「ルリのことがもっと知りたいの?」
「ええ。だから、私の質問に答えてくれますか?」
「うん!」
「まだ私に教えてくださってないことも、全部、話してくださいますか?」
「いいよー。ルリ、全部、話す! なーんでも教えてあげる。ね、ダグラスさん……」
と、恥じらうように答えたルリ。
私を見る目が、やけに、ぎらついている。
気持ちが悪いこと、この上ないが、言質はとった。
ルリ自身が「全部話す」と宣言したことで、術が更に深く作用し、不都合なことを隠そうという気持ちは完全に消えたはず。
「ねえ、ルリの何が知りたいの? 何でも聞いてよ、ダグラスさん……」
ねっとりとした口調で言うルリ。
下品な顔だな……。
「では、階段から突き落された理由を知りたいです。その時、本当は何があったのか?」
「え? なんで、そんなこと聞くの!?」
想像と全く違う質問がされたからか、驚いたように大きな声をあげたルリ。
「もちろん、ルリ嬢がこちらの世界に来てくれた記念すべき出来事だからですよ。だから、私は詳細に知りたい。すべてを知っておきたいんです。何を聞いても私とあなただけの秘密にしますから」
おそらく、ルリがあちらに帰りたくない理由は、この出来事につながっているというのが私の予想だ。
私はルリの目をじっと見た。
もう、隠す気持ちは残ってないはずだ。
話せ!
「ルリとダグラスさんの秘密……。フフフ……、ダグラスさんって、そんなにルリが好きなんだね」
ルリは顔を紅潮させて、身をよじった。
気持ちの悪いことを言ってないで、とっとと話せ! と、叫びたいところを、ぐっと抑えて、まろやかな言葉に変換して促した。
「お願いですから、早く話してください。ルリ嬢」
「もう、ダグラスさんったら、待てないんだから~!」
と、上機嫌で言ったあと、やっと、ルリはその時の話を始めた。
「ええと、まず、私を階段から突き落したのは、同じクラスの奈良林あいなっていう女。地味で、美人でもないくせに、『奈良林グループのご令嬢』だっていって、みんながちやほやするの。ルリの家より大きな会社なんだって。ずるくなーい? ほーんと、勉強しか取り柄がないのに、澄ましちゃってる嫌な女。せっかく、ルリが、『限定品のバッグ買ったんだよ』とか、話しかけても、『興味がない』って言うだけで、ノリ悪いし。あ、そう言えば、ラナお姉ちゃんに雰囲気が似てるかも。なんか、見てるだけで、イライラしてくるんだよねー」
と、べらべらしゃべり始めたルリ。
いらつくのは、こっちだが?




