円徳寺 ラナ 44
占いのお店に入ると、「いらっしゃいませ」と、穏やかな声がした。
見ると、男性が一人いて、私にむかって、人当たりのよい笑みを浮かべている。
背が高く、はっきりとした顔立ちの男性で、精悍な印象。
が、なにより目をひくのは、赤く染められた髪の毛。
この人が遠野さんの言っていた占い師さんなのかな……?
そういえば、遠野さんからは、占い師さんがベールをかぶっていたということしか聞いていない。
男性か女性かもわからない。
とにかく、お店に入るなり、ナイフを見せたら、危ない不審者だし。
それに、高価そうなナイフだから、全然関係ない人にうっかり渡さないように、ちゃんと確認しないと。
「あの……こちらは占いのお店ですよね? 大学近くで友達がみてもらったけれど、その後見つけられなかったというお店を探してて……」
と、ナイフのことをださずに聞くと、変な質問になってしまった。
が、その男性は、ふわりと笑った。
一気に親しみやすくなる。
「あらー、じゃあ、うちじゃない? 占いのお店って、このあたりで、他にないと思うから。それにね、よく言われるのよ。探したのに見つからなかったって。きっと、裏道の目立たないところで、ひっそりとやっているからか、道に迷うんでしょうねー。ここ、店の宣伝もしてないから、調べようもないし。……ってことで、たどりつける人がたどりつける占いの家なのよ、ここ。……フフ」
え? 占い師さん? しゃべり始めると、まるで印象が違うんだけど……。
とまどっている間に、占い師さんは占いの説明を始めた。
「私の占いは、10分と30分、がっつり1時間コースがあって、料金は10分で1000円、30分で3000円、一時間で5000円。リーズナブルでしょう? あと、占いの方法は占う内容によって、こちらで決めさせてもらってる。今日はずーっと暇だったから、力がみなぎってるの。張り切って、みるわよー」
そう言って、にこっと笑った占い師さん。
お客さんだと思われてる……。
まあ、そうなるよね……。
あ、そうだ!
占いを頼んで、ナイフの持ち主を聞いてみたらいいんじゃない?
この占い師さんだったら、反応でわかるし、そうじゃなかった時でも、もしかしたら、占いで何か手がかりがわかるかもしれない。
「じゃあ、10分1000円でお願いします」
と、私は言った。
案内された小さなテーブル席。
椅子にすわると、向かい合う形で座った占い師さん。うすいベールをかぶった。
あ、ベール! やっぱり、この人なのかな?
そう思って、真剣に見ていると、占い師さんがクスッと笑った。
「珍しい? これ、かぶると、妖しげな雰囲気がでるから気にいってるの。だって、当たりそうでしょう? ……では、早速占いを始めるわね。お嬢さんの知りたいことは何かしら」
「友達から渡された……というか、私の手にまわってきた物があるんです。が、もともとの持ち主に返したいんです。なので、その持ち主を探していて……」
「物は何?」
「ナイフなんですが、……ここで実物をだして見せてもいいですか?」
「まあ、ナイフ? なんだか、意外ね。危ない人なら凶器になるのでお断りだけれど、お嬢さんは、そんな人じゃないことはわかるから、どうぞ。見せて」
私はバッグからポーチを取り出した。
そして、中にしまってあったナイフをだすと、占い師さんに見えるようにテーブルに置いた。
占い師さんはナイフを見るなり、体をふるわせた。
「このナイフ……というか、この剣、……何か強い気を感じるわ。この剣の持ち主を探せばいいのね?」
「はい。その人に返したいんです」
占い師さんはうなずくと、水晶玉をナイフの手前におき、両手をかざした。
ベール越しにも、真剣に水晶玉を見ているのがわかる。
息をのんで、様子を見守っていると、占い師さんが、はーっと息を吐いた。
張り詰めた空気がゆるむ。
「見えないわ……。こんなに強く何かを発している剣なのに、何も見えない……」
占い師さんは納得がいかない様子でつぶやくと、私に聞いてきた。
「ものすごく貴重そうな剣に見えるんだけれど、私がにぎってみてもいいかしら? 直接触れば、わかるかもしれない。私、小さい頃から、物に触ると、その物を触った人の強い思いみたいなものを読み取れるの」
「それって、もしかして、残留思念……?」
と、ミステリー小説で読んだことを思い出して聞いてみた。
「あ、そうそう。そんな感じよ!」
「え、すごい……。あの、どうぞ、好きなだけ触ってもらって大丈夫です」
「ありがとう。なら、遠慮なく」
そう言うと、占い師さんはナイフを手に持ち、柄をにぎった。
その瞬間、柄の上のほうについている紫色の宝石が輝いた。
「うわあ!」
野太い声をあげた占い師さん。
「大丈夫ですか!?」
思わず、声をかける。
が、返事がない。
ナイフを握った状態で、固まったままの占い師さん。
心配になって、もう一度、声をかけると、占い師さんはナイフをくるっとまわして、柄の方を私に差し出してきた。
「この剣の持ち主は……あなたですよ」
その声に、ぞっとした。
だって、さっきまでの占い師さんの声とは、まるで別人だったから。




