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妹 ミリー・アンガス 6

妹視点、最終話になります。よろしくお願いします!

きらきらとした光の中から現れたお姉様。


懐かしい銀色の髪と紫色の瞳に、涙がこみあげてきた。

でも、私に泣く資格はない。


私はこの1年、お姉様にしてきたことを、ずっと考えてきた。

過ちに気が付けば、自分のおろかさに後悔しかない。


もう一度、お姉様に会えるのなら、すぐにでも謝りたいって思っていたけれど…。

でも、それは、自分がすっきりするだけ。


勝手に謝っても、お姉様は更に嫌な思いをするだろうし。


それよりも、今、ここで、私がお姉様のためにできることがあるって、ひらめいたの!


それは、しっかりと、私たち家族をみんなの前で捨ててもらうこと。


お姉様には、これから自由に生きていって欲しい。

そして、今まで苦労したぶん、幸せになって欲しい。


そのためには、私たちはいらない。

だって、両親は、この1年、何も変わらなかったから。

戻ってきたら、また、お姉様を苦しめる…。


だから、ここにいるみんなを証人にして、お姉様に、私たちをきっぱりと捨ててもらおう。


と、その時、ムルダー様がお姉様にかけよった。


「クリスティーヌ、生きてたんだね! 良かった! 去年、君が自分を刺した時、君の体は光に包まれて消えた。そして、また、光に包まれて戻ってきた。あんなに血を流していたのに、生きて帰ってくるなんて、君こそが本物の聖女だったんだね! しかも、ぼくの18回目の誕生日を祝うパーティーに戻ってきてくれるなんて嬉しいよ。やっぱり、クリスティーヌがぼくの妃になる人だ!」


ムルダー様の愛って、なんだか、うすっぺらい…。


そう思った瞬間、お姉様がムルダー様の手をふりはらい、静かに、そして、きっぱりと言った。


「私は聖女ではありませんし、ムルダー様を愛した私はあの時に死んでおります。それに、ムルダー様にはルリ様がいるじゃありませんか」


お姉様の態度を見ると、ムルダー様への思いは、かけらも残ってないことが伝わってくる。


まあ、当然よね…。

が、ムルダー様には伝わらなかったよう。


「ルリは聖女じゃなかったよ。異世界の薬を少しだけ持っていただけで、ルリ自身には何の能力もない。王太子妃教育を施しても、何も覚えられない。それでいて、わがままばかり。王太子妃になるのは無理だ。本人も嫌がり、私との婚約は解消になった。ルリを好きな伯爵に嫁ぐそうだ。だから、クリスティーヌはルリのことを何も気にしなくていいんだよ。王太子妃になってくれるよね?」

などと、自分勝手なことをいいだした。


当然、お姉様は、ムルダー様の申し出を断った。


すると、お父様が猛然と近づいていった。

お母様も私も、あわてて追いかける。


「クリスティーヌ! ありがたく受け入れなさい!」

お父様は、1年ぶりに生死のわからなかった娘に会ったとは思えない言葉を吐いた。


「お断りです。赤の他人が口をはさまないでいただけますか?」

そうきっぱり答えたお姉様。


「赤の他人?! 親に向かってなんて口をきくんだ!」

憤ったお父様がどなった。


ここね、私の勝負所は…。

私が、お姉様のためにできる、最初で最後のことをする時だわ。


できるだけ多くの人に聞こえるように、そして、お姉様にとって、どれだけ害のある妹だったかが、みんなに伝わるように、わざとらしい悲壮感をにじませて、私は叫んだ。


「ひどいわ、お姉様! 家族なのに!」


案の定、私の一言で、お姉様はのってくれた。


「ひどいのは、どちらでしょう。家の為に王太子妃になるようにと言って、私にだけ厳しくした両親。甘やかされているくせに、私の物ばかり欲しがり、奪っていく妹。両親は妹とばかり出かけ、いつも、私だけ取り残され、勉強をさせられていました」


そう、それでいいわ。

まわりの人たちが、ざわつき始める。


お姉様は更に語った。


「私はずっと苦しかった…。それなのに、王太子妃になれないと知ったとたん、あなたたちは、私を見限った。すぐに聖女様を養女にして、聖女様に笑いかけていた。絶望した私には、なぐさめの言葉ひとつかけなかったのに…。そんな人たちを、家族だなんて思えませんよね。自分を刺したあの時、両親に愛され、妹とも仲良くしたかった私も死にました。どうぞ、あなたたちも、私のことはお忘れください」

そう言って、美しい紫色の瞳が私たちを射抜いた。


お姉様と目をあわせるのは、これで最後かもしれない。

望んだことだけれど、心がズキッとした。


これでお別れね、お姉様…。

でも、良かった、私たちをきっぱり捨ててくれて。


まわりの人たちから、非難の声が聞こえてきた。

いたたまれなくなったお父様が「帰るぞ」そう言って、逃げるように歩きだした。

お母様も私も後ろに続く。


私は心の中で言った。


お姉様、本当にごめんなさい…。




それから、お姉様はアンガス公爵家と縁をきって、平民になった。


風の噂で、隣国に勉強に行ったと聞いた。


お姉様に似ているという、おばあさまの屋敷に住んでいるのだそう。

そこへ、たびたび、赤い髪の騎士が通っていることも…。


近い将来、嬉しいできごとを聞くことができると思う。

ひっそりと、心の中でお祝いしよう。


そして、アンガス公爵家の評判は地に落ちた。


それでも、お父様は変わらない。そして、お母様も…。

自分勝手なことばかり言って、人のせいにして、自分たちの不幸を嘆いている。


あげくに、お父様は、避けていた隣国のおばあさまのところへ、お姉様を連れ戻しに行った。

もちろん、お姉様に会えるわけもなく、おばあさまに追い返されたらしいけれど。


多くの人たちから見放されたアンガス公爵家。

このままいけば、爵位を返上することになるかもしれない。


だから、私は自分の力で生きていけるようにと勉強を始めた。


今までと違って、真剣に勉強しはじめた私に、家庭教師のロザリー先生の態度が変わった。


お姉様の家庭教師でもあったロザリー先生。


最初は淡々と教えてくれていたのだけれど、私が真剣に学びはじめたら、教え方に熱がこもった。

今では、私にとって、たった一人の信用できる相談相手でもある。


ロザリー先生は、月に2回、教会で平民の子どもたちに勉強を教えている。

私もお手伝いに行くようになった。


もちろん、両親にばれるとうるさいので秘密だ。


子どもたちを見ていると、自分の子ども時代が、いかにいびつだったかが身にしみる。

でも、すごく楽しい! 

将来、子どもたちに勉強を教えたいという夢もできた。



この先、私は、一生、お姉様に会うことはできないかもしれない。


でも、もしも、いつか、お姉様に会うことができる日がくるならば、その時こそ、恥ずかしくない自分になっていたい。

そして、お姉様に心から謝ることができれば、と願っている。


今回で、妹視点は完結です。

読んでくださった方、ありがとうございました!


次回からは、ムルダー王太子視点となります。ちなみに全37話で長めですが、よろしくお願いします。


ちなみに、アルファポリス様で先行して更新中。そちらは、ムルダー王太子視点が終わりラナ視点がはじまっております。

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