円徳寺 ラナ 41
手のひらにナイフがすいつくような感触が、遠野さんの話を裏付けているような気がして、思わず、ナイフを手から放した。
鈍い音をたて、足元に転がったナイフ。
その途端、ナイフの柄についている、小さな紫色の宝石がやけに光りはじめた。
まるで、ナイフの目のように……。
しかも、その宝石を通して、誰かが私を見ている気がして仕方がない。
得体のしれない存在を感じるというか……。不気味で怖い。
が、そのまま放置するわけにもいかないから、私はナイフを拾いあげた。
その瞬間、「それでいい」と、頭に響いたような気がして、また、ぞっとした。
そんな私の行動を見ていた遠野さんが、苦しそうに声をかけてきた。
「ごめん、円徳寺さん……。本当にごめん……。私のせいで、変なことに巻き込んで……」
私は首を横にふった。
「遠野さんのせいじゃない。何度も言うようだけど、そこまで追い詰めたのはリュウ。それに、このナイフ、確かに、普通じゃない気がする……。占い師さんの言ったことを信じているわけじゃないし、私には霊感もない。でも、なんだろう……。 このナイフには意思があるように思うんだよね……」
遠野さんが弱弱しくうなずいた。
「私もナイフの意思みたいなものは感じてた……。そのナイフを占い師の人に渡されてから、ずっと、ナイフが手の先にひっついている感覚だったんだ。しかも、そのナイフに突き動かされているような気がしてた。だけど、円徳寺さんの手に渡ったとたん、その感覚は消えたんだ」
「ねえ、遠野さん。私をその占い師さんのところに連れていってくれない? このナイフを私から返すわ」
私の言葉に、たちまち泣きそうになった遠野さん。
「ごめん、円徳寺さん。申し訳ないけれど、それはできない……。あの占いの人に、もう一度、確認したくて、お店に行こうとしたんだ。でも、どれだけ探しても、たどり着かなかった。大学の近くの裏道にも行ったけれど、あんなお店はなかったの……」
「え……?」
意味がわからない。
茫然とする私の前に、突然、遠野さんがひれ伏した。
あわてて、私は叫んだ。
「ちょっと、遠野さん!? 何してるの!? そんなこと、やめて!」
が、遠野さんは頭を床にこすりつけるようにして、私に言った。
「円徳寺さん、お願いしますっ! こんなことを頼んでいいわけないのは、よくわかってる! でも、どうしても、やらずにはあきらめられないの! 私がそのナイフを使えないのなら、円徳寺さんが、そのナイフでルリさんを刺して欲しい! 円徳寺さんも感じてるよね? そのナイフが円徳寺さんを持ち手に選んだこと」
「そんなこと、できるわけがないよ……」
遠野さんは、がばっと起き上がると、今度は、私の前に両手をひろげて立った。
「それなら、今、私をそのナイフで刺して! そのナイフでは傷つかないって、占い師の人が言ったことを証明してみせるから!」
遠野さんが叫んだ。
「ちょっと、遠野さん! 落ち着いて!」
私の言葉も遠野さんには届いていない。遠野さんは必死に話し続けた。
「占い師の人が言ってた。この剣にかかっている術が発動するためには、思いっきり刺さないとダメだって。からまった縁をきるためには、本気で刺すんだって……。だから、円徳寺さん。私を思いっきり刺してみて。お願い!」
「でも、いくら、ケガしないって言っても……」
と、私が言い始めた瞬間、ナイフを持つ手が勝手に遠野さんめがけて動きだした。
ダメだ! 体がひっぱられる! やめて!




