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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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円徳寺 ラナ 38

ナイフを見て、一瞬、頭が真っ白になる。

が、何が何でも、ルリを守らないといけない、そう思ったら、冷静になった。


とにかく、遠野さんをルリへ近づけないようにしないと……。


幸い、洗い物をしているルリと遠野さんには距離がある。

最悪、私が刺されたとしても、ルリを守れるように遠野さんの正面にまわった。


遠野さんと私の顔が間近で向かい合った。

その瞬間、遠野さんの目に涙があふれてきた。


私は、遠野さんがナイフを持った手を動かせないよう、だきつくようにして、必死で自分の腕をまわした。


そして、そのまま、廊下へと押し出した。


私はしっかりと抱きしめた状態で、遠野さんへ声をかけた。


「遠野さん、これ以上、自分を傷つけないで……」


私の言葉に遠野さんの全身の力がぬけた。

両手がだらんとなって、ナイフが床に落ちた。


私はあわてて、ナイフをひろう。

小さい見た目なのに、ずっしりとした重さに、今更ながら冷や汗がでた。


そして、せきを切ったように泣き出した遠野さんを、私の部屋へと連れて行った。



私は、泣き続ける遠野さんの隣に座り、背中をなでながら、落ち着くのを待った。


どれくらいたっただろう……。

存分に泣いた遠野さんが、ぽつぽつと話し出した。


「ごめんなさい……。ルリさんさえいなければ……、私はルリさんの代わりじゃなくて、私が先輩の本物になれるって思ったから……」


その言葉で、カチッと頭の中で色々なことがつながった。

ああ、やっぱり……。


今までも、遠野さんが語る先輩の話を聞いてきて、うっすらと思い浮かべる時はあった。

でも、まさか、仮にも自分の婚約者がそこまで最低な人間だとは思いたくなかったのに……。


私は覚悟を決めて、遠野さんにたずねた。


「遠野さんと付き合っていたその先輩は……リュウなのね……?」


遠野さんはうなずいた。


「ルリがいなくなればって……まさか、殺そうとしたの……?」


私の問いかけに、はっとしたように私の顔を見た遠野さん。


「違う! 私、そのナイフで刺そうとはしたけれど……でも、ルリさんを傷つけるつもりはなかったの!」

と、焦ったように叫んだ遠野さん。


「でも、刺したら、当然ケガをするし、死ぬことだってあるわ。ルリにいなくなってほしくて、殺そうとしたってことじゃないの?」


遠野さんは、また、「違う」と、首を横にふった。


「親切にしてくれた円徳寺さんをがっかりさせると思うけど、全部、最初から話す……」

と、悲しげな顔でそう言うと、話し始めた。


「私ね、円徳寺さんが先輩の好きなルリさんのお姉さんだと知って、近づいた……。先輩の好きな人にはお姉さんがいて、私と同じ大学に通っていることを、ぽろっと先輩が話したことがあったから。珍しい名字だから、すぐにわかった。あの講義、ほんとは、私、とってないんだ……。なのに、あんなに時間をかけて、私のために、ノートを作ってくれて、申し訳なくて……。でも、やめられなかった。円徳寺さんと友達になったら、ルリさんの弱みをにぎれるかもしれない。そうしたら、弱みで脅してでも、先輩があきらめらるよう、ちゃんと、ふってほしいってお願いしようと思ってたの。だって、先輩の話だと、どう考えても、ルリさんは先輩のことを利用してるだけだし……」


「そう……」


気持ちをおさえるべく、淡々と返事をする。


というのも、リュウへの怒りがあふれてくるから。

どうやら、リュウは、婚約者がいること、それが私だということも、遠野さんには言っていないみたい。

どこまで卑怯で、最低なんだろう……。


思わず、拳をにぎりしめた。


リュウに裏切られたショックよりも、婚約者として、監督不行き届きみたいな気持ちで、ただただ、遠野さんに申し訳ない。


「でも、円徳寺さんは知れば知るほどいい人で、純粋に友達だったら、どんなに良かったかって何度も思った……。私が先輩をあきらめればいいだけ、そう頭ではわかってるのに、心はわかってくれない……。なんで、ルリさんなんだろう。なんで、私じゃダメなんだろう……。私が先に出会っていれば、私が先輩の本物になれたんだろうか……。そんなことばかり、ぐるぐると考えてしまう。そんな苦しい時、円徳寺さんに電話をした。利用しようとした私が、そんな資格はないのに、円徳寺さんに甘えた……。そんな自分が、ますます嫌になって……。不意に、なにもかにも、自分でけりをつけたくなったんだ。……そんな気持ちで、ふらついていたら、占いの店が目にとまった……」


「え……、占い?」


黙って聞いていたけれど、遠野さんから、思いもかけない言葉がでてきて、思わず、聞き返してしまった。

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