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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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円徳寺 ラナ 37

彼氏がいるかという遠野さんの問いかけに、「いません」と、即答したルリ。


「それなら、好きな人はいるの?」

と、重ねて聞く遠野さん。


遠野さんのルリを見る目が、あまりに必死な感じがするのだけれど、なんで……?


それに、さっきから、遠野さんはルリしか見ていない。

その目は、いいか悪いかはわからないけれど、強い何かが灯っているような気がする。


遠野さん、もしかして、記憶をなくす前のルリを知っていたのかしら……?


でも、それなら、知っていることを隠す必要はないわよね。

それとも、さっき、記憶がないと言ったから、言い出せずに様子を見ているとか……?


ルリも、そんな遠野さんの様子を冷静に観察するように、大きな目で見据えながら答えた。


「いません。今後もできないと思う。……こんな私に、また、好きな人ができるとは、到底思えないから……」


そう答えたルリの表情が、一瞬、悲しみにそまったような気がした。


それにしても、またとは、どういう意味……?

まるで失恋したあとのような言葉だけれど……。


以前の記憶をなくしているルリが、この1年で恋愛をして失恋したとういうことは考えられない。

その間、会っていたのは、ルリが避けているリュウだけだし……。


ということは、やはり、ルリの体に別の誰かが入っている。

そして、その誰かは、ルリの体に入る前に、二度と好きな人ができるとは思えないようなことを経験したということ……?


頭が混乱してきた。


遠野さんは、ルリの答えの真偽を確かめるように、じっくりルリを見た。

そして、ぽつりと言った。


「そう……。つまり、ルリさんを好きな人がいても、ルリさんは好きにならない……。永遠に報われないってことか……」


まるで自分に言い聞かせるようにつぶやく遠野さん。


ダメだ。

恋愛の話をする遠野さんは、どんどん不安定になるみたい。

話をかえなきゃ!


私は場の雰囲気をなんとか変えようと、話題を探す。

でも、気の利いた話が浮かばない。


仕方なく、唐突に、最近読んだ小説の話をはじめた私。


幸い、本好きのルリが興味深そうに話を聞き、話にのってきた。


ただ、肝心の遠野さんはといえば、私の話に適当に相槌をうっているような感じ。

意識はルリに向いているようで、時折、じっと見ている。


私は、早々に、お茶の時間を終わらせることにした。

ルリが後片付けをしてくれるというので、ありがたくお願いして、遠野さんを私の部屋に連れて行こうとした。


その時、私のスマホの着信音が鳴った。

お母様からだ。


「ごめんなさい、遠野さん。ちょっと待ってて」


そう断って、私は部屋のすみにいき、あわてて電話にでた。


お母様は、用事があったわけじゃなくて、ルリの様子を聞いてきただけだった。


そういえば、ルリが退院して以降、お母様がルリと離れて、丸一日家をあけるのは、これが初めてだ。

どうしても断れない招待だったので、しぶしぶという感じで出かけて行った。


ルリのことが心配でしょうがないみたい。


ルリが何か記憶を思い出したり、少しでも変わったことがあれば、すぐに連絡してくるように念をおした。

そして、いつもと同じように、ルリを守ってねと言ってから、電話をきったお母様。


お母様からの電話は、いつだってルリのことばかり……。

今日も、私自身に対しての言葉は何ひとつなかった。


そう思うと、心に黒いもやっとしたものが、ひろがった。


が、頭をふって、そのイメージを追い払う。


今更よね……。


前よりお母様が穏やかになったからと言って、何を期待していたんだろう……。

お母様にとって、私はルリを守るためにひきとった存在というのは変わらないのにね。



ふりかえると、部屋の中には誰もいなかった。

ルリと一緒に遠野さんも食器を運んでくれているみたい。


私は急いで、キッチンにむかった。


キッチンの奥で、洗い物を始めようとしているルリ。

その後姿を、キッチンの入口から、じっと見つめている遠野さん。


遠野さんに近づき声をかけようとして、私は息をのんだ。


遠野さんが後ろ手にもっている物が、異様に光ったから。


えっ、もしかして、……ナイフ!?


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