円徳寺 ラナ 35
ルリに、私の友人が遊びに来ることを伝えた。
もし、ルリが会いたくないのなら、顔を会わせないように考えないといけない。
というのも、ルリが記憶をなくしてから、リュウ以外のお客様が家に来たことはないから。
「友達は私とゆっくり話がしたいそうだから、私の部屋にきてもらうつもり。でも、ルリが嫌じゃなかったら、せっかくだし、お茶の時間は三人で一緒にどうかなあって思ってるんだけど……。知らない人と会うのは、嫌?」
「いえ……。ラナお姉さんの友達なら、私は大丈夫よ」
と、ルリが言った。
「それなら、友達にもあとで聞いてみる。もし友達もOKなら、一緒にお茶しましょう。……というか、そうして欲しいのよね。詳しくは言えないけれど、その友達は、長い間、色々大変だったの。今も心がすごく疲れててね。だから、少しでも気が紛れたらいいなって思ってるの。ルリがいてくれたら、心強い。今のルリって、さりげない気遣いとかすごいものね」
「え? そんなこと、初めて言われたわ……」
驚いたように、ルリがぽつりとつぶやいた。
つい出てしまったような、そのつぶやき。
やっぱり、ルリのなかに、私の知らない人がいると思うと、しっくりくる。
ルリに了承をもらった私は、遠野さんにも電話をかけた。
まず、当日、妹が家にいることを伝えた。そして、そのあとを続ける。
「それでね。遠野さんさえ良かったら、三人でお茶をしようかなって思ってて……。あ、でも、気が進まないのなら、私の部屋で……」
と、言いかけたところを、遠野さんが遮った。
「私、円徳寺さんの妹さんに会ってみたい」
強い口調で言い切った遠野さん。
「そう……? それなら、良かった」
と答えた私。
そして、当日は最寄り駅まで私が迎えにいくことを伝えて、電話を切った。
電話を切った後も、遠野さんのやけに強い口調が耳に残った。
そして、日曜日になった。
遠野さんは2時に来る予定。
それまでに、お茶の準備をしておかないと。
私がケーキを買いに行っている間に、ルリがテーブルのセッティングをしておいてくれると言うのでお願いした。
以前のルリは、そんなことをしたことがないから驚いたけれど、まあ、使う食器を並べておくだけだしね。
そう軽く考えていたら、帰ってきて、ルリの整えてくれたテーブルを見た瞬間、息をのんだ。
食器のチョイス、並べ方、配色。
お花もいけなおされ、テーブルの上が大変身をとげていたから。
まるで、貴族のお屋敷みたい……。
呆然とみつめる私に、ルリが不安そうに言った。
「あ……、お客様を招待してのお茶会って、こんな感じじゃなかったかしら……?」
私はあわてて言った。
「いえ、びっくりしちゃって……。本当にすごく素敵よ! ルリってセンスがいいんだね!」
興奮する私に、ルリが嬉しそうに微笑んだ。
「それなら良かった。……久しぶりだったから……」
「え、久しぶりって?」
「あ、いえ……、ほら、記憶がないから覚えていないけれど、お茶の準備も久しぶりなんだろうなと思っただけ」
あわてて、ルリが言い募った。
「そうだね……」
と、答えたものの、以前のルリはそのようなことはしたことがない。
一体、あなたは誰? と、心の中で問いかけた。
そして、午後。
私は遠野さんを迎えに駅までいった。
待ち合わせ時間にあらわれた遠野さんは、私を見つけて微笑んだ。
が、その顔を見たら、なんともいえない不安がよぎった。
というのも、遠野さんの目が異様にぎらついて見えたから……。




