円徳寺 ラナ 34
そんな毎日を過ごしている間に月日は流れ、来月、ルリの17歳の誕生日がやってくる。
つまり、ルリが記憶を失ってから、はや1年。
いつ記憶を取り戻し、以前のルリに戻ってしまうのかと不安に思ったこともあったけれど、不思議なほど、ルリは何も思い出さなかった。
私の中では、以前のルリと今のルリは、もう別人だと思っている。
そして、ルリの性格がどんなに変わっても、お母様にとったら、ルリはルリみたい。
見た目も中身も関係なく、ただ、ルリがルリであればいい。
お母様にとって、実の娘でない私は、やっぱり、本当の娘にはなれないのかな……。
そう思うと、ラナとして生きてきた自分がやるせなくて、どうにも悲しくなってしまう。
が、そんな私の気持ちを、今のルリはすぐに見抜く。
というのも、いつもはお母様の話を静かに聞いているルリなのに、こんな時は、率先して、会話を誘導し、自然とお母様の関心が私に向くようにする。
あまりに自然すぎて、最初はわからなかったけれど、そのことに気づいた時は衝撃を受けた。
記憶をなくしただけで、こんなに変わるわけはないと思うから。
やっぱり、別の人格が入っているとしか思えない。
しかも、普通の女の子じゃない。
学校では学ばないようなことまでしっかり身につけた、洗練された女性が頭に浮かんでくる。
仮に、中身が誰であっても、今のルリには幸せになってほしいと心から願う。
ただ、ルリが幸せになるために、気がかりなのは、リュウのこと。
両親の前では、リュウは私と結婚したら……などと、未来のことを当たり前のように語るけれど、口先だけ。
心はルリに向いている。
二人にならないよう、ルリが上手く避けているけれど、近頃、リュウが焦ってきているような気がするのよね……。
考えすぎならいいけれど、何か嫌な予感がする。
リュウは両親をすっかり取り込んでいるから、私がルリを守らないと……。
そんな時、森野君から、嬉しい連絡があった。
なんと、来月、森野君が帰ってくるそう。
しかも、一カ月も日本にいられるとのこと。
自分でも驚くほど、心が浮き立った。
憂いなく森野君に会えるように、来月までに、もろもろ、がんばろう……そう思った。
そして、今、私が最も心配しているのは、遠野さんのこと。
大学で会えば、元気そうにするけれど、あの付き合ってた人のことをあきらめきれず、いまだに、苦しんでいることがわかる。
ここ最近、また、遠野さんは大学を休んでいる。
電話をかけてもつながらない。
心配していると、久々に、遠野さんから電話がかかってきた。
「遠野さん、大丈夫!?」
思わず、大声をだしてしまった私。
「うん、ごめんね。円徳寺さんには心配かけてばかりで……。あの、今日、電話したのはね、円徳寺さんにお願いしたいことがあって……」
遠野さんの声は、電話越しにでも伝わってくるような緊張感があった。
よほど言いにくいことなのかな……?
「お願いって何? 私にできることならいいんだけど……」
「あの……円徳寺さんのお家に遊びに行かせてもらいたいの」
「え? 私の家に?」
思いもしなかったお願いごとに、驚いてしまった私。
「うん。大学には行く気にならないんだけれど、円徳寺さんとは会ってゆっくり話したくて……。ダメかな?」
「ダメじゃないけど、うちまで来るのは大変なんじゃない? 私が遠野さんのお家の近くまで行こうか? カフェとかで話してもいいし」
私の言葉に、焦ったように、遠野さんが言った。
「ううん。私、円徳寺さんのお家に行ってみたい。友達のお家に遊びに行ったことがないから……」
あ、それ、私もそうだったわ。
結局、二日後の日曜日に、遠野さんが家に来ることになった。
その日は、お母様はお父様と一緒に、遠くで開かれるパーティーに招待されていて、一日不在。
お母様には、家にいて、ルリのことを見ているよう頼まれているから、ちょうどいい。




