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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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円徳寺 ラナ 31

あれから、遠野さんは大学に来なくなった。


最後に見た、ほの暗さがにじむ遠野さんの笑顔を思い出し、心配になる。


遠野さん、大丈夫かな……。

大学に来れないほど悲しんでいるのかな……。

無茶をしてないといいけど……。

だって、そんなことをしようものなら、遠野さんがさらに傷ついてしまう。


心配ばかりが大きくなっていくけれど、私は遠野さんのために何もできない。

せめて、遠野さんが大学へ来た時、休んでいた講義がわかるようにと、遠野さん用のノートを作って、遠野さんが大学に来るのを待った。


そして、家では、ルリの記憶は戻らないまま。

相変わらず、不思議なほど外出しようとはしないルリ。


お母様はルリの記憶を取り戻そうと、以前のルリが好きだった場所へ誘う。

でも、ルリはやんわりと断っている。


ルリは記憶を取り戻そうとしている様子はまるでなく、記憶が戻らないことに焦る様子もない。

ただ、まわりを観察しながら、淡々とすごすルリ。


決して拒絶する態度をとるわけではないけれど、まわりとは、どこか一線をひいたルリを見ていると、ふと、おとぎ話の「かぐや姫」を思い出した。


いつか月にかえってしまうような、どこか違うところからきた高貴な女性。

ものしずかで儚げで、いつ消えてしまってもおかしくないような感覚にとらわれてしまう。


だからなのか、お母様は目を離そうとはせず、常にルリに寄り添っている。


そして、リュウもまた、そんなルリに日に日に魅了されているよう。


ルリを見るリュウは、どこか、熱にうかされている感じがする。

記憶を失う前のルリには、これほどの熱のある目は向けていなかったと思う。


今では、大学から戻ると、リュウがいるという日が多くなった。

まるで、自分の家のように、長い時間、滞在するリュウ。


何かと、「記憶の戻らないルリが心配で、少しでも、ルリのために力になりたいんです」と言うリュウ。

そんなリュウを、お母様は頼り切っている。


二人はルリを中心にして固く結託したことで、家の中の空気が少しずつ変わってきた。

説明しずらいけれど、二人の思いに支配されていくような、何とも言えない圧迫感。


でも、お父様はルリが退院してからも、ルリと同様、私にも気づかってくれている。

だから、仕事からお父様が帰ってくると、家の雰囲気が軽くなる。

でも、仕事で忙しいお父様が家にいる時間は短い。


そんな変化の中、妙に心が揺れる時は、森野君からのメールを読み返す私。

そうすると、不思議なほど、不安が消えた。


森野君は心配して私の身の周りのことを聞いてくれるけれど、私は、リュウについては一切書いていない。


心配かけたくないというのもあるけれど、大きな理由は、外国でがんばっている森野君に、どろっとしたリュウの話を書きたくないから。

まぶしいほど輝きながら前に進む森野君に、よどんだもので足を止めて欲しくない。

そんな気持ちになってしまう。


リュウが自分ではなく、ルリに惹かれるのは仕方がない。

それに、好きでもない私が婚約者で、リュウも気の毒だと思う。


本当はルリとリュウが結婚して、会社を継ぐのが一番いい。両親も望んでいると思う。


でも、お母様は病弱だったルリの体が心配。

だからこそ、私を養女にした。

更に今のルリは記憶がない。


「ラナ。今のルリは記憶がないから、何かあったら、守ってあげて」

と、事あるごとに私に頼んでくるお母様。


「大丈夫です。守りますから」


そう答えると、お母様は私に微笑む。


その笑顔を見ると、やっぱり、期待に応えたいという思いがわいてくる。

孤児院から出してくれた、あの時の安心した気持ちが、どうしても戻ってくるから。


だから、ルリを守るため、私が矢面に立たてるようにならないと。


でも、私一人で、会社を継ぐ力はない。

お父様が信頼している人の息子であるリュウが必要だから、婚約者をルリに変えるのは難しいってことよね……。


リュウの気持ちが私になくても別にいい。私もそうだし。

でも、同じ道を進む以上、信頼できる人であってくれたらいいのに。


でも、今までのリュウを見ていると、……そうじゃない。


ふと、遠野さんの付き合っていた人のことを思いだした。

そして、遠野さんを思うと、胸がいたんだ。



最近、お土産を買ってくるようになったお父様。

必ず、ルリと私と同じ物を買ってきてくれる。


物と言えば、以前のルリには、散々、持ち物をとられていたので、いまだに癖で、すぐに、あげようとしてしまう。


お母様はと言えば、ルリを喜ばそうと、プレゼント攻撃がエスカレートしていっている。

買い物に誘っても行かないルリに、デパートの外商を呼んでは何か買うようになったから。


以前のルリは、「あれが欲しい。これが欲しい」と、散々言っていた。

今のルリは、決してそんなことは言わない。


でも、お母様がプレゼントした物は、きちんとお礼を言って、受け取っている。

どう見ても嬉しそうには見えないけれど、どこか観察するように、受け取っているルリ。


それを見たリュウも、ルリの気をひこうと、プレゼント攻撃にでた。

が、ルリは高価そうなものは、すかさず返して、私と分けられるようなお菓子とかだけ、受け取っているようだ。


しかも、最近は、リュウと二人にならないよう、避けている感じもする。


知れば知るほど、以前のルリとは全く違う。


今のルリは地味でシンプルな服を着て、表情も穏やかで、品のある立ち居振る舞い。

同じ顔のつくりであっても、全く違う人にしか見えない。



そんな生活が続き、半年が過ぎた頃、大学に遠野さんがやって来た。

私を見て、手をふった遠野さん。


その姿に私は息をのんだ。

げっそりと痩せてしまい、別人のようになっていた。

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