円徳寺 ラナ 28
いつも、明るい表情で私に話しかけてくる遠野さんなのに、どうしたんだろう?
心配になって、聞いた。
「遠野さん、大丈夫? もしかして、体調が悪いの?」
「まあ……、最悪かな……」
小さい頃、体の弱かったルリの面倒をみてきた私。
自然と体が動いてしまう。
遠野さんのそばによると「ちょっと、ごめんなさい」そう言って、円徳寺さんの額に手をあてた。
「熱はないわね……」
「え? ちょっと、何を……?」
遠野さんが驚いているが、それどころじゃない。
「動けるようなら保健室に行きましょう。無理しないほうがいいからね。あ、この授業のノートは私がとっておくから、何も心配しないで」
そう言って、安心させるように微笑んだら、遠野さんが表情がぬけおちたうような顔で固まった。
「なんで……そんなに優しくするのよ……」
小さい声でつぶやいた遠野さん。
いつもとは全然違う、低い声。
「なんでって、体調が悪いのなら、心配するのが当然でしょう?」
「円徳寺さん……私のこと、心配しているの……? いつも、一方的に話しかけてただけなのに、うっとうしくないの、私のこと……?」
「うっとうしい? いえ、そんなこと一度も思ったことはないわ。ただ、気の利いた返事ができなくて悪いとは思ったけど……。そんなことより、早く保健室に行きましょう」
一瞬、泣きそうになった遠野さん。
が、すぐに、無理した顔で微笑んだ。
「ごめんね、円徳寺さん。勘違いさせちゃったけど、体は全然大丈夫……。ただ、ショックなことがあって、落ち込んでいただけ……」
そう説明した遠野さんは、ものすごく心細そう。
「何か、私にできることがある?」
すると、遠野さんは、少し迷ったあと、意を決したような顔で言った。
「それなら……あとで、話を聞いてくれる?」
「ええ。私で良ければ」
私はこの時、森野君を思い出していた。
森野君が話を聞いてくれることで、私がどれだけ救われていたか、会えなくなった今、痛いほど身に染みている。
森野君のようにはなれなくても、私が話を聞くことで、遠野さんが、ほんの少しでも楽になってくれたらいいな……そう思った。
講義が終わって、中庭にあるベンチに2人並んで座った。
遠野さんがぽつぽつと話しはじめた。
「私ね、高校のときから、つきあってた人がいたんだけど、ふられたんだ」
「え、そうなの……?」
今まで自分のことを話さなかった遠野さんが、いきなり、ふみこんだ話をしたので、内心驚いた私。
なんて言っていいかわからず、言葉につまってしまう。
が、遠野さんは気にする様子もなく、話を続けた。
「その人は、高校の時の先輩なの。私、中学3年の時、いじめられて、学校へ行けなくなってね。でも、なんとか卒業はできたから、だれも知りあいのいない遠くの高校へ通いはじめたの。でも、やっぱり、またいじめられるんじゃないかと思うと、怖くて……。まわりと打ち解けられず、いつも一人だった。で、お昼のお弁当を、ほとんど人が通らない階段を見つけて、そこで隠れるように食べてたの。そんな時、たまたま食べているところを見られて、声をかけてきたのが先輩だった」
今の遠野さんは明るい女の子で、孤独とは結びつかない。
でも、この話に嘘がないことは伝わってきた。




