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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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円徳寺 ラナ 27

ルリの記憶が戻らない間は、休学することになった。


そのため、ずっと家にいて、本を読み、学んだりしながら静かに過ごしているルリ。


家の中に、以前のルリとは真逆の行動をとるルリがいることに、なんだか不思議な気持ちになる。

まるで、パラレルワールドにきたみたいな感じというか……。


そんなルリをなんとか連れ出そうとするお母様。

が、ルリは不思議なほど、外出したがらない。


「ルリが好きだったお店があるの。行ってみない? ルリが欲しいバッグがあると言っていたところよ。退院祝いに買いに行きましょう」


今日も、ルリを誘うお母様。

が、ルリは申し訳なさそうな顔で言った。


「いえ。部屋に沢山あるので十分です」


「なら、バッグじゃなくてもいいのよ? ルリの好きなカフェもあるから、お茶だけでもしない?」


お母様が必死に誘っている。

が、ルリは気乗りのしない感じだ。


私は、思わず、口をはさんだ。


「それなら、お母様。普段、着る服を見に行かれたらどうですか? ルリ。以前、着ていた服が好みにあわないんでしょう?」


ルリのクローゼットには沢山の服がある。

が、ルリは、そこから数着だけを着まわしていた。


おそらく、ルリの持っている洋服のなかでは、比較的、地味なものを選んでいる気がする。


「まあ、そうなの? ルリ?」


ルリは少し驚いたように私を見たあと、お母様に遠慮がちにうなずいた。


「ええ。なんだか、派手すぎて……」


「じゃあ、すぐに、買いに行きましょう!」

と、お母様が嬉しそうに言った。


良かった……。

容姿は以前と同じでも、今のルリに、以前のルリの服は合っていないように思えて、気になっていたから。


出かける準備を終えたルリとお母様を送りだそうとした時、

「あら? ラナお姉さんは行かないの?」

と、ルリが聞いてきた。


「私は勉強があるから」


あわてて答えた私。

今までも、買い物は、だいたい、ルリとお母様が二人で行っていた。


ごくたまに、気まぐれにルリに誘われた時だけ、私も同行する感じだった。


というようなことを考えていたら、ルリは「ああ、同じなのね……」と、なぜだか、納得したように、小さくつぶやいた。


どういう意味だろう? 


そう思って、ルリを見ると、ルリもまた、私の目をじっと見ていた。

親しみのこもったような目で。


ルリは、お母様にきっぱりと言った。


「ラナお姉さんと一緒に出掛けたいから、買い物は、ラナお姉さんの都合が良い日にしてください」


驚いたような顔をしたものの、お母様は、すぐに私に向かって言った。


「ラナ。勉強は、今しなきゃならないの?」


そうです、と言える雰囲気では、もちろん、ない。


「いえ、今じゃなくても大丈夫ですけど……」


「それなら、ラナも一緒に行くわよね?」


お母様がにこやかに言った。


もちろん、これは命令で、断る余地はなかった。



そして、リュウといえば、婚約者として私と向き合うと言い、毎日、病院へ迎えにきていたリュウはもういない。


今や、リュウはルリのお見舞いと称しては、色々な品物を手に、ルリに会いに来るようになった。


高価な果物や、手に入りにくい珍しいお菓子、おしゃれな花束。

確かに、以前のルリなら大喜びだったと思う。


が、今のルリは喜んでいる様子はなく、ただ、いぶかしそうに受け取っていた。

淡々とリュウに接するルリを、熱のこもった目で追うリュウ。


そんなリュウを見ても、ショックも失望もない。

ただ、つかのま、穏やかだった時間が消えていきそうで、不安が増していくだけ。


そんなある日、私の髪留めをじっと見ているルリに気が付いた。

買ったばかりの、小さな花がついた髪留めをルリが見ている。


私はとっさに髪留めをはずして、ルリに渡した。


「あげるわ」


「え……? きれいだと思って見ていただけだから、いらないわ。ラナお姉さんのほうが似合ってるし……」


以前のルリと同じ顔をしていても、以前のルリなら絶対に言わないだろうことを言うルリ。

本当にルリなんだろうか……と、確かめるようにじっと見た。


「ルリ……。あなた、記憶がないんじゃなくて、別人みたいよね……」


「どうしてそう思うの?」


「ルリは、私の物をなんでも欲しがったから。きれいね、とほめるだけなんて、あり得ないもの……」

と、正直に思ったことを答えた私。


すると、ルリがほんの少しだけ、うなずいたように見えた。



大学に行くと、珍しく、遠野さんのほうが先に来て、いつもの席に座っていた。

そう、森野君が座っていた席だ。


でも、今は、遠野さんがいることに慣れてきた。


「遠野さん、おはよう」


いつものように挨拶して、席についた。


「あ、円徳寺さん、おはよう……」

と、消え入りそうな声がかえってきた。


驚いて、遠野さんを見る。

と、そこには、いつもとは違って、暗い顔をした遠野さんがいた。


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