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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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円徳寺 ラナ 21

週があけて、森野君が出発する週になった。

でも、何日に出発するかは聞いてない。


聞いてみようかな……。

でも、忙しいから悪いかな……などと迷っていたら、朝、森野君から電話がかかってきた。


「今日の午後、出発するんだ」


「え、今日!? 何時? 見送りに行ってもいい?」


「見送りはいい。円徳寺の顔を見たら、行きたくなくなるかもしれないから」

と、冗談めかしたように言った。 


「そうだよね。私が不安そうな顔をしたら、心配かけちゃうもんね」


「いや、そういう意味じゃないけど……。まあ、そのことは、おいおい帰ってきてからだな……。それより、円徳寺。何かあったら、迷わず、渡したお守りを使ってくれ。そのことだけ、もう一度、念を押しておきたくて」


真剣な口調で言った森野君。

と、森野君の背後から人の声がする。


「ごめん。出発前でバタバタしてて……。親が呼んでる。じゃあ、円徳寺。俺の言ったこと、くれぐれも忘れないで。じゃあ、また、連絡する」


そう言って、電話をきった森野君。


森野君が日本からいなくなるんだ……。

そのことを実感したとたん、胸がぎゅーっと痛くなった。


そんなに不安なのかな、私…。


私は、森野君が渡してくれた名刺を手にとった。


手触りは普通の紙なのに、あたたかい。

なんだか、涙がでそうになった。


でも、森野君に甘えてばかりじゃダメだ。

森野君は、これからイギリスでがんばるんだから、私のことで心配かけないようにしないと。


私は、森野君からもらった名刺を封筒に戻して、本棚の本の間にしまった。

いつもの癖で。


本棚なら、本を読まないルリは興味を持たない。

だから、どうしても取られたくないものは本棚に隠していたから。


でも、今のルリなら、もうそんな心配はしなくていいんだろうけれど。


今日は大学が休みだから、ルリに着替えや差し入れをもって、病院に行くことにしている。

でも、朝食を食べていても、ルリの荷物の準備をしていても、気が付けば、同じことばかり考えてしまう。


断られたけれど、やっぱり、森野君の見送りに行きたい……。

もう一度、森野君に会っておきたい。


そう思いだしたら、居ても立ってもいられなくなった。


その時、お父様が私に声をかけてきた。


「ラナ。今からルリの病院へ行くんだろ? 車で送っていくよ」


「はい……。あ、やっぱり、ちょっとルリに持っていきたい物があるので、買い物してから行きます」


するっと口から嘘がでた。


私に謝って以来、変わってしまったお父様は優しい口調で言った。


「いつも、ルリのことを気づかってくれてすまないね。助かるよ。ありがとう、ラナ。買い物にいくなら、ルリの物だけじゃなくて、自分の欲しい物もゆっくり買い物してきなさい」


そう言って、財布から一万円札を数枚とりだして、私に手渡してきた。


「え、こんなに……? あの、お小遣いは、ちゃんともらってますから……」


こんなことは今までなかったので、あわてて返そうとしたら、お父様が申し訳なさそうな顔をした。


「今まで、ルリには催促されるたびに、余分に小遣いを渡していた。ラナには余分にあげたことはなかったのに。本当に申し訳なかった……」


またもや、お父様に謝られて、私は急いで首をよこにふった。


「いえ、いただいてるお小遣いで十分だったから……」


とっさについた嘘で、お父様を謝らせてしまうことになり、罪悪感でいっぱいになる。


結局、お父様におしきられ、お小遣いをいただいてしまった。



私は空港に行ってから、病院に行くことにした。


急いで、ルリに渡す荷物を持ち、家の近くのバス停に走った。

病院とは違う方向のバスに乗らないと、空港には行けない。


バス停で時刻表を見たら、幸い、すぐに目当てのバスがくる。

ほっと一息ついた時、一台の車がとまった。


「ラナ! どこへいくの?」


車の中から声をかけてきたのはリュウだった。


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