表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/82

挿話 あの後のこと 1 (ダグラス視点)

今回は、ダグラス視点の挿話になります。ダグラスが、王宮から、ルリを連れだした後のお話です。



魔術で閉じていた扉をあけて、部屋に入った。


派手な装飾をほどこした趣味の悪い部屋。

自分で指示したものの、入るだけで、げっそりとする部屋だ。


何故、そんな部屋を用意したのか。


それは、この部屋を喜びそうな客を、しばらく監禁……いや、引きとめておくためだ。


で、今日、予定どおり、王宮から連れてきた。

黒目黒髪の異世界からきた女。


偽物の聖女だったルリだ。


部屋に案内するなり、ルリは嬉しそうな声をあげた。


「うわああ、豪華な部屋! 私、こういうの好き! ここで一泊してから、明日、伯爵様のお屋敷に向かうの!?」


「その予定だったのですが、実は伯爵が体調を崩されたとの連絡が入りました。幸い、軽い症状ですが、ルリ嬢を万全の状態でお迎えしたいとの伯爵本人のご希望です。そのため、申し訳ありませんが、伯爵のお身体がよくなるまで、こちらで滞在して、お待ちいただくことになります。そこのクローゼットの中には、ドレスもありますから」


私が説明すると、ルリは、すぐさま開いたままにしてあるクローゼットに近づいた。


ここでも、また、嬉しそうな声をあげたルリ。


「うわああ、なんて素敵! これ、全部、私のためのドレス?」


「ええ。伯爵から、ルリ嬢への贈り物です」


「え、すごーい! うれしい!」


欲のはらんだ目で喜ぶルリ。

その様子に、思わず笑ってしまいそうになる。


とういうのも、クローゼットにぎっしりつまっているのは、私が従者に指示をだし、調達してきてもらった古いドレス。

そこに私が「望むものが見える」という術をかけている。


やはり、ルリには、よくかかっているようだ。

物事の本質を見ぬく者にはかかりにくく、物事を見かけでしか判断しない者には、かかりやすい術だ。


ルリは浮かれた様子で、クローゼットの中から、一枚の古びた地味な色のドレスをとりだした。


「このドレス、素敵! 真っ赤で豪華で、私にぴったり! ねえ、ダグラスさん。着替えてもいい!?」


「もちろんです。あちらの寝室には、大きな鏡もありますから。そちらで着替えられたらいいでしょう」


そう言って、寝室へ続く扉を手で示した。


もちろん、その鏡にも、「望むものが見える」という術をかけている。

さぞかし、美しく着飾った自分の姿が映ることだろう。


ルリは、ドレスをだき抱えたまま、私にすりよってきた。

そして、色の含んだ目で、私を見上げて、ねっとりした口調で言った。


「この素敵なドレスを着た私を、一番に、ダグラスさんに見てもらいたいな。だから、ここで待っててね」


気持ちが悪くて、思わず、魔力を放ちたくなる。

が、なんとか我慢して、答えた。


「光栄ですよ」


ルリは頬を染めて、バタバタと寝室へと入っていった。



王宮から、ここまで連れてくる間に、ルリがどんな人間なのかが、よくわかった。

自分勝手で強欲。

どこを探しても品性も知性も貞操観念も見当たらない。


やたらと私を触ろうとしてくるし、欲をはらんだ目で見てくる。


正直、不快すぎて、一刻も早く、視界から消してしまいたい衝動にかられる。


が、まだ、ダメだ……。


この女の第一印象は、王太子妃になりたいだけの浅はかな女。

だから、ムルダーに利用され、結果としてクリスティーヌ嬢を苦しめる一端を担わされたのだろうと思っていた。


そのため、あのクリスティーヌ嬢の惨劇を目にした今なら、多少なりとも、後悔したり、反省したりもしているだろうと思っていた。


だが、ここへ移動する馬車の中、正直に答えるよう術をかけて確認したところ、この女には、そんな気持ちはみじんもないことがわかった。


それどころか、婚約者を奪われたほうが悪い、自死したほうが悪い、などと、言い出す始末。


同情する余地など何もない。


遠慮なく、それ相応の報いは受けてもらおうと決めた。

弟の大事なクリスティーヌ嬢を苦しめ、ひいては、弟を苦しめたのだから……。


ひとおもいに魔力で消すなど、そんな温情をかけるわけにはいかない。


読んでくださっている方、ありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ