円徳寺 ラナ 18
「では、改めて最初からな」
と、森野君からダメだしをされたため、ルリ以外のことも含めて、できるだけ詳しく話し始めた。
が、やはり、慣れていないので、無駄なことをしゃべってるような気がして不安になってくる。
「話が長くなるけど、本当にこんなんでいいの?」
と、つい確認してしまった。
「どれだけ長くなってもいい。確か、円徳寺の取っている午後の授業は休講だっただろう? 時間はたっぷりある」
「あ、でも、森野君は休講じゃないよね?」
だって、今日の午後の授業は違うから。
「いや、自主休講だ」
森野君は、思いっきり、いい笑顔で言った。
私が話をしている間中、森野君は軽く相槌を打つくらいで、ほとんど黙って耳をかたむけていた。
そして、今日までのことを、なんとか話し終えた私に、森野君が優しく微笑んだ。
「円徳寺。話を聞かせてくれてありがとう」
「えっ……?」
思わず、口からでた。
「どうかした?」
私の反応に、不思議そうに森野君が聞いてきた。
「今、なんか、……衝撃がきた……」
「衝撃? なんで?」
「だって、話をしてお礼を言われたの、はじめてだったから……。私の話を喜んでくれる人がいたんだなあって思ったら、衝撃を受けた……」
私の言葉に、森野君が驚いたように目を見開いた。
「円徳寺がそう思ってたことに、今、俺も衝撃を受けてる……。あのな、少なくとも、俺は円徳寺と話したいと思ったから、友人になったんだ。今までだって、話ができた日はうれしかったし、楽しかった。それに、今も、円徳寺自身の話を、もっと聞きたいと思ってる。もちろん、これからも、もっともっと、話をしたいと思ってる。俺の話も聞いて欲しいし、円徳寺の話も聞きたい」
切々と訴える森野君。
ずんと心に響いて、思わず、涙がでそうになった。
その後、少し冷めてしまった日替わりランチを食べた。
いっぱいしゃべったからか、おなかがすいていたみたいで、やけに美味しく感じる。
森野君はといえば、食べながら、考えをめぐらせているようだった。
が、ふと、不思議そうに言った。
「その妹、気になるな……。記憶喪失で、そこまで変わるかな……? 別人みたいに性格が変わるのは、まだわかるとしても、勉強しなかった人間が、勉強することに慣れたように学んでいるんだろう? それって、今まで持っていなかった経験を持っていることにならないか? となると、それはもう、中身が全くの別人に入れ替わったと考えるほうが腑に落ちるんだよな……」
「うん。私も、それは不思議に思うところなんだよね……。正直、以前の妹とはまるで違うから。別人にしか思えないし。……でもね、中身がだれであっても、今のルリになってくれて、私はほっとしてる。今のルリなら、この先、仲良くやっていけると思う」
「そうか……」
「それに、なにより、お母様が変わったもの。今のルリだと、お母様が笑っていられるんだと思う。私にも優しく接してくれるし。こんな穏やかな日々は初めてなんだ……」
私の言葉に森野君の顔がくもった。
「円徳寺……。水を差すようで悪いが、母親の本質は何も変わっていないと思う。妹次第で、いつ、また、円徳寺にきつい態度をとったり、理不尽なことを言うかわからない。いや、一度、期待させた分、もっと円徳寺を傷つけるかもしれない……」
と、苦しそうに言った森野君。
悲しいけれど、私もそう思う。




