円徳寺 ラナ 17
授業が終わるなり、森野君につれられて、大学近くのカフェにきた。
「ここなら、学食よりは静かに話せるから」
と、森野君。
2年も大学に通っていて、近くに、こんな素敵なカフェがあるとは知らなかったな……。
テーブルをはさんで向かい合って座った私と森野君。
慣れない状況が気恥ずかしくて、なんだか落ち着かない。
というのも、私にはカフェでお茶をする友達もいなかったから。
ただ、カフェには、三人で行くことはたまにある。
それは、お母様とルリと私で行くか、ルリとリュウと私で行く時。
しかも、お母様とリュウがかわっても、状況は同じ。
ルリとお母様が仲良く話しているのを私が見ている。
ルリとリュウが仲良く話しているのを私が見ている。
つまり、私はふたりのおまけみたいな状況だったから、二人でむかいあって座ること自体、なんというか、慣れない。
森野君と私も日替わりランチを注文した。
すぐに、森野君が、待ちかねたように、私に聞いてきた。
「電話で聞いたのは、妹が階段から突き落とされたところまでだったけど、その後、状況はどうなった?」
私は、妹が目覚めたけれど、以前の記憶がないことを説明した。
更に、性格がかわってしまったこと。
人をおもいやったり、まるで別人のようであること。
そのうえ、勉強ぎらいだったのに、勉強をするようになったこと。
以前はそうでもなかったのに、今は、覚えがよくて、優秀なことなどをかいつまんで伝えた。
すると、森野君は、あきれたような目で私を見た。
「円徳寺……、いくらなんでも簡潔すぎるだろ」
「え、そう? でも、要点はまとめたつもりだったけど、わかりづらかったかな?」
私が言うと、森野君は首を横にふった。
「いや、確かに、簡潔でわかりやすい。……でも、授業じゃないんだ。要点をまとめなくていいから」
「え、そう……? 私、いつもそうしてるけど」
「いつも? あ、言われてみれば、円徳寺が何か説明するときはやたらと短いな……。意識的にそうしていたのか? なんでだ?」
「気がついた時には、もう、そうしてた。多分、そうしたら、話を聞いてもらえると思ったからかな」
「話を聞いてもらえる……?」
「うん、そう。ほら、うちの家族は妹が中心でしょ。例えば、食事中も、妹が話をして、みんなが聞くみたいな。だから、私が自分の話をしようものなら、ルリが嫌がって、すぐに自分の話にすりかえる。だから、連絡事項がある時は簡潔にまとめて、ルリの話の合間をぬってお母様に伝えていたの」
私の説明を聞いて、森野君が眉間にしわを寄せた。
「はあー、なんだ、その理由は……。小さい頃の円徳寺を想像したら、泣けてきた。……でも、今は、簡潔にまとめるよりも、できるだけ詳しく、円徳寺が不要だと思っても、なんでも俺に話してくれ。それに、妹以外のこともな。ほら、両親や婚約者のことも聞いてないし」
「あ、そのあたり、まるっと省いたんだけどいるかな……?」
「できる限り聞いておかないと、俺が状況を把握できないから」
森野君に促され、できるだけ、私は事細かく話し始めた。




