円徳寺 ラナ 16
ルリの事件から10日がたった。
病院と家を行ったり来たりとバタバタしているため、大学は休んでいる。
今日も家の用事を済ませた後、病院に向かった。
ちなみに、お母様は先に病院に行っている。
ルリは私が行くと、いつも、待ちかねたように色々質問をしてくる。
一度聞いたことは忘れないし、理解する力もすごい。
やはり、学ぶことに慣れているような気がする。
打てば響くルリに、教えることも、つい楽しくなってしまうほど。
思わず感心してしまうけれど、やはり以前のルリを思うと、あまりに違っていて腑に落ちない……。
今日は、学校について聞かれた。
ルリは不思議なことに、学校を学園と呼び、覚えてはいたみたいだけれど、小学校、中学校、高校、大学というような名前は記憶になかったみたい。
ルリが言った。
「ラナお姉さんは『大学』という学園に通っているのでしょう? 私のために休んでるのだったら、もう休まないで」
「でも、まだルリは記憶が戻っていないんだから。私がいないと不便じゃない?」
躊躇する私に向かって、ルリが強い口調で言った。
「私は大丈夫。それに好きなことを学ぶ機会があるのに、休むなんてもったいないわ」
「え……?」
実感がこもったような言葉に、思わず、驚いてしまう。
だって、勉強が嫌いなルリが絶対に言わないようなことだから。
ルリをまじまじと見つめていると、お母様の機嫌のよい声がした。
「ラナ、明日から、大学へ行きなさい」
「いいんですか……?」
驚いて、お母様を見る。
今までのお母様なら、ルリが体調が悪い時、ルリをおいて大学へ行くことを絶対に許さなかったのに。
「もちろんよ、ラナ。だって、ルリがそう望んでるのよ」
お母様はそう言って、ルリを愛おしそうに見た。
ああ、そうよね……。
お母様は、私のために大学へ行くように言っているわけではない。
ルリが言ったから……。
ルリが望んだから……。
だから、そう言っただけ。
ルリの望みを叶えることがお母様の願うこと。
だから、ルリの記憶が戻り、また、前のわがままなルリになって、私が傷つくようなことを望んだとしてもお母様は止めない。
それどころか、率先して実行しようとするんだろうな、と。
つまり、今の穏やかな日々は、いつ崩れるかわからないものだとういうこと。
◇ ◇ ◇
翌日、私は病院には行かず、大学へ行った。
教室に入ると、私の顔を見るなり、駆け寄って来た森野君。
「大変だったな。大丈夫だったか?」
と、心配そうに声をかけてきた。
私は、安心させるように微笑んだ。
「うん、大丈夫」
森野君は確認するように私の顔を見てから、安心したように息をはいた。
「確かに、顔色は悪くないな……。良かった……」
「心配かけてごめん」
「ああ、心配した。大学にも、ずっと来ないし。あのな、円徳寺。俺に留学を断る電話をかけてきたよな? つまり、俺の電話番号は知ってる。だろ?」
「うん」
「心配してるだろうから、その後の経過を連絡してみようとか思わなかったのか?」
「あ、全然思わなかった……」
「ひどいな! 俺は何度も電話しようとしたが、いや、取り込んでるだろうから、かかってくるのを待とうと思って我慢した。なのに、まさか、円徳寺は思いもしなかったとは……。薄情だな」
と、すねたような顔をした森野君。
普段の冷静な表情とはまるで違い、子どもっぽくて、つい笑ってしまった。
そんな私を見て、森野君の表情がやわらいだ。
「笑えてるし、思ったよりは元気そうだ。だが、円徳寺の大丈夫は、まるであてにならないからな。ということで、大丈夫かどうか俺が判断する。昼休みに、何があったか、じっくり話を聞かないと。ランチはおごるから、洗いざらい話してもらおう」
そう言うと、森野君はニヤッと笑って、席についた。




