円徳寺 ラナ 14
私を見るなり、駆け寄ってきたリュウ。
「ラナ、大変だったね! 大丈夫?!」
心配そうな顔で、リュウが聞いてきた。
そんなにルリが心配だったのね…。
ほんの少し、チクリと心が痛んだけれど、私はその気持ちを隠して、微笑んだ。
「心配かけたけれど、ルリは大丈夫だよ。でも、記憶がまだ戻ってないから、家族以外の面会は断っているの。リュウもルリに会いたいだろうけれど、本人の希望だから、ごめんね」
ルリから、記憶がなくて失礼なことを言ったら申し訳ないから、家族以外に会いたくない。だから、お見舞いは断ってほしいと言われた。
それを聞いた時、正直、耳を疑った。
だって、ルリが、そんな気遣いができるとは思えない。
逆に、「なんでこないのよ!」くらい言いそうなのよね……。
でも、今のところ、ルリへのお見舞いは誰ひとり、来ていない。
取り巻きみたいな友達がいたはずだけれど、まあ、突き落とされた理由が理由だし、関わりたくないのかも。
「ルリに会いたいとかじゃなくて、ぼくはラナが心配で会いに来たんだ……。ラナ、無理しているんじゃない?」
「私……?」
「そう、ラナだよ! ぼくはラナが心配なんだ。大丈夫?」
と、つらそうな顔をするリュウ。
え、リュウはルリじゃなくて、私を心配しているの?
意味がわからない。
「私は大丈夫だけど……。なんで、私のことを心配するの……?」
「ラナはぼくの婚約者なんだから、心配するのは当たり前だろう!?」
リュウが不満げに言った。
「当たり前? そうかな? だって、リュウはルリが好きなんでしょう? だから、婚約者の私のことなんて、どうでもいいのかと思ってたけど……」
ぼそっと、本音がこぼれた。
「は? ……あ、……いや、ルリとは、そんなんじゃない! ほら、ルリは将来、義妹になるから、仲良くしていただけなんだ! それに、ルリは男関係で突き落とされたんだろう? ころっとだまされてたけど、相当遊んでたんだな……。ぼくが、そんな軽い子を好きになるわけがない。ぼくは、ラナみたいに真面目で……」
「やめて! ルリを悪く言わないで」
とっさに、リュウの言葉を強い口調でさえぎった。
というのも、私の頭には、病室で図鑑を楽しそうに見ているルリの顔が浮かんでいたから。
以前のルリだと、ラナとしての義務で守っていたけれど、今のルリなら、妹だから守りたい、自然とそう思えた。
だから、リュウの言葉に腹が立ったんだと思う。
「あ、ごめん……」
リュウが気まずそうに謝った。
「ううん。こっちこそ、大きな声をだしてごめん。ちょっと、疲れてたみたい……」
とってつけたような言い訳をした。
どうしよう、気まずい……。
わざわざ来てくれているんだから、いつもみたいにあがってもらって、お茶でもだすべきなんだろうけれど、……なんか嫌だな。
今日は誰もいないし、なにより、今はリュウと話したくない。
そう思った時、リュウが私に向かって、やけに優しく微笑んだ。
「じゃあ、ぼくは帰るよ。ラナの顔を見にきただけだから。会えて良かった。……じゃあ、ラナ。体に気をつけて」
そう言って、リュウはさらっと帰って行った。
後ろ姿を見ながら、ちょっと罪悪感がわいた。
せっかく、心配してきてくれたのに……。
それにしても、リュウ、一体どうしたんだろう?
あんなにルリにべったりだったのに、リュウの考えていることがわからない。
まあ、謝るのは次に会った時にしよう。
でも、しばらく来ないかもね……。
そう思ったのに、翌日、ルリのところから帰った私を待っていたのは、応接室でお父様と談笑するリュウだった。




