円徳寺 ラナ 3
その日の夕食。
今日は両親とルリと私。全員そろっての食事となった。
お母様と出かけたルリは沢山買い物をしたらしい。
その様子を楽しそうにしゃべっている。
「ラナお姉ちゃんにもお土産を買ってきたんだ」
そう言って、さしだされたのはリボンのついた髪留め。
え……?
その時、リュウ君にもらった髪留めをつけたままにしていたことを思い出し嫌な予感がした。
が、今、外すわけにはいかない。
リュウ君の髪留めに注意がいかないよう、私はルリのお土産である、リボンのついた髪留めを手に取り、大げさなくらい喜んだ。
「この髪留め、すごくかわいい! ありがとう、ルリ!」
「そうだ。ルリが髪につけてあげる!」
あ! と思った時にはすでに遅く、ルリがリュウ君からもらった髪留めを見つけて、叫んだ。
「この髪留め、かわいい! お月さまだ! ラナお姉ちゃん、こんな髪留め、持ってたの?」
「あ……、今日、リュウ君にもらったの……」
と、言ったとたん、ルリがぷーっと頬をふくらませた。
「ラナお姉ちゃんだけ、そんなかわいいのもらって、ずるーい! ルリも欲しい!」
この先の展開が簡単に予想できて嫌な汗がでた。
ルリは絶対に欲しがる。
そして、私は今まで一度もルリのお願いを断ったことはない。
だって、ルリを優先するのは、ラナであるための条件だから。
でも、この髪留めだけは手放したくない。
その時、予想外の助けが入った。お父様だ。
「リュウ君はラナの婚約者だからな。仲が良いのはいいことだ。ルリ、お父様が同じものを買ってあげよう」
と、にこにこしながら言った。
これであきらめてくれると思ったが、ルリは更に大きな声をはりあげた。
「嫌だ! ルリ、このお月さまの髪留め、今、欲しいんだもん! 早くちょうだい、ラナお姉ちゃん!」
私はとっさに手で髪留めをおさえた。
「でも、……これは、リュウ君から私へのプレゼントだから」
「ラナお姉ちゃんには、ルリが買ってきた髪留めがあるじゃない! ルリのお土産が気に入らないの!?」
「そんなことない。ルリのお土産、すごく嬉しいよ」
「それなら、リュウ君からもらった髪留めは私にちょうだい。いいよね?」
「でも、リュウ君が……」
そう言いかけた私を、厳しい声が遮った。
「ラナ。髪留めぐらい、ルリにゆずってあげなさい」
お母様だ。
「おい……。それはリュウ君からラナへのプレゼントだ。リュウ君はラナの婚約者だぞ」
と、お父様が言ってくれた。
「たかが髪留めですよ? あなたは黙ってて!」
お母様がきつい口調で言うと、お父様は渋々といった感じで黙った。
お母様は私に冷たい視線を向けた。
「ラナ。あなたはルリの姉でしょう? 」
姉でしょう? というのが、姉でいたいのでしょう? と聞こえて、体の芯が冷えてくる。
そう、私が、ルリの姉のラナとして、ここにいるためには常にルリを優先し、ルリの意志に従うしかない。
私は震える手で髪留めを外した。
そのとたん、私の手から髪留めをうばいとったルリ。
「やった! ありがとう! ラナお姉ちゃん!」
そう言うと、早速、自分の髪につけている。
「お母様、似合ってる?」
上機嫌になったルリがお母様に聞いた。
「ええ、似合ってるわ」
「あっ、そうだ!」
と、思いついたようにルリが声をあげた。
「どうしたの、ルリ?」
お母様が優しく聞く。
「リュウ君、私が今日いなかったから、ラナお姉ちゃんにあげたんだね。ほんとは、この髪留め、私に買ってきたんだよ! だって、ラナお姉ちゃんより、私のほうが似合ってるもん」
違う! それは、私を思ってリュウ君が買ってくれたの!
と、心の中で叫ぶ。
「ええ、きっとそうね。ルリにとても似合っているものね」
そう言って、お母様がルリの髪の毛をなでた。




