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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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ムルダー王太子 37

※ムルダー視点の最終話になります。長くて暗いです……。

ダグラスのせいで、クリスティーヌを追いかけられない。

ぼくは必死に叫んだ。


「行くな、クリスティーヌ!」


隣で、ダグラスがため息をついた。


「ほんとに、理解できない人ですね……」


そう言うと、何かつぶやいた。


そのとたん、ぼくの声がでなくなった。

もう一度、クリスティーヌに届くよう、声をはりあげようとしたのに……。


「仕方がないので声も封じました」

と、涼しい顔で言うダグラス。


やめろ! そう言いたいのに、声がでない!


ダグラスが父上に、「ムルダー様は体調が悪いようです」と、報告している。


違う! 全部、こいつのせいだ!


心の中で叫ぶが父上には伝わらない。

ぼくはそのまま騎士に抱えられ、強制的に部屋に運ばれた。


◇ ◇ ◇


動けず、しゃべれず、ベッドに寝かされたままのぼく。


子どもの頃に見た、クリスティーヌとライアンが並んでいる場面が何度も頭に浮かぶ。

そして、成長したクリスティーヌとライアンが寄り添っている場面まで、想像してしまう。


怒りと焦りで、おかしくなりそうだ!


その時、ノックの音がして、ダグラスが入って来た。


「国王陛下と打ち合わせをしていたら遅くなりました。どうです? 少しは、自分のしたことを反省しましたか?」


怒りをこめてダグラスをにらむ。

すると、ククッと笑ったダグラス。


「すみません。まだ、しゃべれないままでしたね」


そう言って、また、つぶやいた。


体が楽になり、のどのつかえがとれた。

ぼくはベッドから飛び起きて、ダグラスにつかみかかった。


「ダグラス! おまえ、どういうつもりだ!?」


すぐに、掴んだ手は、はたき落とされた。


「やはり、反省していないですね。あと、おまえと呼ぶのは止めてください。もう、あなたは王太子ではない。今日をもって、ムルダー様は不治の病で、急遽、ロバート様が王太子となりました。あなたは、一代限りの公爵として、私の用意した屋敷で療養していただきます。つまり、私の管理下にあることをお忘れなく。言葉には気をつけてくださいね?」


「不治の病? 療養? そんなこと、父上が……いや、母上が認めるわけがない!」


すると、ダグラスは一枚の書類をだした。


「これを見てください。これは、ムルダー様が病のため王太子の座をおり、権限のない一代限りの公爵になるということ。その管理は全て、私に任される旨を記載した書類です。ほら、ここ。国王様と王妃様のサインがあります」


確かに、父上と母上のサインがあった。


「あと、王妃様に、ムルダー様が移動する前にお会いされるかお聞きしましたら、私に息子はいない、とおっしゃいました」


「ぼくは、母上のたった一人の息子だ!」


「そのたった一人の息子を切り捨てなければならない王妃様のお気持ち、察したらどうですか? まあ、言っても無駄でしょうが……。ということで、ご両親に挨拶はなしで結構。今から私が用意した屋敷へと移動します。新王太子のロバート様が王宮にこられますからね」


「そんなことより、クリスティーヌにもう一度会わせてくれ!」


「できるわけないでしょう? もう、面倒なので、眠ってください。目覚めたら新居です」


そう言うなり、ダグラスがぼくの目の前で手の振った。

その瞬間、目の前が真っ暗になった。


◇ ◇ ◇



目をあけると、知らない天井が見えた。

おきあがって、まわりを見る。


と、目線の先に、銀色の長い髪の毛が見えた。


クリスティーヌ!?


やっぱり、ぼくのところに戻ってきてくれたんだ! 


「クリスティーヌ!」


叫びながら、ベッドからとびおり、近づいた。


が、消えた。

そこには、寝衣を着たぼくの姿が映った鏡があるだけだ。


「クリスティーヌ? どこだ!?」


大声で呼んでいると、扉があいて、ダグラスが入って来た。


「やっと目覚めましたか? やはり魔力に弱すぎて、術がかかりすぎますね。半日眠ってもらうはずが、2日も眠ってましたから」


「そんなことより、クリスティーヌがここにいたんだ!」


「ムルダー様。クリスティーヌ嬢がどのように見えましたか? 映像のようですか?」


「いや、本物のクリスティーヌだ! 後ろ姿だが、クリスティーヌがここにいた! ぼくに会いに来たに決まってる!」


ぼくの言葉に、ダグラスが声をあげて笑った。


「何がおかしい?」


「やはり、興味深いほど、術がかかりやすい。あなたが見たのは、この鏡に映し出されたクリスティーヌ嬢です」


「一体、何を言って……」


「見ていてください」


そう言うと、鏡にむかって、ダグラスが何かを唱えた。

鏡に映ったぼくの姿は消え、クリスティーヌの後ろ姿がうきあがってきた。


「あ! クリスティーヌ!」


かけよって、クリスティーヌの肩に手を置いた。と、思ったのに、手が空を切った。


「さっきあなたが見たクリスティーヌ嬢の映像を鏡によび出しました」


「映像?」


「ええ。普通は平面で見えるのですが、あなたは術にかかりやすい。まるで目の前にいるように、立体的に見えてしまうのですね」


「意味のわからないことを言うな!」


「簡単に言うと、この鏡に今のクリスティーヌ嬢の姿が映るのです」


「どういうことだ?」


「私は魔道具も趣味で作っていましてね。この鏡は、まだ試作なんです。ほら、クリスティーヌ嬢の短剣があるでしょう? せっかくなんで、あの短剣を使って、試作してみたんです。短剣とクリスティーヌ嬢が共鳴したときだけ、映像が鏡に映るようにしました。とはいえ、距離も遠いですから、3秒ほど映ればいいほうですね。しかも、クリスティーヌ嬢が屋外で歩いている時だけしか共鳴しないよう設定しています」


「なら、顔を映してくれ!」


「顔はダメです。そもそも、こんなものを置いているのがばれたら、ライアンに怒られますからね……。でも、まあ、ムルダー様は、これから、この何もない部屋で療養されるわけですから。私からの贈り物ですよ」


「ぼくは出て行く! 早く、クリスティーヌに会わないと!」


「この部屋から、勝手に出られませんよ。私が術を仕掛けていますから。もちろん、国王陛下には許可をとっています。ちなみに、メイドも私の使い魔なので、人間ではありません。話しかけても無駄です。ああ、食事の準備や掃除など、最低限のことは完璧にこなしますので、ご安心を」


はあ……? なんだ、それは!?


「ダグラス! ぼくに何か恨みがあるのか? ぼくは何もしてないだろう!?」


ぼくが叫んだ瞬間、ぼくの体がふわりと浮いて、床にたたきつけられた。


「痛いっ! 何をするんだ!?」


「これしきのことで痛い? あなたのせいで、クリスティーヌ嬢とライアンはどれだけ痛みを感じたか! あなたはふたりを殺したんだ」


「ぼくは誰も殺してない! ふたりとも生きてるじゃないか!」


ダグラスの目がスーッと細くなった。


「クリスティーヌ嬢を自死においこみ、そのことで、ライアンの心も殺したくせに、何を言う。奇跡的に、クリスティーヌ嬢は生きて戻ってくれたが、そうでなければ、ライアンの心は死んだままだった」 


「そんなのはライアンの勝手だ! ぼくは関係ないだろう?」


「そうですか……。それなら、これから、あなたの心がどうなろうが、あなたの勝手ですね。子どもの頃、ライアンをいじめるよう誘導して泣かせたこと。クリスティーヌ嬢を殺し、ライアンを1年もの間泣かせたこと。絶対に後悔させてやる。これから、その何十倍、いや、何百倍も泣いてもらおうか……」


そう言って、恐ろしく冷たい視線で僕を射抜いたダグラス。


「あ、そうそう。この鏡、いらないと思うのなら、そこにある棒で簡単に割れます。割れば、二度と映像は映りませんので」


そう言って、立ち去っていった。


◇ ◇ ◇


すぐに、ぼくは鏡に現れるクリスティーヌの後ろ姿だけを楽しみにするようになった。

顔が見えないもどかしさ。

すぐに消えるもどかしさ。


しかも、いつ映るかわからないので、ぼくは昼間の間、鏡をずっと見続けている。


あれから、ダグラスは来ない。


何度か脱出しようとしたが、扉に触れたとたん、気を失ったり、ビリビリと痛みが走ったり……。

痛い目にあうだけなので、すぐに、脱出はあきらめた。


そして、一日に数回、人形みたいなメイドがくる。

食事を持ってきて、風呂の準備をし、掃除をする。

ずっと無言で無表情。


人間ですらないのだから不気味だ……。


鏡に映る自分の顔が、すっかりやつれた頃。

クリスティーヌの隣に、赤い髪の背の高い男の後ろ姿が現れた。


ぼくは絶叫した。


「ライアンッ! なんで、おまえがそこにいる!?」


その瞬間、ふたりの後ろ姿は消え、やつれた自分の顔が映る鏡に戻った。


クリスティーヌの隣に、なんで、あいつがいるんだ!?

そこは、ぼくの場所だったのに……。


そう思ったら、涙が止まらなくなった。


こんなのは、見たくない! こんな鏡はいらない! 

そうだ、ダグラスが鏡を割ればいいって言ってた……。


ぼくは鏡の横においてあった木の棒を手にとった。

思いっきり振り上げる。


手が止まった。


もし壊したら、もう、二度と、クリスティーヌの姿を見ることはできない……。

そうしたら、ぼくは何を楽しみに生きればいい?


こんな、何もないところで、そんなの無理だ。


結局、ぼくは鏡を壊すことをやめた。


そして、毎日、鏡を見ている。


その後も、ライアンが現れる回数が増えていった。


そのたびに、ぼくは泣きわめき、髪をかきむしり、怒りにまかせて、壁を壊す。

が、その瞬間、壁は魔術で、すぐに元にもどった。


こんな日々が、どれくらい過ぎた頃だろう……。


ダグラスがやってきた。


「久しぶりですね、ムルダー様。忙しくてこれませんでしたがお元気でしたか?」

と、華やかに微笑んだ。


「元気なわけないだろう? 早く、ここから出せ、ダグラス!」


「出て、どうされるおつもりで? もう、あなたの居場所は王宮にはないのですよ?」


「王宮など、どうだっていい! すぐに、クリスティーヌに会いに行く! このままでは、ライアンにとられる!」


「しぶといですね。あ、そうそう。これ、あなたにも差し上げます」


そう言って、ダグラスが差し出してきたものを手にとった。


白いドレスを着て、幸せそうに微笑むクリスティーヌ。

その隣に、ライアンが恥ずかしそうに微笑んで立っていた。


「なんだ、これは……?」


「この度、無事に、クリスティーヌ嬢とライアンが婚約しましてね。それは、身内に配った記念の絵姿ですよ。特別にあなたにも差し上げます」


「嘘だっ! クリスティーヌはぼくの婚約者だ! ライアンと婚約なんてするわけがない!」


「事実ですよ。ふたりでいる姿も見てるんでしょう? その鏡で」


「そうか……。全部、おまえの仕業か!? この鏡で嘘を見せて、婚約したなどと嘘を信じこませて、ぼくを悲しませようとしているんだな! その手にはのるか!」


「そう信じたかったら、信じていればいい。多忙なもので、私はしばらく来られませんが、まあ、ゆっくり考えてみてください。では」


そう言い放ち、ダグラスは去った。


◇ ◇ ◇


あれ以来、ダグラスは来ていない。


ぼくは何度も何度も鏡を壊そうとした。

でも、壊せない……。

壊したら、もう、クリスティーヌに会えないからだ。


例え、ライアンと腕をくんで歩くクリスティーヌの後ろ姿が見えても。


更に時がたち、ライアンとクリスティーヌと小さな子どもの三人で歩く後ろ姿が見えても。


ぼくは泣きわめき、暴れながら、いまだに鏡だけを見続けている。



※ムルダー視点、やっと終わりました。

酷いキャラなのでさくっと終わらせたかったのに、長くなってしまい、読みづらいところも多々あったかと思います。最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました!

次回からは別の登場人物視点となります。よろしくお願いいたします!


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