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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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ムルダー王太子 30

ダグラスが嘘くさい笑みを消して、何かを考えているよう。


「それにしても、短剣か……。見るべきものを微塵も見ていないくせに、見なくていいものをたまたま見るとはね……」


ボソリとつぶやいたダグラス。


「なにを言っている?」


「いえ、こちらの話です。……が、騎士団の調べでは、短剣はなかったと聞いております。誰も見た者はいないし、近くにいたライアンも見ていなかったと証言したようです。おそらく、クリスティーヌ嬢が消えた時に、短剣も一緒に消えてしまったのではないかと……」


「その報告はぼくも聞いた! だが、ぼくは、はっきり見たんだ! クリスティーヌが消えたあと、確かに、短剣が床に転がっていた!」


「幻覚では? あの混乱のさなかです。無理もありません」


「違う! 幻覚なんかじゃない! 絶対にそうだった! でも、次に見た時はなかった。それなら、ライアンしかいない。一番近くにいたライアンが盗ったに違いないんだ!」


「つまり、ライアンが嘘をついていると?」


「そうに決まっている! あいつはクリスティーヌに執着していたから、クリスティーヌの短剣が欲しかったんだ! だから、嘘をついて、自分のものにした。ライアンは卑怯者だ!」


そう叫んだとたん、ドンッ! という大きな音がして、ぼくの足元の床が大きく揺れた。


立っていられなくて、ぼくは派手に転んでしまった。


もしかして地震……!? 


転がったまま、まわりを見ると、みんなが驚いたように床に転がったぼくを見ている。


え、ぼくだけ……?


ふと前を見ると、冷たい目でぼくを見下ろしているダグラス。


ぼくは、あわてて立ちあがった。


「今のはなんだ? なにが起きた?」


「失礼しました、ムルダー様。ちょっと、魔力が暴走して、ムルダー様の足元に落ちてしまいました」


「は? 魔力が暴走……?」


「ええ、人に向かって魔力をぶつけるなんて、魔術師として、やってはならないことです。が、どうも、疲れがたまってたみたいで……。お恥ずかしいことですが、勝手に魔力が暴走したようです。申し訳ございません。でも、わざとではないので、お許しを」


悪びれずに言うダグラス。


「は? わざとでなかろうが、王太子のぼくに向かって、魔力をぶつけるなんて許されるわけがないだろう!?」


「そうなのですか? それは、おかしいですね……」

と、小首をかしげるダグラス。


「何がおかしい?」


「クリスティーヌ嬢が追いつめられて自死に至ったのは、ムルダー様が婚約解消したからというのは周知の事実です。反省もせず、側妃にして、大事にするつもりだった……とか、意味不明な言い訳をされていたことを、国王陛下からお聞きしました。つまり、ムルダー様は、そんなつもりじゃなければ、例え、人を自死に追い込んでも、自分のせいではないと思えるんですよね? それなら、そんなつもりじゃなければ、何をしても許してくださる方なのではないのですか?」

と、一気にしゃべったダグラス。


いきなり、凍てつくような気を放ちだした。


「……それに、クリスティーヌ嬢はご自分を刺したのですよ? どれほどの痛みと悲しみだったのか、あなたには想像すらできないでしょう。やはり、足元ではなく、実際に足に魔力をあててみても良かったですね。そうしたら、気づくこともあるかもしれませんし」


「ダグラス、何を……」


あまりの言われように怒りたいけれど、それよりも、ダグラスへの恐怖が勝って、言葉がでない。


ダグラスから流れてくる冷気に体の震えがとまらない。

体温もどんどん下がってくる。


「と、まあ、冗談ですけどね。……おや、ムルダー様? 非常に寒そうですが大丈夫ですか? まだ役目が残ってますから、健康には留意してくださいね。幸い、大事な仕事もないのですから、心置きなく、ゆっくり休んでください。短剣のことは、再度ライアンに確認しておきますので、気長にお待ちください」


そう言って、去ろうとしたダグラス。だが、足がとまった。


「あ、そうそう、言い忘れていました。あのルリ嬢、そろそろ限界でしょう? が、もう少し、このまま、あなたの婚約者でいていただいたほうが都合がいいんです。悪評うずまく偽物の聖女。貴族たちの目をロバート様にむけないための囮としては最高なんですよ。ということで、ルリ嬢がやる気をだせるよう、伝言をお願いしますね」


「ルリに伝言?」


「ええ。ルリ嬢のお好みにぴったりの男性と話をつけました。相手方も乗り気です。役目を無事に果たしてくださるようお願いしますと、お伝えください。では」


そう言うと、まだ、体の震えがとまらないぼくを残して、ダグラスは立ち去った。


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