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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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ムルダー王太子 26

よろしくお願いします!

「確かに、魔術に秀でたダグラスなら、異世界の全く未知の薬を分析して、この国の役にたてることも可能だろう。ルリよ。良かったな。薬をダグラスに渡せば、そなたの望む生活ができる」

と、父上が、ルリに言った。


が、ルリの顔つきが変わった。なんだか、焦っているように見える。


「どうしましたか? ルリ嬢。ご心配なことがあれば、私になんでも言ってください。私はあなたの味方ですよ」

そう言って、ルリを安心させるように語りかけるダグラス。


味方…? 悪魔が人間をたぶらかすのを間近で見ているような、胡散臭さだ。


が、ルリには効いたみたいだ。

ほっとしたような顔をして、すがるように、ダグラスを見た。


「あの、ダグラスさん…! 私、ダグラスさんに薬を渡したいんだけど、もうないんです!」


「もう、ない?」


「あの一回分だけ、ポケットに入ってたんです! 一回分しか持ってなかったけど、私、熱で苦しんでる人がいるって聞いて、いてもたってもいられなくて、私の薬で助かるならって…そう思って、使ったんです!」


なんだ、ルリは、もう異世界の薬を持ってないのか…。

だが、一回分しか持ってないと、何故、今まで黙ってたんだろう?


と、思ったら、大神官が驚いたようにルリに言った。


「まだ、薬をお持ちのような口ぶりだったかと…」


「え? 私、持っているなんて、言ってませんよね?!」

と、大神官にむかって言い返すルリ。


「まあ、確かに、はっきりとは…」

更に具合が悪そうになる大神官。


その様子を見ると、貴重な薬をまだ持ってそうな感じをちらつかせながら、話をしていたんだろうと想像がつく。


まあ、でも、薬がないのであれば、ダグラスにとったら、ルリは、もう、価値がないってことだな。

これで、ダグラスがルリを屋敷に連れて行き、勝手に異世界へ戻す危険性はなくなった。


そう思って、ダグラスを見た瞬間、ぞわっとした。

目の冷たさが増している…。


「なるほど、一回分だけお持ちだったんですね…。が、その貴重な薬を、惜しげもなく、神官に使われたなんて、ルリ嬢はお優しいんですね」

と、口調は優しく、見た目だけは美しい笑みをうかべたダグラス。


ルリは顔を赤らめ、ものすごく嬉しそうに言った。


「よく言われます! 私、いつも、自分のことより、人のために動いてしまうから…」

と、ルリ。


それは、一体だれのことだ…?

ルリは、妄想癖まであるのか、救いようがないな…。


「ですが、現物がないのは困りましたね…。それでは、ルリ嬢と取引ができない。でも、ルリ嬢のお優しい気持ちを無駄にはしたくない…。では、こうしましょう…。現物がなくても、その薬に入っている成分の名を聞くことで、取引といたしましょう。異世界の言葉でいいので、薬に入っていた成分の名を、教えてもらえないでしょうか?」


「え、成分…?」


「ダグラスよ。現物がなければ、異世界の未知の物質の名を聞いても、何もわからないのではないか?」


「国王陛下。私の魔力は、名を知れば、そこから、いくらか情報を得ることができます。まあ、時間はかかりますが、その薬を飲んだ神官の体と照らし合わせながら、じっくり調べていきたいと思います」


「おお! さすが、ダグラスだな。期待しておる」

と、父上が表情をゆるめた。


ぼくには見せない、その顔…。もやっとしたものがわいてきた。

父上は、息子のぼくよりも、甥のダグラスを信用している…。


やっぱり、ぼくの味方はクリスティーヌだけだ。早く取り戻さないと!


と、決意をあらたにしていると、ルリが悲壮な声をだした。


「あの、ダグラスさん! …私、成分…、度忘れしてしまって…。でも、熱がさがる薬なんです!」


「そうですか…」


やわらかな微笑をうかべたまま、そう答えたダグラス。

気のせいか舌打ちが聞こえたような気がした。


「では、その薬を、どういう場合の病に飲ませていいかなど、薬のことについて、詳しく教えてもらえますか? 熱がでるには、当然ながら原因がある。医師ではないルリ嬢が、その病までもはわからなくとも、神官に飲ませようと即座に判断されたくらいですから、神官の症状が、その薬にあっていたのでしょう?」

と、ダグラス。


「そんなの…わからない。熱がでてるって聞いたから、ちょうどいいかなって思っただけだし。それに、一晩で熱はさがって、助かったんだもん。なにも問題ないですよね?」


「ええ、結果的には…。つまり、ルリ嬢は、持っていた薬に詳しい知識はなかったものの、なんの躊躇もなく飲ませたのですね…。要するに、運がよかったと…。ルリ嬢はなんと強運な持ち主なんでしょう。伴侶になる方は、幸運ですね」


「え? あ…そうなんです! 私、すごーく強運なんです! 私をそばにおいてたら、ダグラスさんもますます…」

ルリが、ここまで言ったところで、ダグラスが凍り付きそうな声で遮った。


「ですが、私は運を欲しいとは思っていません。自分の力で勝ち取りますから。…では、ルリ嬢。残念ながら、私との取引はなかったことに」


「そんなっ! ダグラスさん、お願い! 考え直して!」

目をうるませる、ルリ。


「ルリ嬢。私、しつこい女性は嫌いなんです。ああ、あなたも同じでしたね」

冷たい声で、言い放ったダグラス。


思わず、その顔に鳥肌がたった。

美しい笑顔が凶暴すぎて怖い…。


さすがのルリも息をのんで、だまりこんだ。


「わかってくださってようで、良かったです。ルリ嬢」

と、静まり返った部屋に、ダグラスの満足げな声が響いた。


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