ムルダー王太子 24
よろしくお願いします!
父上が、そんなルリを見て言った。
「では、そなたは、ムルダーと結婚しないのなら、これからどうするつもりなのだ?」
「それは…、神殿からでて、自由にしたいです! 好きな人とも結婚したいし!」
「なるほど…。確かに、そなたは聖女でもなんでもない。神殿に置いて、保護する義理もない。そうだな、大神官?」
父上に、いきなり名指しされた大神官が、こくこくと首をたてにふった。
「もちろんでございます。私のせいで、ルリ様は聖女ではないのに、神殿に留め置いてしまいました。本当に申し訳ございませんでした…。どうぞ、ご自由になさっていただければ…」
最後のほうは消えいるような声になった。
大神官は今にも倒れそうなほど顔色が悪い。
国王がうなずいた。
「わかった。…では、ルリ。そなたを神殿の保護下から外し、平民として戸籍を用意する」
「は? 平民…?」
「ムルダーと結婚しないのであれば、当然、平民となるだろう。貴族というわけにもいくまい。そうなると、貴族の仕事があるが、そなたでは無理だろう。が、平民であれば、仕事を選ぶことができる。自分にあった仕事をして、自由に生きればよかろう」
「はあ? ちょっと、平民ってなんで? それに、なんで、そんな一般人みたいに働かないといけないの?! 私は貴族みたいに、大きな屋敷にすんで、きれいなドレスを着て、贅沢に暮らしたいんです! だって、私、異世界からきたんですよ?! 特別な存在ですよね?!」
「ほお…。それが、そなたの望む自由なのか…? まあ、いい。…確かに、この国に、異世界人は、そなた以外はいない。そういう意味では特別だ。だが、珍しいだけだ。聖女であったり、異世界の知識をいかした価値ある仕事を担ってくれるのであれば、貴重な存在と言えるのだが…。そういえば、元いた世界では、何をしておった?」
「学生ですけど…」
「何か研究でもしておったのか?」
「べつに。だって、ただの学生だったし」
ルリが、いらだった口調で答えた。
まあ、ルリは、勉強ができなさそうだしな…。
そんなことよりも、平民になったら、会う機会がない。
あの短剣を探し出したら、すぐに、ルリを異世界に戻したいのに。
そのためには、身近に置いておいたおきたいが…どうすればいいんだ…?
「国王陛下。それならば、私が、ルリ嬢に、ひとつ提案してもよろしいでしょうか?」
と、ダグラスが口をはさんだ。
「よい、好きにせよ」
「ありがとうございます、国王陛下。…では、ルリ嬢」
ダグラスが艶やかに微笑みながら、ルリに呼びかけた。
「はいっ」
ルリの顔が赤く染まった。
「もし、あなたが私の願いを聞いてくださるのなら、私があなたの望む生活を保障しますよ。大きな屋敷がいるのなら、用意するし、ドレスも宝石も、好きなだけ買ってくれていいです」
「えっ? ほんとに?!」
「もちろん、本当ですよ。だから、私の願いを聞いてもらってもいいでしょうか?」
そう言って、艶やかな笑みをたたえて、じっと、ルリの顔を見た。
美しい笑顔に怖さしかない。
どんな願いかと思うだけでも、ぞっとするな…。
「もちろんです! あの、私も…、会ったばかりだけど、ダグラスさんのことはいいなって思ってて…。あの…ダグラスさんとなら、…私、結婚してもいいです」
ダグラスをとろけるような目で見ながら、恥ずかしそうに言ったルリ。
は…? なぜ、そうなるんだ?
まさか、ダグラスの願いが、ルリとの結婚などと考えているのか?!
やっぱり、バカだ!
まわりを見ろ!
母上は、あきれはてたような目で、ルリを見ている。
「なんで、このような人を、聖女だなんて思いこんだのか…」
大神官のささやくような、嘆きの声が聞こえてきた。
父上は、眉間にしわを寄せている。
笑ってはいるが、ダグラスの目は、まがまがしい。
ダグラスの願いが何かわからないが、婚約や結婚などでないことだけは、はっきりと言える。
まあ、もしも、ルリが本当の聖女であったならば、その力が目当てで、近寄ることはあるかもしれない。
そう、ダグラスは、間違っても愛などで動く男ではない。
単純なライアンとは違って、何を考えているのか、まるでわからない。
本当に不気味な奴だからな…。
そんなダグラスの言葉を、期待をこめた目で待っているルリ。
ダグラスは、そんなルリに向かって、ひときわ、華やいだ笑みを見せた。
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