表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/69

3話目です。 8/9 誤字報告ありがとうございました! 修正しました。

ふわふわとした浮遊感。

私は、今度こそ、死んだのね…。


そう思っていたら、わあーっという歓声が聞こえた。

目をあけると、まぶしい…。


飛び散る光がおさまると、大勢の人たちが私を見ていることに気がついた。


見慣れた光景…。そして、見たことがある人たち…。

ああ、これって、前の世界に戻って来たのね…。


「クリスティーヌ!」

そう叫んで、走って来たのは、ムルダー様だ。


え…? ふと、自分の体を見おろすと、腰までの波打つ銀色の髪が見える。


ああ、私の体に戻ったのね…。


目の前に立った、ムルダー様。

以前より、少し背が高くなってはいるけれど、それだけ。何とも思わない…。


もう、私の心からは完全に消えた人なんだわ…。


「クリスティーヌ、生きてたんだね! 良かった! 去年、君が自分を刺した時、君の体は光に包まれて消えた。そして、また、光に包まれて戻ってきた。あんなに血を流していたのに、生きて帰ってくるなんて、君こそが本物の聖女だったんだね! しかも、ぼくの18回目の誕生日を祝うパーティーに戻ってきてくれるなんて嬉しいよ。やっぱり、クリスティーヌがぼくの妃になる人だ!」

ムルダー様が、興奮気味に言った。


私の心はどんどん冷えてくる…。

一体、この人は何を言っているのかしら…?


こんな人を愛して、傷ついて、死のうとしたなんて、やっぱり、私って馬鹿だ…。

命がもったいなかったわ…。


私をだきしめようと手を伸ばしてきたムルダー様の手を振り払った。

ムルダー様がショックをうけたような顔をする。


私は静かに言った。

「私は聖女ではありませんし、ムルダー様を愛した私はあの時に死んでおります。それに、ムルダー様にはルリ様がいるじゃありませんか」


「ルリは聖女じゃなかったよ。異世界の薬を少しだけ持っていただけで、ルリ自身には何の能力もない。王太子妃教育を施しても、何も覚えられない。それでいて、わがままばかり。王太子妃になるのは無理だ。本人も嫌がり、私との婚約は解消になった。ルリを好きな伯爵に嫁ぐそうだ。だから、クリスティーヌはルリのことを何も気にしなくていいんだよ。王太子妃になってくれるよね?」


は…? 

ムルダー様の勝手な言い分にあきれすぎて、言葉がでてこない。


「お断りします」


その時、

「クリスティーヌ! ありがたく受け入れなさい!」

そう言いながら、近づいてきたのは、私の両親と妹だった人たち。


「お断りです。赤の他人が口をはさまないでいただけますか?」


「赤の他人?! 親に向かってなんて口をきくんだ!」

と、父親だった人がどなった。


「ひどいわ、お姉様! 家族なのに!」

と、悲壮感たっぷりに叫ぶのは、妹だった人。


「ひどいのは、どちらでしょう。家の為に王太子妃になるようにと言って、私にだけ厳しくした両親。甘やかされているくせに、私の物ばかり欲しがり、奪っていく妹。両親は妹とばかり出かけ、いつも、私だけ取り残され、勉強をさせられていました」


「それは、あなたのためを思って…!」

母親だった人が声をあげる。


私は無視して、話を続けた。

「私はずっと苦しかった…。それなのに、王太子妃になれないと知ったとたん、あなたたちは、私を見限った。すぐに聖女様を養女にして、聖女様に笑いかけていた。絶望した私には、なぐさめの言葉ひとつかけなかったのに…。そんな人たちを、家族だなんて思えませんよね。自分を刺したあの時、両親に愛され、妹とも仲良くしたかった私も死にました。どうぞ、あなたたちも、私のことはお忘れください」


私の言葉を聞いたまわりの人たちがささやきだす。


「アンガス公爵夫妻、実の娘にひどいな…」


「確かに、自分の娘が婚約解消されたのに、あたらしい婚約者を養女にするなんて…」


「あげくに、また王太子妃になれると思ったら、家族面するのも勝手すぎるわよね」


「そういえば、あの妹、わがままで有名だったよな…」


いたたまれなくなった両親と妹だった人たちは、あわてて、私の前から去っていった。


ムルダー様が泣きそうな顔になった。


「ごめん…、クリスティーヌ。でも、ぼくは、やっぱり、クリスティーヌと結婚したい。これからは、絶対に裏切らない。だから、やりなおしてもらえないだろうか!」


「ごめんなさい。ムルダー様。もう、無理なんです。何度も言うようですが、ムルダー様を愛した私は、完全に死にました」

そう言って、頭をさげた。


ムルダー様が、更に何か言おうとした。


「黙れ、ムルダー! あきらめろ! こちらの勝手で婚約を解消したのに、無理に婚姻することなどできぬ。アンガス公爵令嬢…いや、クリスティーヌ。色々、申し訳なかった。これからは、命を大事に生きてくれ」

国王様が私に向かって、そう声をかけた。


私は貴族令嬢として、国王様に最後のカーテシーをしてみせる。


そして、静まりかえった広間をつっきり、王宮の外へでようとしたとき、背後から走ってくる足音が…。


「待って、クリス!」


懐かしい声に、すぐさま振り返る。


「ライアン…!」


「ほんとに、クリスか?! 顔をしっかり見せてくれ!」

そう言って、私の顔をのぞきこんできた。


そして、ほっとしたように息をはいた。


「ほんとに、クリスだ…。生きてる…。良かった…。生きていていくれて、…本当に良かった…」

何度もつぶやくライアン。目から大粒の涙がこぼれおちる。


「ライアン…。あの時、私のために泣いてくれて、本当にうれしかった。今も、私のために泣いてくれて嬉しいわ!」

私の言葉に、更に泣きはじめたライアン。


公爵家の次男で、騎士団に入っているライアン。

たくましい体を縮こまらせて泣いているライアンは、小さい頃と同じだわ…。


ライアンと、はじめて会ったのは、王太子妃教育の合間に休憩にでた王宮の庭。

公爵家のライアンは、王太子様の側近候補として、同年代の高位貴族の子息たちとともに、王宮に集めらていた。

その時、大人しかったライアンは、いじめられたらしく、植物の陰で泣いていたのよね。


私は、ハンカチでライアンの涙をふいて、泣きやむまで頭をなでた。

それがきっかけで、私たちは仲良くなった。

王宮で、たまに会えば、大好きな本の話をしたっけ。


思い出したら、笑みがこぼれた。

自然に笑えたのは、いつぶりかしら…?


「ライアン、ありがとう」

そう声をかけた私の心は、とてもおだやか。


こうして、自分を犠牲にして生きる私は死にました。

これからは、自分の気持ちを大事に、そして、自由に生きていきたいと思います。



その後、アンガス公爵家と縁を切って平民になった私。

それなのに、何故か、公爵家のご子息ライアンと結婚することになるのは、また別のお話。



(完)

これにて、短いですが本編は完結しました。

読んでくださった方、ありがとうございました!


※ 現在、アルファポリス様で番外編を更新しております。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ