ムルダー王太子 17
よろしくお願いします!
あとからあとから、怒りがわいてくるため、ルリから視線をそらした。
すると、ルリの後方で付き従っていた大神官の顔色がやけに悪いことに気が付いた。
「ねえ、あの方、聖女様じゃないってこと…?」
「自分で否定してたからな」
「クリスティーヌ様のことだって、助けようともしなかったものね」
「確か、治せるわけないって、叫んでなかったか?」
「でも、大神官様が大々的に聖女だとおっしゃっていたわよね」
「じゃあ、大神官様が声高に言っていた、あの奇跡とやらは何だったのかしら?」
「まさか、嘘…?」
「わたくし、神殿に沢山の寄付をしてしまいましたわ!」
などと、貴族たちの、ルリと大神官を噂する声が、はっきりと聞こえてくる。
ああ、さっきのルリの発言か…。
ルリも、自分のことが言われていることに気が付いたらしい。
一瞬、顔色が悪い大神官を不満げに見た後、ぼくに体をすりよせた。
「ムルダー様…! こんなことが起きて、私、怖くて、動揺してしまって…。思ってもみないことを言ってしまいました…!」
まだ挽回できると踏んだのか、まわりに聞こえるように、変な芝居をしかけてきたルリ。
が、潤んだ目で、ぼくを見上げるその顔に苛立ちしかない。
すぐさま目をそらし、クリスティーヌが消えた場所に目を移す…。
そこには、クリスティーヌの首に刺さっていたはずの短剣が、なぜか床に転がっていた。
ぼくは、それを見て閃いた。
そして、すぐにルリに向きなおった。
「そうだ、ルリ! 君が異世界に戻ればいいんだ!」
「…え? どういう意味?」
あっけにとられた顔で、聞き返すルリ。
「君さえいなくなれば、クリスティーヌが戻ってくると思うんだ!」
ぼくの言葉に、ルリが目を見開いた。
ぼくは、興奮しながら先を続ける。
「異世界の君が現れた時も、クリスティーヌが消えた時も同じように光に包まれていた。つまり、クリスティーヌは異世界に行ってしまったんだ! だから、ルリが異世界へ戻れば、クリスティーヌは帰ってくる」
「はああ?! 何、バカなこと言ってるの?!」
と、すっかり芝居をやめ、乱暴な口調になったルリ。こっちが素なんだろう。
「そもそも、ルリが異世界から来なかったら良かったんだ。全て上手くいってた。クリスティーヌだって、いなくならなかった。だから、早く異世界へ戻ってくれ!」
「戻り方なんて知らないわ! それに、あの女なら、もう死んでるでしょ?! それに、私が王太子妃になるんだから、それでいいじゃない! あの女のことなんて、きっぱりあきらめなさいよ!」
「クリスティーヌは死んでない!! …ああ、早く、ルリには異世界へ戻ってもらわないと…。そうだ、あのクリスティーヌの短剣! ルリにクリスティーヌの物を触らせるのは、本当は嫌なんだけど…仕方がない。あれでクリスティーヌみたいに自分を刺してみてよ。そうしたら、ルリも消えるんじゃない? なら、クリスティーヌが戻ってくる!」
「ちょっと! 私に死ねって言うの? 頭おかしいんじゃないの?!」
わめきだすルリ。
あー、うるさいな!
そんなことより、さっさと消えて、クリスティーヌをぼくのそばに返してくれ!
ルリが嫌がるなら、仕方がない。
ぼくが刺してでも、クリスティーヌを取り戻す…!
ぼくは、床に転がっている短剣をひろいにいこうとした。
が、あれ…?! ない! あの短剣がない!!
その時だ。
いつの間にか、近づいてきていたライアンがぼくの胸倉をつかんだ。
「おまえのせいだ! クリスを…、追いつめてっ!!」
「クリスなどと呼ぶな! ぼくのクリスティーヌだ!」
ぼくは叫んだ。
ぼくにとったら、胸倉をつかまれていることより、ライアンが白い騎士服にクリスティーヌの血をつけていることに怒りがわく。
すぐに、数人の騎士たちがライアンを取り押さえた。
同僚である騎士たちがなだめているが、ライアンは、手負いの獣のような目で、ぼくを見据えたままだ。
そこへ、一人の男が、かけよってきた。
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