ムルダー王太子 14
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パーティー当日、いつもは、クリスティーヌのところへ迎えに行くのだが、さすがに、婚約を解消することになる今日は行けない。アンガス公爵家に、その旨伝えている。
そのかわり、ルリを迎えに、神殿に向かった。
部屋に通されると、王宮から派遣されたメイドたちが、ルリを飾り立てていた。
聖女としての披露目なのに、聖女の印象とはまるで違う、豪華なドレス。
色こそ白だが、腰から大きくふくらんだ形のドレスは、レースをふんだんに使い、見事な刺繍が施されている。
しかも、目をひくのは、首に輝く真っ赤な宝石のネックレス。
ルリは、ぼくに向かって、くるっとまわってみせた。
「ムルダー様、ほら、きれいでしょう? 私、お姫様みたい! あ…、みたいじゃなくて、もうすぐ、本当にそうなるんだった! フフフ」
と、上機嫌のルリ。
「ああ、すごくきれいだよ」
「それに、このネックレスも私にすごく似合ってるでしょう?!」
「ああ、よく似合ってるね」
と、微笑みながら、そう言うと、ルリが顔を赤らめた。
本当に、ルリは、ぼくの容姿が好きだな。
ルリが着けているネックレスは、王太子の予算から、ぼくが購入したもの。
正確には、宝石商を呼んで、ルリが自ら選んだ。
最初は、ぼくの目の色と同じ青い宝石を選ぼうとしたから、「赤い宝石のほうが高価だよ?」とささやいたら、すぐに、こっちに変えたルリ。
ちなみに、値段はどれも予算内のものしか持って来てもらってないから、大差はない。
だけど、ぼくの目の色の宝石は、やっぱり、クリスティーヌにだけ、つけてもらいたいからね。
本当なら、王太子が婚約を発表する時は、その令嬢には、王妃が用意したネックレスを身につけるのが、わが国の慣例だ。
もちろん、クリスティーヌとの婚約を発表した披露目のパーティーでも、まだ4歳だったクリスティーヌに、王妃である母上がネックレスを用意した。
小さな体に負担にならないよう、小さな花の形をしたネックレス。
真ん中に、ぼくの瞳と同じブルーの小さな宝石がついていた。
そのネックレスをつけて、嬉しそうに微笑むクリスティーヌは本当にかわいくて、妖精みたいだったな…。
しかも、そんな小さな宝石なのに、クリスティーヌは、いまだに大事にしている。
チェーンの長さを直して、大事な場面でよくつけている。
本当に、ルリとはえらい違いだ。
だから、ルリも本来なら王妃が用意したネックレスをつけるはずだったけれど、母上は断固拒否。
ルリを絶対に認めないと言っている。
母上に、ルリを王太子妃にすると伝える前、父上からは釘を刺された。
「愛しているからクリスティーヌを側妃にするなどという、おまえの勝手な考えを、絶対に王妃には言うな」
って。
そんなこと言われなくてもわかってる。
父上はぼくをなんだと思ってるんだろう?
王妃である母上に言うわけがない。傷つくじゃないか!
そして、父上同席のもと、まずは、母上に聖女であるルリを王太子妃にすることだけを伝えた。
母上は愕然とした様子で、言葉がでないほどだった。
沈黙が続いた後、やっと、声をしぼりだした。
「クリスティーヌはどうするの…?」
「しばらくしてから、側妃にします。王太子妃の仕事はひきつづき…」
とまで口にしたとき、母上がぼくの頬を叩いた。
「ムルダー、正気なの?! クリスティーヌになんてひどいことを…!」
泣きだした母上。
「王妃。申し訳ない。全て、私のせいだ…」
父上が、母上に声をかけた。が、母上は聞こえていないようだった。
母上は、聖女の披露目のパーティーを欠席すると言ったが、父上が説得したのか出席することになった。
後日、母上に呼び出されたぼく。母上は、今まで見たことがないほど冷ややかな視線をぼくに向けて言った。
「ムルダー、今からでも聖女との婚約をやめると言いなさい。そして、クリスティーヌを王太子妃にするのよ。クリスティーヌが、あなたのために、どれほど苦労してきたかわかってるのでしょう?」
「もちろんですよ、母上。でも、ルリを王太子妃にする気持ちはかわりません。聖女なんですから、国のためにもいいのでは? それに、側妃ではありますが、クリスティーヌを迎えることに変わりはありません」
「…そう、気持ちは変わらないのね…。それなら、今日限り、あなたと親子の縁をきります。私はね、王妃として、王太子妃教育を管理する者として、クリスティーヌをずっと間近で見てきたわ。小さな子どもに、どれだけ過酷だったことか…。クリスティーヌは、あらゆることを犠牲にして、がんばってきた。そんなクリスティーヌを自分勝手に側妃にするなどと言う、あなたを、私は絶対に許せない。私が王妃であり、あなたが王太子である間は、その務めは果たしましょう。でも、母と子ではなく、あくまで、王妃と王太子というだけよ」
そう言うと、母上は、ぼくの前から去って行った。
母上は、クリスティーヌを娘のように思っているから、今は怒ってるけど、側妃にしたクリスティーヌを、ぼくが大事にしているのを見れば、怒りもとけるだろう。
そして、ついに、パーティーの始まる時間になった。
ルリは大神官や神官をひきつれて、聖女らしく入場してくるから、エスコートはいらない。
ぼくは先に広間へと入場した。
その瞬間、青いドレスに身を包んだクリスティーヌが目に入った。
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