ムルダー王太子 11
よろしくお願いします!
父上に聞かれた質問。ぼくが、婚姻を結ぶのはルリか、クリスティーヌか…。
はっ! そんなのクリスティーヌに決まってる!
ぼくが愛しているのは、クリスティーヌだけだ。
そう父上に答えようと思った時、父上の全てを見透かしたような視線とぶつかった。
子どもの頃から、ぼくを観察するように見る、この冷たい目。
ぼくを、王太子として見極めようとしている、この冷たい目。
王太子としてしか、ぼくを見ていない、この冷たい目。
ぼくは、父上から、息子ムルダーとして、愛されたことなんて一度もない。
まあ、それもそうか…。
だって、父上にとって、王妃である母上は、まわりに押し切られ、嫌々、政略で婚姻を結んだだけの相手。
その子どもであるぼくを愛するわけがない。
側妃の息子、第二王子のロバートは、辺境にひきこもっていると思っていたけれど、母上が言うように、大事な息子だから、かくまっているのかもね。
まあ、どうでもいいけど…。
そんなことを考えていたら、答えを待てなくなったのか、父上がまた口を開いた。
「ムルダー、先日も言ったが、もう一度だけ言う。クリスティーヌは得難い娘だ。完璧な王太子妃になるだろう。ムルダー、おまえは王太子だ。王太子として、自分にふさわしい伴侶はだれなのか、しっかり考えて答えよ」
父上が、強い口調で言ってきた。
ほら、やっぱり、王太子、王太子、王太子…。
父上は、ぼくを王太子としてしか見ていない。
それにしても、父上は、クリスティーヌのことを「得難い娘、完璧な王太子妃になる」と、先日も同じことを言った。
同じことを二度も言って忠告するなど、父上にしたら珍しい。
よほど、クリスティーヌを気に入っているんだな。
でも、それはそれで、気に入らない…。
父上に言われなくても、クリスティーヌのすばらしいところなんて、ぼくが一番わかってる。
父上の言うとおりになんてしたくない…、ふと、そう思った。
ぼくは、心を決めた。
そして、父上にはっきりと言った。
「ぼくは、クリスティーヌと婚約を解消し、ルリと婚約を結びなおします」
「なんだと…?!」
冷たく温度のない父上の目が、驚いたように、見開かれた。
父上の虚をつけたことに、薄暗い喜びが、わきあがってくる。
「ムルダー様! うれしいっ!」
ルリが、弾んだ声をあげた。
「聖女様、王太子様、おめでとうございます!」
と、早くも祝いの言葉を述べている大神官。
「おい、ムルダー。おまえは私の話を聞いていたのか?! 婚約するということは、婚姻を結ぶことになるのだぞ? …おまえは、クリスティーヌを選ばなくて、後悔しないのか?!」
言葉を重ねる父上は、いつもと違って焦って見えた。
ぼくは、にっこり微笑んで答えた。
「もちろんです、父上。ぼくは、ルリを愛していますから」
ぼくの言葉に、父上の琥珀の瞳が揺れた。
驚愕した顔。
父上でもそんな顔をするんだな…。
そう思ったら、自然と顔がゆるんだ。
ルリがそばにいるだけで、クリスティーヌだけでなく、父上まで、こんな顔をぼくに見せるなんてね…。
やっぱり、ルリは、ぼくにとって都合がいい。
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