中
2話目です。よろしくお願いします!
ぼんやりと目をあけると、そこは、まっしろい部屋だった。
白い服を着た、知らない人たちが私を見て、
「目をあけた! 良かった! もう大丈夫だ」
などと言っている。
…あれ? 私、死ねなかったのかしら…?
すると、いきなり、知らない男の人と女の人と少女が、部屋に入って来た。
え? 3人とも、黒い髪に黒い瞳…。
これって、あの異世界の聖女様と同じじゃない?
と思ったら、私をのぞきこみ、涙を流しながら言った。
「ルリ! 助かって、良かった!」
…え、ルリ? ルリって、だれ…? それにどこかで…って、聖女様と同じ名前よね…。
そこで思考がとまって、気を失った。
目が覚めたら、やはり、あの3人がいた。
話を聞くと、どうやら、私は死んだ時に、聖女様のいた異世界にきてしまったよう。
しかも、何故か、聖女様の体に入ってしまっている。
鏡を見たら、記憶にある同じ顔だもの…。
ちなみに、聖女様の今の年齢は16歳。あちらの世界と同じで私と一緒だ。
でも、なんでこんなことに…。
それと驚いたのは、聖女様の両親は私の両親とまるで違うということ。
聖女様をそれはそれは可愛がっている様子が伝わってくる。
「あの…私は、なぜ、ここに? ちょっと、記憶がなくて…」
と言うと、母親らしき人は憤ったように言った。
「ルリは、学校の階段から突き落とされたのよ! しかも、同じクラスの女子生徒だなんて、信じられないでしょう?! なんて、恐ろしいの!」
「突き落とされた…?」
「ええ。でも、安心して! もう、警察に捕まってるから」
ケイサツ…? 文脈からすると騎士団みたいなものかしら…?
ふと、両親の後ろに立っている少女と目があった。
複雑そうな瞳で私を見ている。
聖女様の姉でラナという人。
あの目…。ただ心配しているという感じではないわよね…。仲が悪いのかしら…?
1か月後。私は病院から家に帰った。
この1か月間で、この世界のことは、テレビというものや、看護婦さん、聖女様の家族の話から、ずいぶんわかって来た。
私のいた世界とは、あまりに違うので、驚きしかない。
そして、聖女様の家族のことも、うすうすわかって来た。
まず、両親は、大きな会社を経営していて裕福だ。
そして、その跡継ぎとして、姉のラナを厳しく育てている。
ラナはリュウという婚約者がいて、一緒に会社を継ぐらしい。そして、聖女様は、もともと体が弱かったこともあり、両親に甘やかされて育ってきたようだ。
ある日、私がラナの髪飾りがきれいだと思って見ていると、さっと外して、私に渡してきた。
「あげるわ」
そう言った。
「え? きれいだと思っただけだから、いいよ。ラナ…お姉さんのほうが似合ってるし…」
そう言った瞬間、ラナが私を凝視した。
「ルリ…。あなた、記憶がないんじゃなくて、別人みたいよね…」
「…どうしてそう思うの?」
内心ドキドキしながら、聞いてみる。
「ルリは、私の物をなんでも欲しがったから。きれいね、とほめるだけなんて、あり得ないもの…」
私の妹と似ているわ…。
どうやら、ルリは、物であれ、人の心であれ、なんでも、与えてもらうのが当たり前みたいに育ってきたみたい。
与えてばかりいた私と、与えてもらうばかりの聖女様。
正反対よね…。
私は一度も経験したことのない、人から与えられるということを、聖女様の体をとおして観察してみることにした。
とはいえ、聖女様のように、「あれ、欲しい。これがいい」などと、ねだることは言わない。
ただ、観察してみた。
今までの習慣が根付いているから、やはり、両親も姉のラナも、ことあるごとに、私に物をくれようとする。
それは、ラナの婚約者リュウもだ。
どうやら、聖女様は、姉の婚約者なのに、遠慮がない接し方をしていたらしい。
どうも、リュウの目に、婚約者の妹以上の熱を感じた。
とはいえ、中身は私。やめてほしい。なので避けた。
もしかして、聖女様は、姉の婚約者までもらおうとしてたのかしら?
まあ、実際、ムルダー様の婚約者におさまったわけだし、あり得るわね。
そんな感じで、愛情も物も十分与えられる疑似体験をしてみたが、それが一方的だと幸せだとは思わなかった。
1年がたち、この世界で、聖女様の体は17歳になった。
そんな時、事件がおこった。
ラナの婚約者、リュウが両親を説得し、中身は私である聖女様に婚約者を変更してしまったのだ。
私は抗議した。リュウのことは好きではないと。
なのに、聖女様の両親は「姉の婚約者を好きになるなんて、辛かったわね。でも、もう我慢しなくていいの。幸せになりなさい」と言った。
話が通じない…。何故か、リュウの話を信用しきっている。
もちろん、ラナにも、私はリュウのことは好きじゃない。そう言った。
なのに…。
「でも、リュウはあなたのことが好きなの…。もう、いいわ…」
ラナの瞳から力が消えてしまっている。
以前の私を見ているみたいで苦しくなる…。
私のようにはならず、ラナには幸せになってほしい…。
なんとか、リュウとの婚約をとりけそうと、聖女様の両親をひきとめ、再度、話をしていたその時、背後にドンッと衝撃を感じた。
「きゃああ! ラナ! なんてことをっ…! だれか、救急車!」
聖女様の母親が叫んだ。
ああ、私、刺されたのね…。
ラナにこんなことをさせる前に止めたかった…。
茫然としてるラナのほうを振り向いて言った。
「私はルリじゃないの…。ルリは、私の世界にいるわ…。ごめんね…ラナ。こうなる前にとめられなくて…。でも、あきらめないで…。私のようなラナ。どうか自由になって…」
ラナの目から涙が流れたのを見ながら、意識がとだえた。
あと1話で終了です。本日中に更新します。よろしくお願いします!