ムルダー王太子 10
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ルリが立ち止まり、頬を染め、美貌のライアンをうっとりとした目で見た。
が、ライアンは、ぼくとルリを射殺すような目で見ている。
やっぱり、クリスティーヌを愛してるんだな…。
ライアンの気持ちを思うと、思わず、笑みがこぼれた。
だって、クリスティーヌとなんの関係もないライアンは、表立ってぼくに怒ることすらできない。
ぼくとルリの関係を、クリスティーヌがどれだけ悲しもうが、ライアンはなぐさめることもできない。
そもそも、クリスティーヌをどれだけ愛そうが、クリスティーヌはぼくのことしか見ていない。
ライアン、なんて惨めなんだ…。
気分が良くなったぼくは、ライアンの射殺すような視線に、笑顔を返した。
ぼくとルリ、大神官は、国王が客と会う部屋に通された。
まず、父上は、ぼくを冷たい視線で見据えた。
「近頃、聖女と王太子の悲恋が、巷で話題になりはじめておるそうだ。ムルダー、真偽を申してみよ」
ぼくが答えようとした、その時だ。
「ごめんなさい!」
と、ルリが悲痛な声で叫んだ。
いきなり口をはさんできたルリを、驚いたように見る父上。
眉間に深いしわがよっている。
「聖女。それは、どういう意味だ?」
父上は、凍りつきそうな声を発した。
思わず、鳥肌がたった。
なのに、ルリは全く気にしていないようだ。
「ごめんなさい、私が悪いんです!」
と、芝居がかった様子で叫ぶルリ。
「…だから、それはどういう意味の謝罪なのだ」
父上の声がいら立った。
ルリは目を潤ませて、父上に言い募った。
「私がムルダー様を愛してしまったからです」
悲し気に目をふせてみせるルリ。
「愛…だと?」
「もちろん、悪いことだとは思っています。婚約者がいることは知っていましたから。でも、どうしようもないんです! 毎日、私のところへ来てくださり、寂しがる私を、なぐさめてくだったムルダー様…。そのお気持ちに心をひかれ、気が付けば、愛していました…。気持ちに蓋をしないと、そう思ったんです…。でも、ムルダー様も私と同じお気持ちだと思ったら、私、やっぱり、あきらめられなくて…。だって、ムルダー様のこと、本当に愛していますから」
と、ルリは、悲し気な声で言った。
ぼくは、あっけにとられて、ルリを見た。
よく、そんな嘘ばかりつけるな…。
毎日、ぼくが行ったこと以外、全部、嘘じゃないか…。
すると、父上が、小さな声でつぶやいた。
「なんて軽々しい愛だ…」
まるで、悪いものを食べたかのように、言葉を吐き出した父上。
が、自分の演技に酔っているのか、ルリには聞こえなかったよう。
父上は、今度は大神官に鋭い視線をあわせた。
「聖女はこう言っているが、大神官、そなたはどう思う? 遠慮なく申してみよ」
「はっ」
そう言うと、大神官は、ちらりとルリを見てから、話しだした。
「私から見ても、お二人は仲睦まじく、引き離すのは、もはや無理かと思われます…。もちろん、ムルダー様のご婚約者であるアンガス公爵家のクリスティーヌ様はすばらしいご令嬢で、非の打ちどころがありません。ですが、聖女様は特別な存在なのです。200年前に現れた聖女様も、王家に連なる方と婚姻を結ばれました。やはり、聖女様は、王族と婚姻を結ばれたほうが、国のためにもなります。しかも、聖女様とムルダー様は想い合っておられる。それならば、何を迷うことがありましょう。我が国の更なる繁栄のため、聖女様を王太子妃、そして、ゆくゆくは、この国の王妃にされるのが、よろしいかと思います」
そう言って、大神官は頭を下げた。
父上は、大神官の下げた頭を苦々しい表情で見てから、ぼくに視線を戻した。
「では、ムルダー。おまえはどうしたい? いや、どうするつもりだ? 聖女と婚姻を結ぶのか? それとも、このままクリスティーヌと婚姻を結ぶのか? ここで、はっきり答えよ」
と、父上が強い口調で、畳みかけるように聞いてきた。
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ムルダー視点は37話で終了し、その後は、ラナ視点のお話となります。
アルファポリス様にも投稿しており、現在、ラナ視点15話のところです。