ムルダー王太子 9
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「異世界からきた聖女は奇跡をおこした」
と、市井にもひろまりはじめた。
もちろん、大神官の先導のもと、神殿が聖女の存在をひろめているからだ。
神殿の威信を高めるために。
思惑どおり、神殿には、一目見ようと人々が連日押し寄せている。
癒しの依頼もあとをたたず、寄付も増えたそう。
が、肝心のルリは姿さえ見せず、神殿の奥で、大事に匿われている。
ルリ本人が、人前にでることを嫌がったからだ。
大神官は、「聖女様は謙虚なので、力をひけらかさないのです」と言った。
ルリが謙虚…?
疑問しかないが、聖女を崇拝している大神官にはそう見えるのか…。
大神官は、今や、ルリの言いなりだしな。
そんなルリに、ぼくは、毎日、会いに行っている。
まあ、今となっては、クリスティーヌに報告したいがために通っているようなものだけど…。
最初こそ、ルリを守らなければと思ってしまったが、とっくにその気持ちは消え失せた。
というのも、ルリは守らなければならないような存在ではない。
弱いどころか、図太いくらいだ。
が、すぐに、か弱そうな演技をして、みんなの気をひこうとする。
でも、その漆黒の瞳には、ぎらぎらしたものが目立つようになってきた。
そう思った頃、ルリの身の回りが、変わってきた。
どうやら、自分の希望を叶えさせ始めたみたいだ。
まず、着る服が変わった。
異世界の服は、丈も短く、こちらでは着られない。
そのため、最初の頃は、神殿の巫女が来ている服と同じもので、真っ白で装飾のない、足首まで隠れる長い衣を着せられていた。
が、今は、白い色ではあるものの、レースがふんだんに使われた豪華なドレスを着ている。
どうやら、ルリが、「知らない世界に来て寂しいから、せめて好きな服が着たい」と、言ったらしい。
人気のある仕立て屋が呼ばれ、ルリの意見を取り入れて、ドレスを沢山作ったようだ。
聖女であるため、ドレスの色は白にしてほしいとだけ、大神官はお願いした。
それだけではなく、ルリの住む部屋も、神殿らしからぬ豪華な家具が増えていった。
もちろん、それも、ルリの希望。
そして、ルリ専用の食事を作る料理人が雇われた。
これらは、全て、大神官が私財を投じて、ルリの希望を叶えているらしい。
自分の願いを叶えるため、まわりの人間を利用するルリ。
その立ち居振る舞いは、慣れているような気がする。
前の世界でも、そうして生きてきたんだろうと想像がついた。
更に、ルリは、ぼくのことを好きだと、やたらと言いだした。
どうやら、ぼくと結婚して、王太子妃になりたいらしい。
ぼくの婚約者、クリスティーヌのこともやけに気にしているしね。
だが、ルリは、ぼく自身を好きなわけではない。
この容姿と王太子という身分を気に入ってるだけだ。
もし、クリスティーヌが、ぼくのことをそう思っていたのなら、ぼくは、立ち直れないくらいのショックを受けるだろう。
でも、ルリであれば、むしろ、好ましいと思った。
何故なら、ぼくと似ているルリを見ると安心するから。
利用するのは、お互い様だしね。
ぼくは、毎日、ルリに会いに来て、話したことを、クリスティーヌに伝える。
その時の辛そうな顔を見ると、ぼくは、嬉しくてたまらないんだ。
そのために、ルリを利用しているぼくと、王太子というぼくを利用したいルリは、似た者同士だ。
そんな日々を続けていたある日、国王である父上に呼ばれた。
何故か、ルリと大神官も一緒だ。
父上の執務室に呼ばれると、護衛として、ドアの前に、ライアンが立っていた。
ぼくとルリを見たとたん、その緑色の瞳が、ぼくたちを鋭く射抜いた。
視線で殺されるかと思った…。
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